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姑ですもの!  作者: K
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子守唄

「落ち着かれないと思いますが、こちらで控えさせていただきますので何かあれば遠慮なくおっしゃってください」


 寝室に長椅子を運んでくるとジーンはドアの前で立つ。


「ジーンは寝ないの?」

「元々今日は夜警です。集中力を切らさないようにするため、一時間毎に仮眠はしますが、緊急時は寝ないように訓練しておりますので」

「じゃあその……一緒に寝てっていったら寝てくれるの?」

「えっ、あ、それは」


 なにやら青ざめたり赤くなるジーンに、あれっと望実は思う。ちょっと大人向けのグルナードに見つかったら取り上げられそうな小説に、女主人が気に入った美少女を男装させて愛でているシーンが出ていたがそういった誘いに取られたのかもしれない。


「違う。違うから。だってあの男、ベットに乗り上げて来たみたいで、横になると気持ち悪い……から」


 脚を捕まれた感覚がよみがえる。一気に吐き気が込み上げてくる。誰も助けてくれない冷たい目が望実を取り囲んでいる。服を紙切れみたいに破られて、ゴミみたいに床に投げられた。


「うっ……ぐ、あっ」

「妃殿下。申しわけありません。配慮が足りませんでした」


 ジーンはベットにすぐさま駆けつけて望実の背中を優しく撫でてくれる。


「男の人が嫌いなんじゃないの。憎いの。気持ち悪いの。けど、別に女性がいいってわけでもない。母が、寝るまでずっと側にいてくれてたから。床に引いたせんべい布団で寒いときは一緒に寝て、歌ってくれた。やさしいこのせかいはあなたのもの」


 あれっと望実はジーンから離れて立ち上がる。今の歌、ずっと日本語だと思っていた。寝れない子供に夜の眠りは怖くない。


「パパはだんろをまもっている。ママはベッドでてをにぎる。どんなおそろしいゆめがあなたをおそって、なくひがきても。きっとまもってくれる。いつかおもいだしてあなたがせかいをわたるとき。やさしいせかいはあなたのもの」


 何度も何度も聞いた歌だ。

 望実が泣くと必ず歌ってくれた。嵐の夜も、意地悪されて帰ってきた夜も、寂しくて真っ暗な中震えていた夜も。


「わたしのせかいはあなたのもの」

「ポメロ様の母君はお小さい頃に亡くなったと伺っていますが、記憶は残るのですね。妃殿下は歌がとても……」


 少し涙ぐんでジーンが言う。望実は首を振る。違うそこじゃない。大事なのはこの歌だ。


「ジーン、この歌わかるの?」

「ええ。聖典の一説から取られた女神が我が子に歌う子守唄です。この国ではあまり歌われませんが外の国では一般的な歌だと聞いたことがあります。大祭典の夜に国を渡ってきた美しい歌い手が竪琴を引きながら歌うのを聞いたことがあります」

「せかいをわたるとき。やさしいせかいはあなたのもの」

「今では扉をくぐり、世界を渡る家族や愛する人に送る歌としても使われるようですよ」


 ガンガンと脳の奥から何かが響く。

 ゲームの世界。見たことがない失踪した父親。贈り人。まるでここへ来ることを予知しているのかのような歌。優しい世界。


「わたし、なんでいままで思い付かなかったの?」

「妃殿下?」

「父が贈り人なら、母は? この世界の住人じゃなきゃどうやって……どこかに、肖像画……王の広間、寝室、執務室、図書室……図書室」

「妃殿下。どうされたのですか。おまちください」


 何度も母が捨てた落書きを見た。だから、わかるはず。声も聞かず図書室に走った。確かめるために。今までは一度も見ずに来た。自分の父親を知りたくなくて。望実が触れた扉はすべて錠もなく開く。月明かりが冷たく廊下を照らしている。


「肖像画」


 真っ暗な図書室をまっすぐに進む。パパはだんろをまもっている。ママはベッドで手を握る。

 図書室の暖炉の上にあるのは一番新しい肖像画だ。オランジュが王についた際は、扉の上に前王の肖像画がかけられる。暖炉の隣にある扉を開く。

 覆いが被さっている絵を見ると、オランジュによくにたオレンジ色の髪をした優しい笑顔がこちらを見ていた。王様だ。

 そして暖炉の上には黒髪の目付きの悪いにやりと笑う男がいる。


「パパは暖炉を守っている」


 カウンターからマッチを持ってきて火をつける。


「ママはベッドで手を握る」


 暖炉の彫刻をゆっくりと望実はなぞる。タンス、テーブル、椅子が蔦に絡まって浮いている。そしてベッド。手を伸ばしてベッドを押してみる。が、特になにもない。

 ベッドにいる我が子の手を握る時はどうなる?

 小さな子供用のベッド。暖かい火が部屋中に満ちて、母親は座り込んでベッドを見上げる。ベッドに何かが見える。

 望実は彫刻から光るなにかを取り出す。それはあの時取り出した宝玉によくにていた。ベッドの下からベッドの上の窪みへ。


「わたしのせかいはあなたのもの」


 宝玉をゆっくりと回すとギギギギと音が聞こえだす。やがて大きな歯車が回るような音が止まると暖炉の下に階段ができた。真っ暗な階段を見つめながら望実は宝玉を取り出す。宝玉は月の明かりに反応してかまっすぐに奥を刺すように光った。


「二番、えっと二番は、パパは地下をのぞきこむ。ママはパパを探しにいく。大丈夫。風が扉を叩いただけ。大丈夫。嵐はもうすぐ終わる。せかいはあなたえをまっている。めざめるときはもうすぐ。わたしのせかいはあなたのもの」


 突き当たりを押すと扉を叩くとガチャンと音がして扉が開く。望実は誘われるようにのぞきこむ。中にゆっくりと入って扉を閉める。その瞬間階段がゆっくりと上がっていき、暖炉の火が消える。

 ネビルやジーンが名前を呼びながら探し回っている地下を望実は歩いていく。

 ペッシュと歩いた神殿の隠し通路によくにている。土壁には不思議な絵がいくつも飾ってある。


「パパは扉のまえにたつ。ママはあなたをだきしめる。大丈夫。素通りしてくれる。色んな目があなたを探すとしても。あなたをみつけることはない。せかいがあなたをつつみこむ。わたしはあなた。あなたはわたし。もどれぬせかいはあなたのもの」


 Tシャツにジーンズ。着物にドレス。絵の中の人物はどう見てもこの世界の人ではない。突き当たりまで望実は走って、今度は重い石の扉の前にくる。


「扉の前にたつ。そしてだきしめる。だきしめる時も母親は屈む。あっ」


 床にあったとってをつかむ。扉が開き、黄金の光が輝く。望実が持っていた宝玉は部屋の中に転がると光を消した。望実は石をポケットにいれ、辺りを見渡す。百人はある肖像画。


「そろばん、電卓。漫画もある。これなに? キセルかな?」


 望実の寝室ほどの大きさの部屋にはおそらくこれまできた贈り人達が持ってきたものが入っていた。


「うわー特攻服。こっちはセーラー服にもんぺ?」


 急に日本が懐かしくなる。歌はなんて終わっていたっけ。もどれないせかいはあなたのもの。


「もどれない……いいえ、伝承には戻った贈り人もいると書いてあった。ならもどれないのは元の世界から見てのこちらの世界かもしれない」


 少し浮世離れしていた母だけど、この世界の人だとしたらどこの国の人なのだろう。祭りの時にそれとなく客人に聞いてみるのもいいかもしれない。


「なにか、なにか使えそうなもの。魔道具とか。そういうのないの?」


 望実は倉庫のようになっている部屋を漁って漁って漁って思い出はいっぱいだが、使えるものは特になにもないことにちょっと泣いた。



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