晩餐会①
新しいドレスに着替えると部屋ではオランジュが待っていた。
ペッシュは部屋に戻ったようだ。ペッシュに万が一を考えて日本語で手紙を書き、簡潔にネビルに頼みたいことを書いてほしいと伝える。使っていないと記憶は薄れるというしペッシュが漢字を読めることを願って手紙を絵本に挟み渡してほしいとミリヤに頼んだ。
「いたいですか?」
「大丈夫よ。これぐらい。靴もヒールが低いのに変えてもらったし」
「大変ならささえるのでいつでもよりかかって」
「ええ、ありがとう」
じーんとしながら晩餐会の広間にはいる。オランジュの斜め前にエスコートされながら望実が座ると、それを見て真っ正面の椅子にオランジュは座った。
「全員が席についたようですので晩餐会をはじめさせていただきます」
望実が声をかけると皆から祝福の挨拶があり、オランジュと望実が返礼をする。そして食事が始まった。
皆、貴族なので腹に色々なものを隠して笑顔で食事をしている。オランジュのナイフとフォークの扱いはかなり様になっていて、望実の方が気をぬけない。
そんな様子を見て王妃派の貴族たちも殿下は年齢よりずっと落ち着いて見えると満足そうだった。
ミラベルとミネオラも慣れたようすで食事をしている。落ち込んでいる様子はなく、望実はほっとした。
食事が終わり、社交の時間になる。
望実は一人一人に新しい薬ができたかもしれないという噂を流しながら、それぞれの管轄の地域の話を聞く。子供を皆が売らずにすむように少しでも支援をとお願いしながら、芝居がかったようすでハンカチで目元を拭う。やりたくはないが、女性が支援を求める場合、情に訴えるのが一番とグルナードに言われたからだ。
幾人かは隣にいる奥さまに急かされるように慈悲深い王妃にと援助を約束してくれた。また幾人かは交換条件のような提案をされた。すべてを覚えるのは無理なので側にいるグルナードと検討しますと答えた。
「妃殿下。おひさしゅうございます」
「エンデ伯爵婦人。すっかりよくなったようで安心しました」
エンデ伯爵婦人はポメロの結婚式のときに付添人をしてくれた女性でポメロと共にこの城に来たとコラーダがいっていた。かなり長く流行り病にかかっていたようで、ノバも苦戦していたと聞いた。
「ええ。妃殿下から譲っていただいた薬が見事に効きまして今はだるさや痛みが嘘のように調子がよいのです。ポメロ様のおかげですわ」
「それはよかった。実験に付き合わせているようで申し訳なかったのですが」
「ここまで回復できるとは思っておりませんでした。感謝します」
少しだけ声をはって話すと何人かのご婦人から薬について聞かれる。すべて先生に聞いてくださいでノバに押し付けた。
「それより、殿下もはれてご婚約なさったのですし、妃殿下もそろそろいかがなですか?」
急に聞かれた話に吹き出しそうになりながら望実は「今のところはありません」と答える。
「陛下がおなくなりになってまだ日がたっておりませんし、殿下の即位までは考えられません」
「あら、妃殿下。殿下が即位されるときには他国の王族や重要な任をおってきた貴族でいっぱいになります。その中から釣り合う殿方を見つけるのもよいかもしれませんね」
「ええ、そうですね」
伯爵に誰かが耳打ちする。望実はご婦人方から視線をはずし二人で会場を去る伯爵をこっそり追った。
「それで娘の様態が急変したというのは本当か? 」
「ええ、今はノバ様が見てくださって落ち着いておられます」
ほっとしたような伯爵の様子に嘘は見られず、望実はそっとその場から離れた。




