兄と妹
「お金、じゃなくて。それにしかつかえない券みたいのを作ってみるということですか?」
オランジュの言葉を補足するように、はじめてペッシュが口を開く。
「た、たとえばですが損したお金分を税金を少なくする券とか、ご飯をもらえる券とか、勉強できる券みたいにしたり」
「うん。悪くないと思う。ただもう少し具体的にできないかな。議会に出すならもっと煮詰めないといけない気がする」
ペッシュの発言にサガどころかミラベルも驚いたように見ている。自慢の娘ですと言いたいところだが興味深そうに見ているグルナードが気になるのでやめておく。
「損したお金はどうやって計算するのでしょうか? 今年とれたかもしれない作物等の値段でしょうか? それとも休んだ日数でしょうか?」
「誰もが平等って本当に難しいんだね」
「なら、一層どこの地域にもその娘がいった券をセットで配ってしまえばいいのではないでしょうか?」
「セットで?」
ミラベルを見ながらミネオラが言う。そう言えばゲーム内ではミネオラはずっとミラベルが好きな設定なのだが、いまはまだ兄弟のようだ。
「使わなくてもいいんです。冬に勉強できるよう学習する道具と券、今年の作物分のお金と来年の作物を買える券、今年の税の分のお金と来年の税を軽くする券、こんな風にセットにして各領主に渡すのはどうでしょうか?」
「ミネオラ、細かいところまでありがとう。ただそこまで保証すると確実に二年は大赤字だけど、どうするの?」
「あっ」
「さすがに二年税収がないのは辛いわね」
ちょっと落ち込むミラベルの頭を撫でて望実がグルナードをみるとグルナードは頷く。
「税を軽くするかわりに教育を進めると言うのは良い案だとおもいます。神殿での教育は自主的なものですから今後全ての人に教育をと考えると強制的にすることは必要かと」
「それで奴隷になる人は減るかしら」
「……妃殿下はなぜそこにこだわるのですか? 税を払えずにいることは何より強く罰せらるべきかと」
かなり強い口調でミラベルに言われ望実は首をかしげる。
「税を払えずに待つならまだしも、奴隷として労働を強いられるのは間違ってると思わない?」
「思いません。罰がないといつまでも払わない者や周囲に迷惑をかけるものが出ます」
「それらの人に重い罰を与えればいいのでは?」
「ミラベル、妃殿下は贈り人様のお子なのだ。ここにいる貴族とは違う考えをお持ちなのだ」
テーブルを叩くとグルナードは「ひとまずこれにて終わりにしましょう。妃殿下、陛下も奴隷にこだわっていましたが、どこの世界にもいるのです。あまりそこに重きをおくと貴族達から反乱が起きます」と望実に言い聞かせるように言う。
「あんな最悪の環境で子供を働かせるなんてあってはらないことだわ」
「親を奪えば子供は食べていけません。親が子供と引き換えにお金を得れば買い戻すことができるのです」
「そんな世界、間違ってる」
「いいえ、貴方がいる世界では普通のことなのです。もしそれを変えたいのなら貴族を説得しなければいけません。義にもえるのは構いませんがポメロ様がいる王宮がどのように成り立ったのかはお忘れな器用」
グルナードの冷静な声に望実は熱くなりすぎている自分に気づいて「わかったわ」と椅子に座りなおす。オランジュが目を丸くしてみているのがわかって少し恥ずかしくなる。
「ポメロ様が熱い慈愛の心をお持ちなのはよくわかりました」
ミラベルにそういわれて望実は気づく。慈愛だからではなく、望実にしてみれば当然なのだ。下の回のまことちゃんがお母さんの借金が払えなくなってつれていかれそうになったら相手がやくざでもフライパンをもって飛び出すだろう。お隣おばあちゃんだって同じだと思う。それが普通だから。
ミラベルやミネオラの年齢でもすでに貴族とはどんなものなのか、庶民とはどう違うのか教え込まれていて、だからこそどうしなければいけないかについて考えている。税を軽くしたり、教育をして国のレベルアップには貴族として賛成できる。けれどもペナルティはなければいけない。それが奴隷と言うシステムでそのために子供が死んでもそれは彼らにとって罰として当然という感覚なのだ。
二人ですらこうなのだから貴族すべてを説得するのは今の生意気な小娘と思われている望実ではどう考えても無理である。権力を持つか、味方を増やして味方から説得するかそれしかない。
それにしてもミネオラはどうも声に感情がのらないからかティエラ一族の宿命なのか、氷に刺された気分になる。けれどこれが嫌みと解釈されると大変だろうなとオランジュの顔をふきながら望実は思う。
悪役令嬢に当てはまるのもわかるのだ。優しい子という前提がないと厳しいだけの自分の賢さを誇る嫌みな子に見えてしまうだろう。
「でも皆の意見を聞けて本当によかった。オランジュもお礼を」
「はい。皆、ありがたく思う」
えへんと胸をそらすのはなんとも可愛いのだが、すぐにこちらをみるので威厳もあったものではない。望実が吹き出しそうになるとオランジュがむっとしてそっぽをむく。
「サガとペッシュは残って、オランジュはミネオラとミラベルと勉強の時間だから頑張ってきてね」
「きょうは一日ごいっしょできるのではないのですか?」
「そうね。しばらくは、ご飯以外は難しいと思う。でも一回は約束のピクニックにいかないといけないし、一日開けましょう」
「はい!」
「二人ともオランジュ殿下をくれぐれも頼みます」
両手を広げて丁寧にお辞儀すると、ミラベルがそして慌ててミネオラが返礼する。
三人を見送って望実はふうと伸びをしてサガとペッシュに向き合う。
「ごめんね。約束がすぐに果たせるほど力がなくて」
「そんなのわかってるから別にいいんだけどよ。貴族ってやっぱり俺達を人間だと思ってねえんだな」
ペッシュがすいませんというように頭を下げるので望実は気にしていないとジェスチャーする。
「あの女、人形みてえな顔してさらっとひでえこという。俺達だって税をちゃんと払いたいんだ。災害や病気さえなければ父ちゃんと母ちゃんは真面目な人だった。税をちょろまかそうとかねぎろうとかそういう事思い付きもしない良い人だったんだ」
「ええ、ペッシュとサガをみてればわかる。ただね。彼らはそれを教わってないの。サガは村で鉱山で見て聞いてどんなにひどい状況か知っている。私もほんの一部だけど理不尽な環境を知った。知らないと人は理解できないの。エスクードは……そもそもエスクードはなぜ……いいえ、これはいいわ。エスクードにまず即刻村の片付けと治療に騎士と医師を送るように手配したから少しはましになると思う。大事なのは今後だけど」
「おまえは良いやつだ。父ちゃんと母ちゃんが尊敬してた王族におまえみたいなとんでもねえのがいて俺は良かったとおもっている。ありがとよ」
なんだか望実は泣きたくなった。サガを振り回しっぱなしだったけれど、彼がゲームのように神殿を恨み貴族を呪う兵器のような生活をしなくて良いようにできる限りをしなければと思う
「ペッシュとサガにはミネオラとミラベルと同じようにオランジュの話し相手になってほしいの。ここで暮らして私を助けて」
「……ええ、私は神殿にいくものかと……その、ポメロ様とはそちらでも会えると大司祭様もおっしゃっていましたし」
あわよくば後継者にしたいイルの意図がなんとなく見えて望実は舌打ちする。グルナードににらまれてほほほほと誤魔化したが。
「神殿へはここから通って、お願い」
「あ、あの。そんなお願いしてもらうような……大司祭様とポメロ様の間で話がついているならそれで」
揉めないように心配までしてくれるなんてペッシュはやっぱりできた嫁だ。
ペッシュもミラベルも嫁にする方法はないのだろうか?
正妃二人の王様がいないか今度調べてみようと望実は頷く。
「ペッシュよ。気を付けろよ。こいつおまえを嫁にしたいとかいってたぞ」
「ええっ!?」
「まだ、そこ引っ張るの? 言い間違えただけよ!」
「なるべく距離はおいて仲良くしろ、な」
「えと、王妃様の嫁なんて恐れ多くてむりです」
正妃に送り込もうとしてるのでそこは自信をもって頑張ってほしいところだ。サガはとりあえず耳を引っ張っておく。
「いてえええ、やめろ。あと、俺はわりぃがあの坊っちゃんの世話係は無理だ。むいてねえ」
「なんで?」
「悪いことしか教えられねえよ。財布のちょろまかしかたとかさ」
「お兄ちゃん!」
「ペッシュは神殿で勉強してたときから村でも一二を争う頭のよさで、作法も良くできてた。だから城においてくれて、女官か侍女になれたらすげえ言いと思う。聖女は、こいつには重すぎると思う。神殿にいったら俺は滅多に会えないし、あのデブ豚野郎みたいなクソ祭司がいたらと思うと城の方が幾分ましだ。守られながら勉強して生きてく術を学んでほしい」
「サガ」
「お兄ちゃん……また、どっかいっちゃうの? お母さんとお父さんはずっと心配して」
兄そのものの顔でサガが笑うとペッシュの頭を乱暴に撫でる。
「俺は騎士見習いになる。ネビルに頼もうとずっと考えてた。こそ泥まがいだった農民の俺が城で働くなんてとんでもねえことだけど、ここだけコネを使わせてもらおうと思う。おまえの力で騎士になれるように頼んでほしい」
「サガ……私を助けてくれた恩はどうすれば良いの? 貴族より良い暮らしをさせてあげたいのに」
「けどよ。おまえがいったようにそれだって、俺達の必死の税で出来てる。俺はそんな生活死んでも嫌だ。それに騎士になったら今度こそおまえを守るって約束叶えられんだろ」
胸に手を当ててサガが笑う。曇りないその顔に望実は胸を打たれた。なんてかっこいいのだろう。学校にも、この世界でもこんなに自立して自分でいきようとしている人には出会っていない。
「ペッシュもおまえも傷つける前に守れるように俺は力をつけたいんだ! 頼む」
「ネビルといけば、貴方はウェルテクスの推薦になる。ウェルテクスは国一番の騎士の家系。相当辛い思いをするわよ」
「ああ、それがいい。いつか俺は国一番の騎士になっておまらを守ってやる」
「分かった。ネビルに頼みましょう。本来勉学も騎士には必要だしマナーも厳しくみられるわ。忘れないで、貴方らしさは強制されても消えないから、そのままでいてね。サガ」
望実は手を伸ばしてサガの頭に触れようとしてやめた。人との距離がわからなくなっている。ただ眩しいものをみる目で見つめる。
ネビルに事情を説明すると厳しい顔をしたが「彼は飲み込みも早いし集団生活もなれている。騎士の素養はあるとおもいます。ただ」と苦笑した。
「マナーも勉強も頑張る。城に上がれるようになるまで必死でやる」
「分かった。おまえを一週間鍛えよう。それで隊長に推薦するから決めたいと思う」
「それでいい。なにもかもうまくいく方が嫌な予感がするからな。ありがとう。ネビル」
「なに、これで恩が返せるなら軽いものだ」
「ネビル。頼みました」
「はっ。かしこまりました」




