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姑ですもの!  作者: K
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帰ってくる場所

「このまま私達についてきていいの?」

「もちろんです。家はないし、ただお兄ちゃんが」


 ペッシュの家に行き焼け残った中で持っていきたいものはないかと聞けばボロボロになった本を持ってきた。サガはテーブルを惜しむように触れている。行くか行かないか迷っているのだろう。サガが来てくれないとペッシュも残ると言いだす可能性がある。

 これだけボロボロになって、成果なしで帰るのは嫌だった。今の望実には二人を思いやれる余裕などなく拳を握りしめて尋ねる。


「エスクード、あのテーブルと椅子を運んで直すことはできない? 私、彼らに幸せにしてあげると約束したの。ここにある木材を持っていけば修繕は可能かしら?」

「妃殿下のご命令なら」

「命令よ」

「では私の鷹に運ばせましょう」

「サガ……来てくれるでしょう?」


 サガは残っていた柱に拳を叩きつけると「こんな風にした奴等にきちんと落とし前つけてくれんだよな?」と望実を真っ直ぐに見つめて言う。

 エスクードすらまともに見れない望実にそれは鋭く突き刺さるものだったが、だからこそ心から応えたいと思った。


「つける。絶対に」

「なら、行くぜ。次は絶対に俺が守ってやる」


 夕焼けの中でサガの髪が真っ赤に染まる。

 望実は目を細めて夕日の誓いという一枚を思い出していた。十年後更にいい男になったサガが人生最高にかっこつけながらミラベルに言う台詞だ。


「あとおまえ見張ってないとペッシュを嫁にされそうだしな」

「それは規定路線で」

「なんでだよ」

「もちろんペッシュに選択権はあるから」

「当然だ!」


 もしサガが城の生活が苦しいようなら一緒に旅に出るのも悪くなさそうだと望実は思う。ミラベルのお相手が誰になるかまだ分からないし、皆がお年頃になるまでまだまだ時間がかかる。


「行こう」


 ペッシュとサガの手をとって望実は歩きだす。

 怖がって何もできないなんて勿体ない。痛みも苦痛も全部ひっくるめて糧にするぐらいに強くなるのだ。




 イルはひたすら走り続ける馬車の中でため息をついた。ネビルは取りに行った愛馬に乗って護衛しているし、望実がいる馬車はあの子達が乗っているので無理に四人で乗らなくてもとエスクードが言ったせいで、まさかの二人っきりである。


「どこまで仕組んでいたのです」

「仕組んでいたとは随分なおっしゃりようだ」

「貴方の性格の悪さと比例する頭の良さは身に染みて分かっておりますから」


 大司祭候補として先に神殿に入っていたエスクードはイルにはただただ冷たい青年でしかなかったし、散々言われた皮肉も、嫌みも忘れられない。

 この国以外は女神が第一神として信仰されている。つまり女性の神官又は巫女の方が世界的には地位が強いのだ。

 だがこの国は男神が第一神である。それもあって当時の神殿も男の大司祭を立てたかったようである。ただイルの聖力があと少しで大司祭となるべきだった彼より明らかに上だった。聖力とは神から授かる力、それを無視することは神殿そのものを成り立たなくする事でもある。

 イルの聖力が一気にましたのはあの人に会ったからだ。神があわせてくれた。唯一無二の王に。だからイルは神に感謝できる。だからこそこの男より国に献身を捧げていると思っていた。


「あの方は贈り人です」

「ああ」

「貴方の手の者がわざと乱暴したわけではないのですね」

「イル。君の中で私はどれだけ非道で卑劣なのだ」


 そう言ってイルを見つめるエスクードは一見優しげに笑っていたが瞳の奥に渦巻く怒りを宿していた。一瞬でも疑ったことをイルは後悔する。


「申し訳ありません。今のは失言でした。ですが貴方はいつも何も言わずに勝手に事を進めるのでこちらもつい構えてしまうのです」

「結果が全て……どこから登ろうと頂上につければそれでいいのです」

「けれどもなるべく苦しい道を歩んでほしくないと願うのがあの方こそ王と誓った私の願いです」

「ええ、そうでしょうね。」


 意味ありげに笑うエスクードにイルは眉をグッと寄せる。相容れないのは仕方がない。それでも、何歩先もまるで神のように見通しているかのような姿に妬みとはまた違う苛立ちをいつもこの男に抱いてしまう。


「貴女のように純粋に慕えたら、もしくはあの子のように盲信できたら……いいえ、言ってもしかたないことです。貴女はそれでいい」


 冷たさが際立つ弟と対照的にどこか艶っぽいエスクードにイルはふんと鼻を鳴らして視線をそらす。


「あなたに言われずとも」


 やっぱりこの男は気に入らない。どうしようもなく気に入らないのだ。だからこそ望実に必要な男なのだ。イルはそっと目を閉じた。




 二日後神殿についたところで一旦ペッシュとサガを預け、仰々しい馬車と派手な衣装で望実は城に戻ってきた。一週間のはずが二週間近くかかってしまった。オランジュは大丈夫だったろうかと夜遊びを怒られる子供のようにびくびくしながら望実は階段を上がっていく。


「お待ちください。殿下、姫様はたいそうお疲れで」

「ははうえ」

「オランジュ」


 角を曲がったところで飛び付いてきたオランジュに変わらない愛情を感じて望実はほっとする。友達と遊んでいる方が良かったと言われてしまえば納得できても寂しい。オランジュはこの世界で最初に受け入れてくれた子だ。


「おかえりをお待ちしていました」


 はっとした表情になるとオランジュは丁寧に一礼し望実を期待を込めて見つめている。


「誰かに教わったの?」

「はい……そのミラベルは……きびしいですけどいい先生です」

「そう。ミラベルならきっと細かいところまで教えてくれたんでしょうね」


 頭を撫でると満足そうにオランジュが笑う。護衛にすら酷く緊張していた望実はその笑顔にようやく力が抜けるのを感じた。


「でもすごくこわいのです。なんどもきくとにらまれます」

「私が小さいときはあまりにも聞き分けが悪いと頬を引っ張られたわよ」

「ははうえが?」

「オランジュ。私、ちっとも賢くないの。グルナードみたいな才があるわけでもないし、だけど出きることはきちんとしたいと思ってる。だからオランジュも相手に誠実であってね」


 バカだからなにもできませんと言うのは一番簡単だ。でも愚かでも出来ることを見つけれれば賢くなれる。誰にでも一つは出来ることがあるはずだから。

 望実にもオランジュにもそれを教えてくれる人がちゃんとついてくれている。



「せいじつ」

「約束は守る。困っていたら助ける。間違っていたら叱る。それだけでいいの。でもすごく難しいと思う。今回のことで実感して動けなくなりそうになったけど、でもオランジュおかげで頑張れそう、かな」


 一足先についていたネビルと今日のパートナーの護衛に望実の足はすくむ。自分より体格のいい男性をみるとどうしても恐怖が込み上げる。そのうち慣れると言い聞かせてオランジュの腕を引くとオランジュは立ち止まった。


「そなた、そう。ネビル・ウェルテクス」


 そしてなぜかオランジュはネビルをじっと見つめ口を尖らすと名前を呼んで動かなくなってしまう。


「オランジュ殿下、並びにポメロ妃殿下。お疲れのところ失礼いたします。ネビルでごさいます。何かご用でしょうか?」

「そなたがははうえをかどわかしたのはほんとうか?」

「いえ、そのようなことは」


 ネビルが大慌てでオランジュに頭を下げながら首を振る。オランジュは不機嫌さをかくそうともせずに「グルナードが『かけおちまさか』とか『夫婦など』とつぶやいていたのだ。ミラベルにきくとかけおちとはいっしょにいるのをゆるされなかった二人が遠くへにげること、らしい」と続ける。

 望実は自分の軽いおふざけがオランジュの繊細な心を傷つけたのではないかと心配になってネビルとオランジュの間をうろうろする。


「わたしは反対しない。だからとおくへははうえをつれていかないでほしい。わたしがははうえとけっこんするにはまだすうねんかかるのだとミラベルがいっていた。それまでははうえをつれていってはこまるのだ」

「で、殿下……そのですね。私と妃殿下はそのような仲ではなく。ポメロ様、笑っていないでちゃんと誤解を解いてください」

「ご、ごめんなさい。オランジュ。私は誰とも結婚しないし、その予定もないわ。ネビルは護衛をしてついてきてくれただけ。駆け落ちだったら二度と戻ってこれないもの。オランジュに会えなくなるなんて私には耐えられないわ」

「…ははうえ」


 やっぱりオランジュが世界一可愛いと胸をキュンとさせながら望実は片手でネビルと同僚にごめんなさいと謝る。同僚は吹き出していたがネビルは心底やつれた顔をしていた。

 グルナードにこってり絞られたのだろうか?

 ふと自然と笑えたことに涙がにじんだ。オランジュに心の中で感謝しながら久しぶりの部屋に入る。


「姫様」

「コラーダ。ただいま」

「おかえりなさいませ」

「ミリヤもサーシャも留守の間オランジュを見ていてくれてありがとう」

「おかえりなさいませ。妃殿下。勿体ないお言葉です」

「おかえりなさいませ。妃殿下。オランジュ様もよく勉強し待っておられました」

「ミラベルにわからないと言わせたいのです」


 ミラベルはまさしくティエラ家の血筋なのだなと思ってしまい笑いがこらえられなくなるとオランジュに怒られる。なんだかとてつもなく幸せだった。数日間の怒濤の出来事が悪夢のようにも感じる。


「オランジュ。私だけでは解決できない難問ができたの。それを一緒にとけたらきっとミラベルも感心すると思うわ」

「本当ですか?」

「それと新しいお友達も紹介するから、また忙しくなるわよ」


 帰ってこれてよかった。そう思いながら望実はオランジュと手を叩きあった。


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