光る石を探せ
傷だらけの少年が出ていく。望実は震えながらサガの服を握る。ガリアンが冷めた目で見ているのにも気づかず望実は奥歯を噛み締めて何事もなかったように食事を続ける男達の声を聞いていた。
「一階は食堂。朝と夜はあそこで食べる。朝は七時。遅れたら食べれない。昼は食後配られる。おまえらはここで雑魚寝だ。うるさくするなよ。水浴びは週に二回。水はいつ飲んでもいいが寝しょんべんはすんな」
「あ、あいよ」
「ガリアン。妹の友達なんだ。頼む」
「俺は構わねえが、もっと気を付けるように言え、女みたいになよなよしてるとすぐ目つけられるぞ」
「知ってるよ」
ガリアンがランタンと一緒に消える。望実はほっとしてサガの隣に座る。すでに寝ている子供もいる。五十人ほどの少年が床にかけ布一枚でくるまっていた。
「あんなことばかりなの?」
「酒も葉巻も女もねえが口癖だからな。捌け口は必要なんだよ」
「だからってあんな小さな子を叩いて」
「ポメロ。声をでかくすんな。出よう」
こちらをにらんでいる少年が数人いたがサガをみて黙って視線をはずす。
外では喧騒のような声が聞こえてくる。怯えるようにサガの手にしがみつくとサガは大きなため息をついた。
「おまえが決めたことだろ」
「うん。そうだね」
「怖えならさっさと鷹でも鳩でも呼んで逃げちまえ。おまえが見る必要のねえ世界だろ」
「何歳からいるの?」
「あー俺か?俺は始めてきたのは七つの時だ。ペッシュが生まれるとき母ちゃんが大変でさ。薬がいりようだったんだ。別に売られてもよかったんだけどな。父ちゃんは薬代ぴったりだけでいいって言って一月だけ。それから冬になると季節労働者にまじって何回か。筋がいいからこっちこい。妹にもいいもん食わせられるぞっていうのがここのやつらの口癖だったんだぜ」
さらっというが望実が七歳の時はランドセルを背負って学校に行き父親について母親に無邪気に訪ねていた頃だ。あんな過酷な現場で仕事なんてしていない。
あの人達だって家族がいて本来なら売り買いされるような生活をしなくてもいいはずなのだ。
「毎年穴に埋まったり崩れたりで子供は死んでる。ガスにやられたやつもいる。俺は父ちゃんにコツを教わったからなんとなくやべえ場所はわかるからな……おい泣くなよ」
「サガ……あの時は本当に、最後の手段だったんだね」
「まあ、な。俺の金額だけじゃペッシュは到底買い戻せなかったし、花売るにはちょっとたっぱがな。急に伸びたせいでバランスもわりぃし」
「花なんて身長関係なく摘めれば売れるものじゃないの?」
何をいっているのだろうと望実が首を傾げるとサガは吹き出して「そっちじゃねえ。花売るってのは身体売るってことだよ。おまえまじで既婚者だったのか? ペッシュだってなんとなく知ってるぞ」と笑いながら言う。
勘違いに真っ赤になって踞ると望実は「だってサガとそういうのが結び付かなかったの。仕方ないでしょ」と力なく呟く。そちらに回される可能性もあったのかと思うとどっと恐怖が襲ってくる。その上、あの小屋の外にいた子達はその労働でこれから食べていくのかと思うと背筋が凍りそうになる。
「まあさすがにここでも十もいかねえガキにおいたはダメなんだけどな。男も大変だぜ」
「意味分かっていってるの?」
スナックのママみたいなことをいってと思わず頭を抱えるとサガはその反応をみてまた笑い出す。
「おい、うるせえぞ」
「そろそろねろ」
「すいません」
廊下を男達が通りすぎる。望実とサガは彼らが行くのを待って部屋に戻り扉の側で寝転がった。オランジュはちゃんとねれているだろうか。堅い床なのに疲れもあってあっという間に望実は眠っていた。
朝起きてあちらこちらが痛むのを伸ばしながら顔を洗う。何の処理もしているように見えないのに木のつつから流れる水は綺麗で美味しい。
「おい、ポメロ。おまえバカなのか? そんなに綺麗にすると悪目立ちするんだよ」
「あ、ついうっかり」
「潜入に向いてねえって。まあここらに人いねえからいいけど……あっ」
サガの視線の向こうに泥だらけの見た顔がある。思わず声をかけてしまいそうになって望実は口を押さえる。一日もたっていないのに酷く懐かしく思えた。
隣で顔を洗うと「顔色が良くありませんね」とネビルが言う。
「こんなものよ」
「今日にでも帰られた方がよいでしょう」
「いいえ。まだ何も探せてないもの。ネビルの方はどう?」
「伯爵の兵士が何人か紛れておりますので鉱石を取っていると見せかけて宝玉探しをしていると言うのは聞いております」
「金色に光っている鉱石よね」
「その通りです。ここ数年から急に燃料でもない宝玉を掘る作業が始まったと聞きました。時おり鉱石に屑石が混じっていてそれを女達にプレゼントするのが流行りだとか」
だから彼らは石を持っていたのかと望実は納得する。誰が、なぜその宝玉がこの鉱石にあると見つけたのだろう。
「ではまた朝に」
「あいよ」
「……絶対に宰相とグルナードの前ではしないでくださいよ」
嫌な顔をして去っていくネビルを見送ってサガと食堂にはいる。子供たちはバナナのような果物が一本とミルクだけだった。昼食用にサンドイッチを一つもらい番号順に穴の中に入っていく。山の鉱脈は三ヶ所あり、それぞれ十班ずつ働いている。望実は東の第六班だ。筋肉痛があっちこっちにあるのを感じながら昨日と同じ仕事をする。
第六班のガリアンは班長の中でもかなりまともだ。最初に手が出るわけでも弱い子供を苛めることはない。トロッコから見ている間だけでも何人か叩かれたり酷く痛め付けられてるのを見てしまった。
「新入り、こい」
「は……あいよ!」
「ちっこいけどいい返事じゃねえか」
駆け寄れば袋を広げろと言うので新しい袋を床に敷く。そこへ昨日爆破した屑を何個も並べそこから男は特に光る石を手に取る。ただ男の選ぶものは光が弱いものばかりでせっかくましな輝きをしている石があってもよけて取ろうとしないのだ。
「えっと、すいやせん」
「なんだ。こっちは選別中だ。邪魔するな」
「それよりぜってえこっちの方がいいで、やんす」
もうどこの言葉か分からんと自分でも突っ込みながら袋の上で一番光って見える石を男に渡す。そして全く光のない鉱石を袋にいれていく。
「これが? なんの色も持っていねえが……いや、まさか。ガリアン。ダン爺つれてきてくんねえか。俺がわると万が一があると困る」
「なんだ?屑石ですらねえじゃねえか」
「まさかとは思うが俺にはわからねえ。ただこの新入りがあまりにも迷わず光っていると言うもんだから」
「光ってねえんですか?」
ガリアンは望実に返事をせずにじっと鉱石を見つめ、トロッコに乗り込んだ。
「おまえらは先に休憩だ」
「あいよ」
「へいへい。ったく早く休憩すると昼までが長げえんだよ」
とりあえず男の隣で座っていると暇なのか男は望実に色々尋ね始めた。どこから来たのか。何をしてたのか。両親はどうしたのか。
そんな他愛もない話になるべくぶっきらぼうに中央から、こそ泥していて捕まった。サガとはその時にあった。両親はいないと答えると男は俺もだと小さく笑った。
「ただ俺は微量だが聖力がある。だからこうやって石の選別を任されてるんだよ。ダン爺は俺の数百倍強い聖力がある」
数百倍近い聖力と聞いて望実はまずいと口元に手を持っていく。今までの話からすると聖力が強いと贈り人なのがばれる可能性が非常に高いのだ。
「おまえも聖力持ちじゃねえのか?」
「ど、どうでしょう?きいたこと、ねえな」
「まあ。神殿ではかってもらわねえことには……お、ダン爺が来たぞ」
ガリアンの半分ぐらいの身長しかないお爺さんが望実に向かって歩いてくる。
「わしには光は見えないが、鉱物の声がわかる。宝玉の声は特別なのだ。確かに微かだがこの鉱石からは声を感じる。少しずつ叩いてみよう」
ダンはそういって小さなノミをもち、慎重に石を削っていく。とある場所を叩くと光が漏れるようにきらりと光り出す石にガリアンとダンは望実を驚いたように見ている。
「おい。昨日のサガが飛ばしたところから出た石、今すぐにここに運んでこい」
「あいあいさ」
男達が次々と手押し車でやってきては麻袋の上に鉱石を下ろしていく。
「うむ。強いて言うならこれとこれかのう」
「おまえもだ。一番その光る石とやらを取ってみろ」
望実は近くのランタンに影になるように立ってじっと目を凝らす。蛍光塗料のようにうっすら光って見えるのがいくつか。拳の半分ほどの石をぱぱっと五つ取る。その中で一番小さな石をガリアンに手渡すとガリアンはダンに見せる。
ダンはあちらこちらから石を見て一番小さな面をノミで何度か叩く。
「これは……」
「ここ数日で一番の大物じゃ。なんと、あやつどこからこの少年をつれてきた。まさか聖女様ではなかろうな?」
「聖女様候補はサガの妹だ。女みてえだがまだ十二歳らしいからな。身体ができてないんだろう。そうか身体が出てきてねえのなら小さな穴でも通る。昼に総長に聞いてくる」
「それがよいじゃろう。これぞ掘り出し物」
望実としては結構分かりやすいのになぜ分からないのかが分からなかったのだが言われた通りに運ばれてくる石の選別をひたすらした。
ダン爺は何度も感心しては根掘り葉掘り望実に聞いてくる。
「ダン爺。坑道に突っ込ませるにはリスクがでけえらしい。おい、メポロ。これからおまえは石の選択が仕事だ。ダン爺よりは経験値で稼げねえがガキにしてはかなり金がもらえるようになる。良かったな」
「あ、あいよ」
とりあえず石を選べばいいのだろうとむき出しになっていない光る石を探し出しては置いていく。やがて笛がなり男達は手を止める。いつの間にか袋いっぱいになっていた鉱石を持つとガリアンが持ち上げてくれた。
「いくぞ」
「あ、あいよ」
少年達が身体を引きずって歩いているのが見える。サガも身体中傷だらけだ。自分だけ楽な仕事でいいのだろうかと疑問に思いながらも昨日以上に疲れていて望実はサガに寄りかかっていつの間にか寝ていた。




