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姑ですもの!  作者: K
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謎の鉱山

「おい、あんまキョロキョロするな。下向いて無気力な表情でぼんやりしてろ」


 鉱山なんて見たことのない物を前につい好奇心の方がついうわまってしまった。望実はとりあえず俯いてエスクードの足元だけを見て歩く。時おりよろけたり慌てて走ったりして後ろについてきているサガをヒヤヒヤさせていたが。

 突然エスクードが立ち止まった。頭突きしそうになって望実は慌てて立ち止まる。


「これはこれは。こちらへどうぞ」

「構わぬ。すぐに売買だけして帰るのでな」

「かしこまりました」


 大きな小屋の前には色んな人達が集まって座らされていた。家族のような集団もいたが、圧倒的に男性が多かった。


「あっちは季節労働者だ。ああいうやつらに絶対喧嘩は売るなよ。目を合わせないで黙ってれば興味も持たれないだろう」

「家族でいる人達は?」

「最後の砦の畑と家を売っても借金が返せなかったんだろうな。誰か一人を売るより家族で契約する方を選んだんだろう」


 エスクードが再び歩き出す。皆が並んでいる小屋の裏に回りそこで何か話すと奥まで案内された。貴族と思われる人達が立っていてエスクードをみて一礼する。エスクードは彼らにサガと望実が見えないように工夫しながら歩いていく。扉の横に立っているように指示され、サガとならんでたつ。


「今回のは随分若いですな。今日は伯爵が来て久しぶりの労働者を提供してくれましたので、労働力よりはあちらの方が欲しいのですが」

「うむ。それは言うな。まだまだ家族が押し寄せてきているし、そちらもなんとかなるだろう」

「お貴族様相手に出きるまで教育するのが大変なんですよ。元値が下がっても教育する代金は下がりませんので」


 ネズミのようなずる賢そうな男がエスクードに話しかけている。やり取りを聞いていると男とは何度か取引したことがありそうな雰囲気だ。じろじろと不躾な視線を送られて望実は居たたまれなくなったがサガに言われたとおりに無表情を心がけて床を見つめていた。


「おお、驚いた。サガじゃないか。ついに年貢の納め時か? ペッシュは伯爵家で可愛がられているようだな。良かったな」

「うるせえ」

「それと、こちらは。なんとも言えませんな。少年にしては可愛らしい顔をしているが商品になりそうな顔立ちではないな。丈夫そうではある。口を開いて、そうだ。虫歯もなし。目もまだまだ死んではいない。爪や髪も酷く汚れているが健康状態は驚くほどよい」


 あまりにも的確にチェックしていく男にヒヤヒヤしながら望実は立ち続ける。


「鉱山か花か迷いますな」

「金というよりおいておけなくてな。あのガキはどうでもいいが、こっちはいずれ買い戻す。あまりボロボロにされたり、手垢がつくのは」

「……さすがいいご趣味ですな。おそらくあと数年でまた変わるかと。12ならまだまだ成長期でしょう」


 なにをと思ったが、サガと同い年という触れ込みの方がやりやすいと望実も考え直す。


「サガとは違う種類の修羅場を抜けた目をしている。サガ以上に買いだと思いますな」


 ニヤリと笑う男にエスクードは驚いたように「そなたは見る目だけあるのだな」と言って笑った。


「いえいえ、ではサガの方は相場で、あの少年はふむ、けして殺さずにそこそこでとどめておくとなると相場の半分になりますが」

「構わぬ。実は本家には入れないがその筋なのだ」


 実に困ったとエスクードが色気たっぷりにため息をつけば男はああと納得が言ったように頷く。


「それは困りましたな」

「……勝手に公爵家に噂を流したりしてはならぬぞ。本家筋は王族の血筋、どこの国とも知らぬさ迷い人の血をいれるなど」

「もちろんでございます。我らは秘密保持が商売の基本でございますゆえ」


 男がベルを鳴らすと背の高い青年とここにいるのが不釣り合いな色気のある女性が現れた。


「これは素晴らしい。その目が欲しいぐらいにまさに完璧だ。よく注文に答えてくれた」


 懐に手をいれると惜しげなく袋を取り出し机に投げ出した。ころりと金貨が一枚転がる。思わずサガが「あれ全部金貨かすげー」と呟いたのが聞こえる。

 まずは青年を一別しその後女性の顔にそっと触れて何か確認するとエスクードは再度懐に手をいれもう数枚金貨を置いた。サガがギラギラした目で机をみている。


「では、つれていく。またくる」

「了解しました」


 扉を出るとき誰にも気づかないぐらいそっとエスクードは望実の肩に触れてお気をつけてと日本語で呟いた。あまりにビックリして前を向けば男と目が合う。何か本能的に嫌な感じを受け望実は視線を避ける。


「ガリアン」

「なんだ?」

「この二人を鉱山に、少年達のところに放り込ませておけ」

「もうあそこはいっぱいだが」

「男の数は減ってるんだ。少し育ってるサガぐらいのは混じらせて働かせろ。もう一人は……メポロだそうだ。そっちは小さな少年と一緒の方でいい。あまり腰が曲がったり手足が傷つくのはやめておいた方がいいだろう。なんせ手のひらが薄いし綺麗すぎる」


 はっとして思わず望実は自分の手のひらを見つめてしまう。今目の前にいる男もごつごつして堅い手をしていた。ペッシュもまめができていたし、サガは傷だらけの手をしている。


「忌み子だが使い勝手があるような口ぶりだ。悪い扱いはしすぎない方がいいだろう」

「なら女の方に送ったらどうなんだ? 美形ではないが整ってはいるじゃねえか」

「そっちはダメだと。あの方はよくやれば倍出す。中途半端な仕事をすれば半値でも出さん。ここに来る誰より適正値段を知ってるんだ。女でもないのに無理に花にする必要もないだろう。飢饉に水害に火事、男手以上に女手はある」

「いっとくが気を使って見てやるほど暇ではないからな」

「もちろん分かってるさ。おまえの分だ」


 金貨を一枚ネズミのような男が爪で弾けば、ガリアンと呼ばれた男が振り向きもせずに受け取った。


「ついてこい。仕事だ」


 男の後を追いながらつい辺りを見てしまう。先ほどとは違う出入口から出ると屋根がついた通路が山までのびている。しばらく歩くと男達が出入りする大きな穴まで来た。


「サガ、おまえは奥の担当だ。知ってるだろ」

「わかってんだよ。いちいちきくんじゃねえよ」


 どうやらサガは有名人らしい。あちらこちらでニヤニヤして男達が見ている。


「ついにおまえも年貢の納め時か」

「ほら、どうせ来るっていってただろ」

「あのままいれば今頃倍は稼げてたぞ」

「うっせえ」


 男の世界だと思わず感心してしまう。望実はサガと一緒にトロッコのような乗り物に乗って奥へ奥へと進んでいく。アトラクションのような気分に少し浮き立っていた望実だが、ボロボロになって石を運び出している男性やよろよろで水を配る少年を見て思わず目をつぶってしまう。


「どこの村も病気のやつらばかりなのに、ここは捨ててきてんのか」

「ああ、流行り病な。そういや来たときはぶつぶつだらけでふらふらのミックっていう奴がいたんだが、ほれあそこだ。今じゃ立派に石運びしてるぜ。あいつからうつったって奴はいねえな」


 抗体があるのだろうか?

 それともここで飲んでいる水や特別な食べ物があるのかもしれない。


「メポロ」

「は、はい」

「おまえは削られる石をひたすら麻袋にいれる係りだ。腰が曲がって育つのも困るからいっぱいにしては転がしておけ、運ぶ係りがトロッコで運び出す。坑道は一人で決して動くな。勝手な道を行くと死ぬぞ」

「わかりました」

「ふん。貴族っつうのは本当かもな。あいよとでもいっておけ、鼻につく」

「あ、あいよ」


 まさかちゃんと返事してはいけないなんて知らなかった。暗い手元に転がる石をひたすら拾っていく。ずっといると目が悪くなりそうだと望実は一つ袋をいっぱいにして紐で縛ると次の空の袋をもって男達が捨てていく石を集める。


「メポロ。水だ。しばらく邪魔にならない場初で休憩しろ」

「あいよ」


 コクコクと頷いて木でできたコップを受けとると「新入りか」と水をひしゃくで注がれる。


「メポロです。よろしくお願いします」

「はあえ。なんじゃそりゃ」


 またやってしまったと思いながら望実は「あんがと」といって隅で丸くなる。おっすおらメポロ。よろしくなとでも言えば良かったのだろうか?


「靴も靴下もか、信じらんねえあな」


 よく見れば望実と同じように働いてる少年や目の前の少年も裸足だ。彼らが怪我しないためもあるのだろう。気を付けて仕事しないとと望実は水をゆっくり飲みまた仕事に戻る。時おり怒号が聞こえてくるが集中して五袋石を拾い終えたところで笛の音が坑道に響いた。


「第一班から早くでろ」


 手こぎのトロッコが何台か走り去る。最奥から出てきた男達が何か光るものを持っているのが見えた。目を細めるが次々と去っていくのでわからない。


「サガ、早く出ろ。乗り遅れるぞ」

「今出る」

「相変わらずはええな。明日は仕事が進むぞ」


 ガリアンが首から下げていた笛を鳴らすとトロッコが止まり皆がいっせいに耳をふさいだ。望実も真似してふさぐ。

 どかんという大きな何かが弾ける音がして坑道全体が地震のように揺れた。


「おい、大丈夫か?」

「今のなに?」

「爆薬だよ。俺は小さい時から細くて手が投げえから穴に潜っては小さな穴あけて爆薬仕込む仕事してたんだ」

「第六班撤収だ」

「いくぞ」


 十人ほどトロッコに乗り込むと、こぎ手がこぎ出す。ガタガタと揺れながらトロッコは出口へと進んでいく。


「それにしても鉱石以外の宝玉なんてあるのか?」

「屑石で光るもんはあるんだけどな」

「屑石集めたからって宝玉にはなるめえ」

「だよな」


 皆、目的を知っているようには思えなかった。望実はサガとガリアンの後をついていき、食事をする男達に混じる。物凄い食べ方に目を白黒させているとサガに笑われた。お粥のようなどろどろの何かを口に放り込んで水を飲む。


「早く隷属期終えて酒を腹一杯飲みてえや」

「違いねえ」


 そこにも確かに望実が見たことがない世界があった。奴隷になろうと逞しく生きる男達に望実はどうするのが正しいのか分からなくなる。


「おい、小僧。おまえまた俺の水を抜かしたぞ、わざとだろ」

「ちがいます。ちがうんです。みえなくて」

「うるせえ。バカにしやがって」


 少年の身体が飛ぶ。思わず立ち上がりかける望実をサガが制する。


「ボスに従え。おまえじゃ殴られて終わりだ」


 望実は何も言えず喧騒の中俯いて耐えることしかできなかった。

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