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姑ですもの!  作者: K
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男の色気

 無事ネビルと三人ほど兵士を送り届けた伯爵は昼前に帰ってきた。望実の様子で察するところがあったのか先手をとられて謝られてしまう。辺境の地で守り手であり続けた一族だ。立ち回り方は見習わないといけない。


「うーん、でもこれじゃあすぐばれるぜ。黒髪が珍しいわけじゃねえけど、ポメロ……さ、様の髪は艶がおありすぎで、ございます」


 何かに怯えるように急に変な敬語を使い始めたサガの目線をたどると無表情で氷の刺を飛ばしているエスクードがいた。


「エスクード、今はいいの。にらまないで。サガもこのしかめっ面の人は気にしなくていいからいつも通りにして、ブスでもクソ女でもどうぞ」

「ほう」

「てめえ、わざとやってるだろ」

「てめえ。ですか……子供も不敬罪は当てはまるのですが。一昔前は王族の前を横切れば子供であろうと容赦なく切り捨てていたものです」

「そんなことさせないから、エスクードもいちいちちゃちゃいれて邪魔するなら不敬罪ですからね。サガそれで何をすればいいの?」

「まずは毛先をバラバラにして、泥か灰で汚さないと。顔にも塗った方がいい。服も俺が着てたのぐらい汚れて匂うぐらいじゃねえと、違う仕事に回されちまう……であります」

「わかったわ。ハサミどこ」

「妃殿下、お止めになりませんか?」

「今更だから。ここへ来る前も同じような格好してきたし大丈夫」


 今度はエスクードは舌打ちして「ネビルめ」と呟いた。エスクードはグルナード以上になぜか過保護だ。分かりやすい過保護ならいいのだが、嫌がらせスレスレをついてくるので面倒だなと思っている。いやそもそもグルナードならやらせてくれないだろうから、口は出すものの止める事はないエスクードがいるのはまだいいのかもしれない。

 望実は言われたとおりに城壁内にいた一番使い古された格好をした小間使いの少年から少しだぶだぶの服を譲ってもらい泥や灰を塗り込んだ。少年にお礼の布地と服と食料を渡して謝れば目を白黒させていたが。髪の毛も自分で切れないハサミを使って毛先をジグザグに切ってボロボロの紐でまとめる。


「どう?」

「なかなか頑張ったと思うんだけど、やっぱ言葉遣いがな……ここらにいるのはもっとひどい訛りだったり、だいたいぶっきらぼうに返すんだよ」

「……うぜえな。くそやろう……とか。あったばかりのサガを想像すればなんとかいけそう」

「妃殿下。お止めください。頭痛が」


 頭を押さえるエスクードをみてよしと親指を立てるとサガは真っ青になった。


「おまえの意味のわかんねえその自信はどっからくんだろうな」

「とりあえずなせばなる。なさねばならぬ。それに今のところ危険なのは私とサガだけだから、ここの領地全体の人のことを考えるとまだましでしょ。一緒に命がけで頑張るのよ」

「おい俺の命まで勝手にかけるな」

「万が一の事があったらサガはちゃんと一人で逃げてペッシュのとこに戻ってあげるのよ」

「バカじゃねえの。いくら俺でも」

「そんなこと、許しません。死んでも妃殿下を守りなさい。絶対にです」


 ぱんと望実は手を叩く。エスクードはサガを揺すぶっていた手を止めため息をつく。


「貴女に万が一の事があったら神々が怒り狂います」

「え、おまえなんの女神の加護持ちなんだ?」

「だまりなさい。不敬罪」

「俺の名前はサガ・ロベリだ」

「二人の心の距離がグッと縮まったのはわかったわ」


 うんうんと頷いて伯爵に再度ペッシュをお願いし用意された馬車に乗り込む。ペッシュにサガと手を振って別れたあと、ふと伯爵を信用しすぎだろうかと心配になった。


「なるべく早く帰ってペッシュの側にいてあげてね。エスクードだって聖女がいなくなるのは困るでしょう?」

「優先順位としては貴女がいなくなるのが最も困るのですが……とりあえず伯爵の登記簿と家宝の鍵は奪っておいたので悪さはしないでしょう」

「うわー」

「こえー」

「これぐらい当然です。グルナードがもっとあの顔面をネビルぐらい社交的に使ってくれていれば。今から全力で伯爵令嬢を落とせと命令するのですが、人には得手不得手がありますからね」

「そこまでいうならエスクードがすればいいじゃない」


 あまりにもエスクードにいいように動かされている気がして望実がふんと鼻をならせば、エスクードは苦笑いする。

 しかしふと思い付いたように長い袖で口元を隠し優雅に流し目を望実に送ると「そこがポメロ様の愛らしいところですから」となんとも言えない笑みを向けてきた。

 思わず横を見るとサガが固まった真っ赤になっている。おそらく自分もそうなのだろうと望実は窓を開けてひたすらあーっと叫びたくなるのを押さえる。大人の色気を舐めていた。

 この馬車に満ちている紫色のフェロモンが見えた気がして、ぶんぶんと激しく首を振って望実はサガの手をつねった。


「痛え!」

「良かった。正気だわ」

「自分の手をつねればいいだろ」

「痛くなかったら怖いじゃない」


 混乱する二人を楽しげに見ているエスクードに色んな気力が漏れ出ていくのを感じて望実は「もういいから。身に染みたから」といった。


「お分かりいただければいいのです。ところで今後妃殿下は私などが足元に及ばないほど権力も色香も財産もある自国のためなら何でもする押しの強い王族からの求婚を受けると思うのですが……この心配で心配で仕方ない私の気持ちも知っていただきたく」

「だからその流し目止めて、ちゃんと分かってるから」

「それならば一層のこと私と婚約でもすればいいのです。煩い外野から遠ざかってのんびり殿下と過ごせますよ」


 エスクードは望実の顎をすっと人差し指で上げると顔を近づけてくる。さすがに、さすがにこの近距離でゲーム画面から出てきたような美形にフェロモン全開で微笑まれてびくりともしない強心臓は望実は持っていなかった。顔はさっきより高熱でも出たのかというぐらい真っ赤だし、泥だらけの自分がエスクードの恐ろしいほど美しい紫の瞳に映っているのが見えてさらにたちが悪い。心臓が痛いぐらい音をたてて目眩がしてくる。


「わ、分かった。分かったから。それでいいから放して。汚いし、いやっ」

「よくねえだろ」

「痛っ」


 パシッと頭をサガに叩かれる。音ほど痛くはなかったけれど少し正気に戻れた気がする。


「ありがとう。のまれるところだった」

「とっくにのまれてただろうが!」

「サガだって真っ赤になってたし、顎をくいってされたらドキドキするって、やってもらえば分かるわよ」

「気色悪いこと言うな。想像してサブイボたっただろ」


 サガとやりあっているうちに妙なドキドキは止まってきた。別にエスクードに恋愛感情があるわけではないから当然なのだが、望実はなるほどあれが漫画やゲームでよくある流される状況かと遥か彼方の滝壺に真っ逆さまになった気分になる。


「だいたいおまえ、俺より三つも上の既婚者の癖に男に耐性なさすぎんだろ」

「な…………サガだっておんなじようなもんでしょ」

「俺は街に馴染みの姉さんがいるからいいんだよ」

「馴染み?」

「ごほん。そこの子供が言ったとおりです。流されない事も、強かに男を使うことも才能です。グルナードよりは貴女には見所があるのですから、もう少し慎重に。そして今まで以上にお気をつけください」

「はい」


 さすがに流されに流された自覚があるので望実も素直に頷く。


「そろそろ鉱山につきますのでそのリンゴのような頬を冷まされるのがいいかと」

「エスクードが一番危険じゃない。誰のせいよ!」

「そうです。男を信用しすぎるものではありません。サガ・ロベリ。妃殿下を頼みます。その代わり私も全力で妹君を守りましょう」

「分かった。なにがあっても二人で抜けだしてやる。俺も約束は守る男だ」


 その言葉に真剣な顔で頷くエスクードは嫌いではない。むしろ信頼に足りる宰相だと思う。


「ここからは私は守ることはできませんので」


 そういってエスクードは望実とサガの服の裾に一本ずつ針を刺した。


「万が一があったときに反撃することも必要です。できれば爪先か顔を狙って逃げてください。その子供なら簡単な鍵ならこれ一つで外せるでしょう」

「任せておいてく、ださい」

「それでは」


 馬車で散々脅された事がまさに身に降りかかるとは辺りを見回して緊張している望実は思いもしなかった。



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