鉱山侵入大作戦
伯爵は大変美味しいご飯を用意してくれた。久しぶりのほっとできる時間だった。ここで安心はできないけれど。望実がペッシュと一緒の部屋がいいと伯爵にお願いしたせいでサガとイルが伯爵ともめていたのだけれど、なぜかはよくわからない。
「ペッシュ。もしこいつに襲われたら叫ぶんだぞ」
「妃殿下とご一緒できるのは私かと思っておりましたのに」
「なにいってるのかわかんない」
サガは望実があれな言動をしたせいで誤解しているようなのだが、面白いので解かずにいようと望実は悪い顔でペッシュを抱き上げて部屋を閉じた。
「お兄ちゃんがすいません」
「いいのいいの。サガは口は悪いけど良い子だし。きっと将来良い男になって貴族の令嬢に見初められるよ」
ミラベルルートに入れるかは本人の努力次第だけど性格的なことを考えるとお似合いかもしれない。ペッシュは正統派ヒロインなのでちょっといい子すぎるのだ。望実としてはいい子で嬉しいのだけれど。
「色々ストレスたまったでしょ。文句とか嫌なことがあったらちゃんと言ってね。私もいっぱいいっぱいだから見逃しちゃう事も沢山あるから」
「のぞみさんこそ、ストレスためないように気を付けてください。王妃様なのだし」
「ペッシュと日本の話できるから息抜きできてるよ。ありがとう」
「そんな……あんまりお話得意でなくて……すいません……」
「たぶん静かな環境になれてないんだ。小さなアパートで皆で生きてきたから。廊下を歩くときだって一番済ました顔して跪かれるだけ、私だって侍女達みたいに雑談したり、騎士と話したり、外で稽古したいのに全部ダメだしね。だから聞いてくれてサガが賑やかにしてくれて、嬉しかった。ねえ、ペッシュ見て灯台の灯りがとてもきれい」
「きれいです」
しばらく二人は窓を開けて海を眺めていた。空は星空が広がっていて見たこともないほど美しい景色だった。
「不便だからこそこんなに綺麗なのかなって思うと、今まで来た贈り人がやたら文明を加速させなかったのもわかる気もする。自動車あったら言いなって思うけど空気は悪くなるだろうし。ただ道路の整備はしたいな。警察的なものもあった方がいいと思うし。ペッシュはどう思う?」
こてんと望実に寄りかかっていたペッシュが膝に落ちてくる。眠ってしまったペッシュをよっこらせと持ち上げてベッドに運ぶ。五歳の身体では体力が持たないのだろう。好きなドラマとか芸能人とか聞いて枕投げしたかったんだけどなと望実は布団をかけながら思う。
イルの所へ修行に行かせたらあまり会えなくなるし、貴族の養子にしてオランジュの遊び相手という名の望実の遊び相手で城に置いておくか。何れにしても伯爵には協力してもらわないといけないなと望実はベッドで寝転がる。明日も忙しく早く寝ないと。
朝、侍女達が部屋に入るまで二人はぐっすりと眠りについた。
「イルは伯爵とドペリに今まで関わった売買について尋ねてください。少しでも違法行為があれば追放できますから。少なくとも神殿で病人を床に雑魚寝させて面倒見ることもなく自分はふかふかのベッドで寝ていた人間に神の司祭は相応しくないと思います」
「彼はすこし厄介なのです。名門の出なので」
「そこはエスクードに頼みましょう。私を脅したとか襲ったとか言えばなんとかなるのでは?実際ネビルと共に襲われそうになりましたし」
「妃殿下の望みならば」
こちらは神殿での裁きのためイルの采配でしか事が行えない。イルに任せることにする。ドペリが油断して色々話してくれるといいのだけれど。
「私はサガと少年の格好で鉱山にいってこようと思います」
「「「だめです」」」
エスクードとイル、そしてペッシュが同時に叫ぶ。望実は反対されるだろうと思っていたけれど、ペッシュまでと頬を膨らませた。
「ポメロ様がいくならかわりに私が」
「だめよ。男の子で十歳以上でないと働けないみたいだし」
「鉱山の仕事がどれだけきついものかお分かりでないのでは?」
「行くのは数日だけだし、それに自分より小さい子にそんなきつい仕事させてるなんてそれこそ非道よ」
「ネビルをかわりにいかせればいいのでは?の……妃殿下が行く必要なんてありません。劣悪な環境ですし中には少年を慰み物にする暴漢もいるとか、だめです。絶対にだめです」
伯爵に助け船を出してほしくて視線を送ると固まっていて微動だにしないし、ネビルは笑って口元を押さえている。サガは聞いてねえぞと文句をいいながらデザートを食べ続けていた。
「見なければ分からないじゃない。分からないことばかりなのに。それに鉱山では病が蔓延していないと聞いたわ。理由があるなら知りたいの」
「確かに神殿内で流行らなかったのは神に仕える身なので常に清潔であるという点はあると思います。しかしそれならばきつい仕事であり、衛生面が劣悪な鉱山で流行らなかったのは疑問ですね」
「エスクードから話を聞いたときまず、そう思ったの。だからいかせて、お願い」
望実にかかわった皆の心がひとつになった。ここで反対したら今度はサガと抜け出して鉱山まで無理にいくだろうと。
「鉱山はウェルテクス家の所領なので私が言えばなんとか紛れ込めると思いますが」
ドペリと取引していたのは偽名を使ったエスクードその人だったので、鉱山に一緒に行くのは問題はないはずだ。
「その少年を護衛に任せるのは」
「ネビルと行ったら目立ちすぎるもの。鍛え方が兵士のそれなのだし」
「いえ、鉱山の男は屈強です。ネビルを先に伯爵から送らせ、その後私達が行きましょう。ギャンブルで借金を作りすぎて兵士としておけなくなったとか言えば買い取ってくれると思います。伯爵は一度利用しているので手順も十分に分かっているかと」
「……その通りですが」
口元を歪ませる伯爵に美しい笑みを向けるエスクード。Sだなと望実はため息をついて、ペッシュを見る。伯爵は今朝がた一番にペッシュに再度謝ってくれたのだ。望実内の好感度はすでにエスクードより伯爵の方が上である。
「この先国をよくするためにもご協力いただけますか?」
「もちろんです。妃殿下」
「妃殿下は騒ぎを起こす度に着々と信者を増やしていらっしゃる。大司祭とオランジュ殿下が筆頭と考えると末恐ろしい方だ」
あんたに言われたくないわ。恐ろしいと突っ込みたくなったが一応王妃としての体面は繕わなければいけないのでエスクードの呟きは無視する。オランジュはともかくイルは父親のファンなだけだし。
「ではとりあえずネビル、お願いできますか?いつも申し訳ありません」
「妃殿下の護衛としての役目です。喜んで」
「何人か私の兵と一緒に送らせましょう。情報収集もしてくれると思います」
「伯爵もありがとうございます」
それぞれの役目が決まったところで準備を始める。午前中は時間ができたので伯爵に娘さんに会いたいと言えば戸惑いながら了承してくれた。
ペッシュと居てくれれば心配がないかなと思ったのだが、イルに貴族の娘と聖女になっていない村娘では話ができないと注意されたので望実の侍女という事にしてつれていく。
顔に赤いポツポツがあったが、伯爵の言うとおり綺麗な娘さんだった。望実の一つ下なのでこの世界で適齢期だと言うのもわかる。ただ、思っていた以上に貴族の娘だった。ミラベルもゲームでこんな感じだったよなと望実は扉か出るまで生きた心地がしなかった。
「そうか、私の侍女とかちゃんと選んでくれてたんだな。王様。御披露目式並みの緊張感だった」
「……病ですこしお疲れなのかもしれません」
「そうね。病気で疲れてるところに急に王妃様が来ましたとか言われたら私も嫌だわ。余計なことしちゃったな」
伯爵がラフなので子供そうかもしれないと思ったのが間違いだった。年の近い友人ができたかも知れないと思うと少し残念だったが。
「そもそも自分の立場が凄く微妙なことつい忘れてるけど、派閥で結婚とか将来が決まる貴族には誰と付き合うかは大事なことなのよね。ペッシュみたいに純粋に付き合える友達は増やせそうにないな」
「ともだち……」
「うん。というか勝手に親友枠に入ってるから覚悟しておいてね」
「しんゆう」
確かめるように何度も呟いてペッシュは小さく笑った。とりあえずイルとペッシュがいてくれるので贅沢はいってはいけない。大事な友人たちだ。
「嬉しいです。親友なんてはじめてで、どうすればいいのかわからないのですが、がんばるのでよろしくお願いします」
早口で沢山しゃべるペッシュが珍しくて望実は驚きながら頷く。
「こちらこそこれからもよろしくね」
これだと意地悪な姑と可愛い嫁の関係にはなれなさそうだけど、親友の嫁姑の方がオランジュ的にもやり易いだろう。本人達の知らないところで勝手に方向転換が行われていたが誰も知らないので一先ずよしとしよう。
こんなにどこかへ侵入しまくる怪盗でない主人公はそうはいないと書いていて思いました。まだまだ侵入します。侵入系ヒロインです。




