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姑ですもの!  作者: K
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知らなければいけないこと

「失礼しま……きゃああああああ」

「妃殿下。失礼を」


 ネビルがさっと開けた扉を閉める。そうだ。忘れていた。全員真っ裸だと言われていたんだった。ほとんど見えなかったけど酷い部屋の惨状は何となくわかった。あとエスクードはドが三つつくSだ。


「とりあえず伯爵のみシーツを渡して出てきていただきます。隣に部屋がありますのでそちらでお待ちください」

「別に服ぐらい着せてあげても」

「貴族に一番効くのはプライドをへし折ることです。軽いですが響く罰としては有効かと」


 そうなのかと納得すると共に見せられるこっちの身にもなってほしいと望実は思う。こちとら年頃の女子なのだ。もう少し気を使ってほしい。

 しばらくすると扉がノックされ、伯爵が入ってくる。ネビルは伯爵を望実の正面の椅子にくくりつけると「どうぞごゆっくり」と言って扉を閉めた。何十人も無理に詰め込まれていたが、ネビル一人で止められるのだろうか?


「ひ、妃殿下……まずはこのような格好で御前に立つことをお許しください」

「座っていますけどね」

「すいません」

「こちらこそ勝手にペッシュを連れ去り、エスクードが暴れまわったりご迷惑をかけました」


 余りにも初対面の時と違って小さく見える伯爵に望実は可哀想になった。エスクードから聞いた話ではペッシュ以外の件で売買に関係したわけでもなければ、彼自身土地以外の領主なのだそう。ただ代々この塔の管理者なので多少の責任はある。村や司祭とは分けて考えるべきと言われた。政治は本当に難しい。


「いえ、妃殿下が謝ることはありません。宰相もふい打ちだったとはいえ、塔の管理する兵が太刀打ちできないとは思ってもみませんでした」

「チートですね」

「チート?」

「なんでもさらっとできちゃう嫌な人のことです」

「ふ……ははは、妃殿下は想像以上に話せるかたのようだ」


 なにかツボにはまったのか伯爵は笑いだした。身体が揺れるせいで肩が出てしまっている。仕方ないと望実はシーツを引っ張って肩にかける。


「私が聞きたいのはひとつだけ、なぜペッシュに力があると気づいたの? 特別な力がないと聖力があるかも気づけないはず」

「私が必要だったのは聖力ではありません。死ぬか生きるかを見抜く力です。あの司祭は愚かですが価値のあるものは見抜ける。だからこの辺境に送られてきたのでしょうね。宰相殿もですが、大司祭はなかなか恐ろしい方だ」


 大神殿に置いておけるほどの才覚はないけれど、使えるところはつかうということなのだろう。おかげで村人達が不幸になったので望実としては腹立たしいが、貴族の感覚としては違うものなのかもしれない。

 小さい頃からの教育は大事と言われるのはそれもあるんだなと思う。

 守ってやっているのだから税を払うのは当たり前、税を払うのは当たり前だから危機の時は守れという当たり前のようで難しい関係がお互い上手く言っている時には単純に見えるが、こんな状態になると困難でしかない。お互い生き残りをかけて戦っているのだ。なにを優先するかの上に善悪を考えるとさらに分からなくなる。


「貴方は誰の死をそんなに怖がっているの?」

「……妻は病で死にました。私がいつものように塔のてっぺんから来るかもわからない敵を待っている間に。娘は未だに回復しません。顔中に出来物ができていて、あれでは花と呼ばれたあの娘は生きていけないでしょう。娘にはいっさい鏡を見せないようにしております。あの娘に生きていて欲しいのです」


 切実な願いに望実の心は揺れる。ただ理由は理解できてもペッシュを道具のように売り買いし、彼女の感情を分かろうとせずに機械のように扱ったのも事実だ。自分では判断できないと望実は俯く。


「はっきりそうだとは言えないのですが、毎年少しずつ痕は薄くなるそうです。これは城の医師から貰ったもので誰かにと持ってきました。オランジュはすっかり痕もなく綺麗になりました。娘さんが引っ掻いたり傷を広げないように気を付けてあげてください」

「ディオール殿の……妃殿下、重ね重ねご無礼を」

「それはいいです。私はここに来たことはありません。ここに来たのは大司祭様の使い。多少無礼があってもザンザールのみまえで恥じることがなければそれで私は構いません」


 望実は伯爵に嫌みは言われたが、物理的に傷つけられたわけではない。御披露目の時はむしろ優しくしてもらったぐらいだ。


「伯爵、私は貴方にはこれからも中立でいて欲しいのです。貴方がもし娘のためにと嘆く村人であっても、罪人であっても私はこの薬を渡したでしょう。だから今後も肩入れすることなく貴方はこの塔を守ってください」

「……ポメロ様。貴女様の心受けとりました」


 深く頭を垂れ、伯爵は静かに泣いた。


「ネビル。もういいわ。彼らにも服を着せてあげて、私はエスクードと……」

「ポメロ様」


 一人の騎士がロープをほどいて望実に突っ込んでくる。手にはナイフ。だが望実は動けなかった。


「何をする」

「……おまえのせいで、おまえの父親がザンザールに逆らったせいで我らは罰を受けているのだ。おまえを犠牲にこの世界に平和」

「黙れ。今から服を持ってくる。こいつは牢にいれておけ。妃殿下……こちらへ、お騒がせしました」

「どういうこと?」

「お聞きなさらない方がいい」

「なんで? ザンザールに逆らった?」

「違います。そうではありません。あの者は気が触れていたのです。地獄のような光景を見て何かに八つ当たりでもしなければ生きていけないほど追い詰められていたのでしょう」


 それからネビルはなにを聞いても答えてはくれなかった。


「ネビル。どうしたのだ? 妃殿下が酷く動揺している」

「ポメロ様」

「ペッシュ」


 ペッシュを抱き締めてようやく少し感情の波が落ち着く。


「エスクード。私の父は何をしたのです? この地に病が満ちたのは祟りなのですか?」

「誰がそのようなことを言ったのです」


 エスクードは怒っていた。静かな怒りに触れ望実は震える。


「兵士が、嘘には思えませんでした」

「王も神もそのような狭量ではございません。貴女に暴言をいった兵士は内にたまった怒りをぶつけただけでしょう」

「エスクード。私は何を言われても大丈夫です」

「私の口からは言えません。真実を知らないからです。ネビルもまた。大司祭とグルナードは別れの最後の瞬間までともにいましたが、だからこうなったという真実を知っているものはいません」

「分からない。分かるように言って」

「分かるようになるには時が必要です。私も待っているのです。王はどこへいったのか? そして王が死なねばならなかったのか」


 傷ついたようなエスクードの瞳に望実は言葉を失った。


「もういいわ」


 なにも聞きたくない。望実は一人外へと歩きだした。


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