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姑ですもの!  作者: K
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この世界で生きるということ

「真っ先に私はあの二人を縛り上げ司祭を助けにいきました」

「え……?」

「神殿に縛り上げた二人とボロボロの貴女の衣装を持っていきネビルと貴女をぺてん師と言うことに。貴女は以前逃亡中です。あの少年は金銭で雇ったと告げました。司祭の従僕は死んだような目をしていましたが。司祭にいつものと金貨を数枚渡し、とりあえずネビルとサガを処刑しました」


 ネビルとサガを犯罪者としてつきだし、司祭を助け、そのうえで処刑。望実は頭がこんがらがってくる。何の味方にもなってくれていないではないか。むしろ状態は悪化している。


「えっと……え?」

「血だらけの二人の衣装を司祭に確認させ、ひどく青ざめていたので身体に気を付けるようにと告げてその足でここへ。伯爵のいいわけが聞き苦しかったのですが、あれでも貴族。それも長い間続く女神とも縁がある一族です。なので問答無用で気絶させ兵士たちと縛り上げて塔にぎゅうぎゅう詰めにしていれてあります。全員裸で床に転がしておきましたので逃げ道があってもなかなか逃げづらいでしょう」


 分かったのはエスクードが想像を越えるSだと言うことぐらいだ。それ以外はさっぱり理解できない。しかも人の城で我が物顔で歩き回っているし、意味がわからない。


「伯爵はどうでもいいのだけれど、ネビルとサガを処刑ってどういうこと?」

「ネビルは国にとって最も重要な方を誑かし拐かしたのです。処刑が打倒かと」


 望実は真っ青になって立ち上がりエスクードに詰め寄る。


「違う。違うから。私が彼女に会いたくて頼んだだけなの。駆け落ちとか恋人とか全部、出任せだから」

「本当ですか?」

「もちろんよ。もちろん。私はオランジュが大ききなるまで火種になりそうなパートナーを作る気はないの」


 それにと言いかけて望実は黙る。家に帰れたら帰りたいと思っているから。こちらの世界で家族ができたら置いてはいけないだろう。


「本当に本当よ。もし彼が罰を受けたなら私も同じ罰を。サガにいたっては私が巻き込んで連れてきたのよ。とばっちりじゃない」

「……裏はとれました。いいでしょう」


 エスクードが手を叩くと真っ赤な髪が目に入ってくる。ネビルだと望実はほっとしてソファーに座り込む。


「貴方のことだからそうではないかと思っていたけど、酷いわよ」

「酷いのは貴女です。弟が送った諜報員全員が駆け落ち駆け落ちと毎日報告するので弟の作業効率は過去最低になりました」

「それ私のせいなの?」

「そもそも、聖女がいたらきちんと調べるようにと通達したのは私です。偽名は使いましたが」


 そう言えば司祭との話に知らないティエラの名前があった気がする。


「なぜ? 貴方もペッシュの力を狙っているの?」

「本当か? ポメロ」

「二人は後で妃殿下と話し合いなさい。また呼ぶまで待機しているように」

「ちょっと、まて、ネビル。まだ話し終わってない。ネビルっ」

「失礼致します」


 サガを引きずりなたらネビルは退室する。ペッシュにも早く合わせてあげたい。まだあれから三日ほどしか立っていないのが嘘のようだ。


「どこから話せばいいでしょうか……実は私は大司祭候補だったのです。幼少期に自分の力に気づきすぐにコントロールする術を探しました。幼少期に覚醒しすぎたのでしょうか? 次第に力が増していき、祭りの際に力が押さえられなくなり神殿に連れていかれました。イルが来るまでは私が大司祭になるはずだったのです。しかし宰相の長男が候補になるなど前代未聞であり、候補自体はその後も探し続けられていたのです」

「イルが見つかって貴方は家に戻ったの?」

「はい。イルが来た日の事は忘れません。小さな子供と目があったのですが、あきらかに膨大な力を秘めていた。その後何度か留学もしましたが、彼女以上の聖力をまだ見たことはありません」


 宰相家の長男であり、大司祭の候補だったエスクードがイルをみとめているのはわかった。けれどそうなるとここで一つ疑問が。


「イルが一目で私のこと分かったということは、エスクード。貴方もなの?」

「……でなければ秘蔵の鷹まで使いません。貴方がただ前王の遺児なだけだったらここまで動きませんでした。貴方が動き先にはなにかが必ずあるのです。それが破滅だろうと幸運だろうと贈り人とはそういったものだと私は理解しています」

「私を贈り人と知って今まで何も知らん顔してたのはなぜ?」


 ここではじめてエスクードは困った顔になった。

 あっさり認めたことで混乱しているのだろうか?

 いや、そんなわけがない。この国の頭脳と呼ばれ、誰よりも頭の回転が早い男が贈り人と認める認めないを言い出すとは思えない。


「貴女が王になるのを望んでいないとグルナードから聞きましたので。オランジュ殿下は聡明ですがまだ幼い、そしてあの男が背後におります。贈り人だと言えばその瞬間にも貴女がこの国から逃げ出したくなるような対応を取らねばなりません。その上でなお民を巻き込むような事は避けたかった」

「ではなぜ話してくれなかったんです。私だってきちんと言ってくれたら、話してくれればこんな風に皆に迷惑をかけることは」


 感情が吹き出して涙がこぼれる。疲れも合間ってコントロールがうまくできない。

 エスクードはこんなにも冷静なのに望実だけが怯えて怒って叫んでいる。


「貴女が何かしましたか?」

「なにを」

「貴女はまだなにもしていない。なにも見ていない。前にいった通り、私は神殿からでたあと国を出、見聞を広めました。どこの国も自分以上と思える人物はいなかった」


 嫌みにしか聞こえないが本当にそうだったのだろう。エスクードはこの国の頭脳だ。イルもグルナードも世界にも並ぶ人はいないと言っていた。


「家に帰ればせっかく弟が学び始めていた宰相になる機会を邪魔することになります。けれど私の玉石はこの国のものです。遠ざかれば遠ざかるほど胸は苦しみ、故郷が恋しくなる。何もかも馬鹿馬鹿しくなった私は妙な格好の男を挑発したんです。見たこともない短い髪の男は剣を構えた自分に臆さず、怯まず、拳一つで叩きつけてきた」


 グルナードとエスクードの一番の違いは前者は望実を見ていないが後者はしっかりと望実を見ていると言うことだ。


「私は負けました。ボロボロでしたが心地よかった。あの衝撃は忘れられません。しばらくして国に帰り父に宰相になりこの国を守りたいと一から学び直しました。妃殿下、貴女はまだ何もしていない。罪悪感など持たなくてもいいのです。そして貴女にしかできないことを成し遂げてください。そのとき、扉が開くでしょう。この世界に残った贈り人は少ない。貴方の世界へ道が開かれるのは一度だけですが、必ず」

「帰れるの?」

「はい」

「帰れるのね」

「貴女次第です。どの道をいくのも選ばないのも、また選択です」


 エスクードは嘘は言っていない。だから望実は顔をあげて尋ねた。


「父の名前は?」

「ツノテルと、名乗られていました。少しお待ちください」


 筆を探すとエスクードは紙に字を書いてくれた。漢字で津野輝とある。望実も筆をとる。


「私の名前は津野望実。エスクード、貴方は私がなにをすべきか知っているの? それは父がそうだったように王位につくことかしら?」

「それもまた選択の一つ」

「王にならずにオランジュを支えるだけでも帰れると思う?」

「貴女が納得して選んだ結果なら」


 エスクードが言う言葉は抽象的で望実には理解しがたい。けれど望実は彼が言う帰れると言う言葉を信じていいと確信していた。


「私は津野望実、字はこんな風に書くの。エスクード、この世界の常識とは違うかもしれないけどあの村ですんでいた人がまた同じように暮らせるようにしたい。私の名前は望んで実るという意味なの。貴方に手伝ってほしい。私は法も、やり方も、常識すら知らない。だけど、病を理由にあんな風にボロボロになっていくのはやっぱりおかしいと思う。私はあの人たちがいるから美味しい物を食べて安心して寝られるのでしょう? なら借りがある。借りは返さないと」

「妃殿下。この世界に来てくださりありがとうございます」


 両手を広げエスクードは最上の礼をした。見たことのない笑顔に望実は瞬きして美形の笑顔は凄いなと口を開ける。


「驚くと口を開けるのは一緒ですね」

「そんな癖ないわよ」

「癖なんて自分ではわからないものです」

「ねえ、エスクード。父は、この世界にいるの?」

「いるかと言えばおります。ただいないとも言えます」


 なぞかけのような言葉にムッとするとエスクードは声を出して笑う。


「父上がいらっしゃるのはおそらく神々の世界。私どもでは行ける場所ではないのです。今は道すらございません」

「そう。分かった。その日が来たら決めればいいわ。今は聖女の件が先。村人たちはどこにいるの? 伯爵の処遇も決めないと」

「かしこまりました。妃殿下」


 少しだけ核心に触れた気がした。探したいと今はまだ思えないから、探したいと心の底から思うまで出きることをするのだ。


「村人たちはここのはずれ鉱山にいると思われます」

「鉱山?」

「始まりの岩を探しているのです。世界の鍵がどうやって作られたかはご存知ですか?」

「ざっくりとだけど」

「鍵を壊すのも同じ岩からで来た石が必要なのです」

「鍵を壊す? なぜ?」

「一部の物は病が外から持ってこられたと言っています。なので短絡的に鍵さえなければなんとかなると思っているのでしょう」

「そんなことをしたらザンザールの怒りを買うのでは?」

「おそらく」


 鍵の重要性は望実ですら知っている。世界が長らく平和なのも、鍵と扉で制限されているからだ。


「それぐらい追い詰められていたのね」

「だから貴女が来たのでしょう」

「鍵の破壊はなんとしてでも防ぐと言うことでいいけれど、まずは伯爵になぜペッシュを知っているのか、ペッシュになにをさせたかったのか聞きたい」

「では共に」


 望実はふとエスクードを振り返った。


「貴方が宰相で良かった。この国に帰ってきてくれてありがとう」


 エスクードは目を細め、小さく笑むと「貴女が贈り人で良かった。この国に来てくださりありがとうございます」といった。

 望実は美形の笑顔はしんどいと顔をそらす。エスクードが芸能人だったら追っかけでもしていそうだ。年上好きだし、こんな笑顔見せられたら多少ときめくのは仕方ない。こんな時に何してるんだと思うけれど。


「ネビル、妃殿下を塔に」

「かしこまりました」

「サガは聖女様のところへ私がつれていきましょう」


 任せてくれるのだ。

 望実はネビルの服をつかむ。まだドキドキしている。いろんな情報がいっぺんに入ってきて混乱もしている。


「ネビルありがとう」

「礼など必要ありません」

「それでもありがとう。まだまだ無茶するだろうから、先払い」


 ネビルはくしゃっと顔をしかめて頭をかく。


「それは怖いですね」

「だから最後まで付き合ってもらうわよ」

「かしこまりました。どこまでもお供します」


 望実はしっかりと足を踏みしめて歩きだす。なぜだろう。この世界に来てはじめて自分の足で歩いている気がした。


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