あなたの道
目を覚ましたペッシュは結局何も言わなかった。望実は「言えないことはあってもいい。ただ言いたくなったらいつでも言えばいい」とだけ伝えた。
未来が降りてくるように突然分かるようになるとううのが聖女である証の一つとは聞いたけれど、自分がそんなものを見ても上手く思ったままを伝えるのは難しい。元の年齢は知らないが今はペッシュはオランジュと同い年なのだ。頭はついていけても体や精神が受け止められるかはまた別の話だ。
「ようやくなんとか話ができるようになったときおとなりのおばあちゃんがベッドで眠っているのがテレビでも見ているように目の前に見えたんです。一週間後おばあちゃんは死にました。お母さんとお父さんは信じてくれなくて、お兄ちゃんだけが信じてくれて、あんまり誰かに言っちゃいけないっておしえてくれて」
「サガ、いいお兄さんだったんだね」
「わるいこともするけど、やさしいお兄ちゃんです。だからこうやってのぞみさんとも会えました」
「そうね。サガが商人の財布を取ろうとしなければ私たち出会えてないもの」
「そんなことしてたんですか!」
「貴女を買い戻すために必死でお金を集めてたって聞いたけど」
「盗んだらきぞくといっしょになるっていつもいってたのに」
そこまでいってはっとした顔でペッシュが謝る。
「ちがうんです。お兄ちゃんからみれば、せっかく育てた食べ物を持っていく貴族は悪い人にしか見えなくて……だから」
「気にしないで。ほら私なんて転移だからがっつり日本から来てるでしょ。そうするとやっぱり感覚が違うから。ペッシュの言いたいことわかる。ただ貴族も貰わないと今度は国に払えなくなるし、国にお金がなくなるといざってとき動けなくなるし。できるだけ贅沢しないように気を付けないとね」
「みんなが貴族ならいいのに」
「本当に」
それなら気も楽だし、罪悪感も持たなくてすむ。今日泊まっている部屋も農村で泊めてもらった部屋と比べると恐ろしいぐらい豪華だ。これが普通ではないことを忘れないようにしないとと思う。
ペッシュは大きな部屋に目を白黒させていたが落ち着かないのか結局最終的に望実の隣に座っていた。
「私はこんなベッド寝たことなくていっつもぺったんこのせんべい布団でお母さんと二人で寝てたの。旅行も行ったことないし、習い事とかもしなかったし、車もなかったけど、貧乏は嫌だったけどどん底だとは思わなかった。それってすごい幸せなことだったんだなって」
ペッシュは感情を消したような顔でこくんと頷くので、亡くなった両親のことを思い出していたのかもしれないと望実は急に話を変える。
「そういえばサガってあの年にしてはかなり背が高いけど村では目立ってたんじゃないの?」
「かくれんぼで麦畑にいても茶畑のすきまでも一人だけ頭が出ちゃうから見つけやすかったです」
「たしかに。早くサガにもお腹いっぱい食べて貰わないとね」
ペッシュのわたあめみたいな髪を撫でているとなんだかぎゅっとしたくなる。こんなに可愛いのだからペッシュもあの小さな村で目立っていたんだろうなと望実は思う。やがて掌の温度が気持ちよかったのかこてんとペッシュが寝てしまう。
なんだか望実も眠くなってきた。一緒にベッドに横になる。子供の体温は温かく、思わず手を伸ばして抱き締める。緊張と疲れもあって布団をかぶると望実はあっという間に眠りについた。
「のぞみさん、のぞみさん」
「んーまだ、あとごふん」
「のぞみ、早くしないと間に合わなくなるかもしれませんよ」
ゾクッとするような怖い声で言われて望実は飛び起きる。イルとペッシュが顔を見合わせて笑うので二人とも随分と仲良くなったんだなと望実も照れ笑いする。
「また、化粧してドレス着るのよね」
「その通りです。ペッシュはこちらへ、私と朝食を食べましょう」
「私もお腹すいたのに」
結局、イルが手を叩いて女の人たちを呼ぶとなにかいう間もなく服を脱がせられ着せられていく。化粧が終わって解放されるとほっとしてしまう。一応お礼をいって二人のところへ向かうと当然すでに食事は終わっていた。
「ポメロ様にはサンドイッチを用意させていただきましたからご安心を」
「先にたべてしまってすいません」
楽しそうに笑うイルとすまなそうに頭を下げるペッシュ、両方を見て望実は仕方ないとため息をつく。サンドイッチを受け取ってまた馬車に乗り込む。
イルがカーテンを開けるので大口を開いてサンドイッチにかぶりつくことは出来ない。結局望実は時折頭を下げたり最敬礼を送ってくる住人たちに手を降り続け、お昼にカーテンを閉めるまで食べ物にはありつけなかった。
「ペッシュ。村につく前に大事なことをいくつか行っておきます。貴女は聖力と呼ばれている非常に大きな秘めた力をもっています。他国にいけば魔導師、または癒し手とよばれる職業につけるでしょう。彼らは自らの力を力に変えれますが、この国はその力を純粋な力に変えて出すことはできません。時に力は暴走した持ち主を飲み込んだりします」
そんな恐ろしいこと聞いていないとイルをみるが、これはイルにもありえる事なのだ。
「ですからコントロールしないといけません。私が大司祭として朝晩祈りのためにこもるのも丁寧に力を放出するからです。貴女の場合はたまりにたまると予見という力で現れるようですが、大きければ大きいほどその小さな体では耐えきれず最悪死に至ります。なので貴女がまずすべきなのは聖力のコントロールです」
「……コン、トロール」
「この石をあげます。毎日ここに力を流す訓練をしましょう。まずはこれからです」
小さな小さな石の欠片をペッシュは渡され握りしめる。石はすぐにパリンと砕けた。
「うむ、貴女は大司祭向きではないようですね」
それを見て眉間に皺を寄せてイルが言う。粉々になった欠片を集めてペッシュは頭を下げて謝る。
「気にしないでください。これは一種の適性試験です。ようやく後継者が見つかったと思ったのですが、一応こちらも」
そう言うと懐から拳大の琥珀色した石をイルはペッシュの掌にのせる。
「こ、こんな大きなもの。壊したら」
「まず壊せません。壊せるのは私ぐらいなものです」
小さい子に大人げなく絡むなあと望実が呆れたようにイルをみているとイルは分かっていますと言うようにはウインクした。絶対分かっていないと思うけど。
「ゆっくり、ゆっくりそう石全体を包むように、いいですよ」
「うわーすごい。綺麗」
ペッシュの手の中にあった石の中心に金色の影ができ、くるくると回り始める。やがて琥珀色だった石は目映い金色の石になった。
「先程はご無礼を致しました。貴女こそ間違いなく聖女。女神の愛し子です」
イルはにっこりと微笑むと手だけで最上礼をし、ザンザールそして女神に感謝の祈りを捧げた。
「貴女がどの女神の聖女なのか分かるまでは妃殿下の元にいるのがいいでしょう。ザンザールが照らす我が国はそこまでではないのですが、どの女神の加護を受けるかは大変重要です。宗派の争いは外にいけばいくほど苛烈になります。すべての女神の大司祭が祭りに集まり貴女に助力を頼むでしょうが、決めるのは貴方です。だから、それまで妃殿下のもと穏やかに暮らしなさい」
優しい言葉に聞こえるがそれはペッシュの厳しい人生につかの間の安らぎだけでも与えようと言う大人の考えに聞こえた。聖女が聖女でなくなるには力がなくなるしかない。
ゲーム内ではペッシュはとある事件でほとんどの力を使い果たす。オランジュに襲いかかったとある人物はどのルートでもポメロだ。逆にミラベルはあの人だったりするんだけど。ペッシュは予見していたおかげで場所の誘導や信頼できる人物にその場を見せることでポメロの暴走を押さえる。
ところでなんでポメロがオランジュを襲うんだろう。望実は首をかしげる。やっていない。嘘だと言い張るポメロの窶れた顔しか浮かばない。ほどほどの距離を保っていた親子はそこで完全に引き返せない道を歩むことになるのだ。
肝心なところなのにと拳を握るとペッシュになにか言われ真っ青になるポメロが頭に浮かんだ。
『……はすべての……を……やがて……』
中途半端な穴あきだらけの場面に頭を振る。きっと悪い方の予言をペッシュはポメロにしたのだ。それだけはわかる。
「のぞみ、大丈夫ですか?そろそろ村につきます」
「大丈夫です。すいません」
「お疲れでしょうから無理はなさらず、神殿のことは私の管轄、貴族のことはあの方の管轄です。貴女は後ろで頷いてくださるだけで十分ですから気負わずに」
イルはそういうと優しく微笑んだ。




