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姑ですもの!  作者: K
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王都へ一飛び

 寝心地は良くなかったがそれなりに寝たようだ。望実は目を擦ってカーテンのない窓を見る。真っ暗だった空が明るくなってきている。

 ちらっとドアの方を見るとネビルが昨日と変わらない姿のまま立っていた。自分が目にみえる形で誰かに守られていると自覚するのは不思議な感覚だ。

 お伽噺のように自分だけを守ってくれる人がどこかに居てくれるはず。そう空想するのは楽しい。

 今、武器を持った誰かがこの小屋に入ってきたら迷いなくネビルは剣を抜くのだろうし、ネビルより強い相手が来たら向こうも躊躇いなく急所を狙うのだろう。その現実が望実には重かった。今、自分がいるのは安全な日本ではないのだ。


「おはようネビル。少しだけでいいから寝て」

「さすがにそれは」


 来ないようにと手をあげて制止するネビルに首を振って望実はペッシュの頭を鞄にのせる。


「貴方が倒れたら全員が城にたどり着けなくなる。見張りなら少しの時間なら私もできるから。お願い」

「耳を済ませて朝鳴く鳥達の声の向こうに、馬の足音を聞き分けれますか?」

「そこまでは出来ないけど今、何も近づいていないのは分かる。ネビルがこっちにこないなら私がいくから」


 望実はネビルの隣に座って肩を引っ張る。


「五分寝るだけでも違うんだって、命令したら休んでくれるの?」

「ポメロ」

「膝の方がいい?」

「……グルナードに殺される」

「ネビルったら旅に出てからそればっかりね」


 ネビルは仕方ないと腰を下ろすと望実にもたれ掛かる。簡易だが鎧の冷たさに望実はびくっと肩を震わせた。


「あいつは、まだ待ってるからな」

「えっと前の王様のこと?」

「大司祭様か……そうだ。俺も好きだった。王様って言うよりアニキって感じでさ。釣りにいったり狩りにいったりそのまま野宿してグルナードの父親に散々怒られて。でもまたふらっとどこかへ行ってしまう。風みたいな人だった」


 父親の事なのに、想像もできないのが少しだけ寂しい。帰ったら絵姿でも探そうと望実はネビルの目を片手で覆う。

 こう言うのって家族みたいでいいなと思う。ただ恋や愛かと言われる違う気がする。大好きな憧れの先輩を見守りたいそんな感覚が近いと思う。そもそも全力で守ってもらうことに嬉しさより失う恐怖の方が先に来てしまう時点で望実にまだ恋は早いのだろう。

 しばらくぼんやりと肩の重みを感じながら望実は外を眺めていた。はっきりと日が登り始めると一点染みのような何かが大きくなって近づいてくるのが分かる。近くまで来た点は鷹だった。くるくると辺りを回りこちらに急降下してくる。


「ネビル、見て。鷹が来る」

「……すいません。寝るつもりはなかったのに」

「休めたなら良かった。それよりあの子はいつもの子と違って見えるけど、ティエラ家の鷹かしら?」


 望実が指差す方を目を凝らしネビルは立ち上がる。


「あれは……はい。そうです。ティエラ家のものですが……」


 ちらっとネビルは望実を見、ため息をついて頭を押さえた。ドペリから聞いた悪いティエラ家の人かもしれない。思い出すと急に心臓がバクバクと音をたてる。誰も死にませんようにと祈ってネビルから離れようと立ち上がる。

 巻き込んでしまった二人だけはきちんと逃がさないといけない。


「特殊な鷹で……その、エスクード様のものです」

「え? 宰相の?」

「はい。我が国の宰相、エスクード・ティエラ様の物に間違いありません」

「なぜ宰相の特別な鷹がいるの? グルナードではなく?」


 猛烈な風が辺りに吹く。目を開けると窓の外に男性が一人立っていた。いつもと違っていて簡易な服を着ているが、間違いなくエスクードだった。


「エスクードが一人で来てなにかなるのかしら?」

「……何も知らないから姫様はティエラ家にそんな口が聞けるんです」


 確かに何も知らないなと思って望実が頷くとネビルは呆れたようにため息を突かれる。


「あの方が消えろといえばほとんどの貴族は跡形もなく消える。それぐらい力のある方なので、あの若さで宰相を勤められるんです」

「ねえ、ネビル。そのすごい力のある方なんだけど物凄く怒ってる気がする」

「ですね。グルナードの前にあちらに殺されるより酷い目にあいそうです」

「ネビル意識を強くもって、見なかったふりしてどこかいきましょう」

「どこかに行けるはずがない」


 がちゃっとドアノブを回す音がした。エスクードは躊躇いなくガラスの割れ目から手を中にいれ鍵を開ける。


「どこかには行けるって、ほら」

「どこにも行けませんよ。妃殿下」


 顔は笑顔を作っているのに目が一ミリ足りとも笑っていない。ネビルに思わず望実がしがみつくと、エスクードはああと笑う。


「護衛が妃殿下をかどわかしたというのは本当だったようですね。かどわかしたというのは些かおかしい。そうです。駆け落ちなさったのでしたね」

「そ、そうなの。私がどうしても行きたいって駄々こねたの。ネビルはちっとも悪くないから、罰を与えたりしないで、お願いエスクード」


 体温を感じない冷たい瞳に望実は震えそうになる。ティエラ家がグルナード以外信用できないとしたら望実はどうすればいいのだろう。


「申し訳ありませんが、ネビルに罰は与えなければいけません。騎士も侍女も侍従も、妃殿下とネビルが一緒にどこかにいったことのみ知っていて、それ以外のことは知らせておりませんので、当然知りません。勝手に回りが噂するのを止めて回る暇は私にはありませんので」


 兄弟揃って性格が悪いと叫びたくなるが、自分の方が不利なのは分かっているので望実は奥歯を噛み締めて睨むだけにした。グルナードですら完敗な自分が国の代表として動くこともある宰相に口で勝てるわけがないのだ。


「そんな忙しくしているなら、なぜここまで来たのですか? オランジュは大丈夫なのですか?」

「殿下は真面目に勉強していらっしゃいます。教師達に神殿になぜ妃殿下が籠らなければいけないのかお尋ねになり、熱心に自分もいけないのか調べておいででした」


 なんていい子なんだろうと涙ぐみそうになる。エスクードはそんな望実にハンカチを渡すと視線を望実の奥に移す。

 しっかりと抱き合いながらペッシュを庇うサガを見てエスクードは「あの子が聖女候補ですか?」と望実に尋ねる。


「そうよ。ここに小屋があることも彼女が言い当てたの」

「前々から知っていたという可能性もありますよ。それはさておき、妃殿下にはお帰り頂きます」

「ダメよ。今帰ったら村の人たちが」

「そのための私です。ここは私にお任せください。すべて丸く納め、さすが宰相と言わせて見せましょう」


 どこか楽しげに笑うエスクードは、はっきりいって怖い。怖いが国一番の智者なことは確かなのだ。望実がない頭を振り絞るより良い案がその頭にはつまっているに違いない。


「ペッシュはどうするの?」

「彼女と妃殿下ならご一緒できるでしょう?あなた、そうです。見たところその幼女の身内でよろしいですか?」

「兄だ」

「ポメロ様と彼女には安全な場所にお移り頂きたいと思っています。貴方はネビルと一緒に村でやっていただきたい事があるのですが、やっていただけますか?」

「……ペッシュは、どこに行くんだ? 人攫いじゃないとどうして分かる」

「二人は必ずすぐこの村に戻ってきます。ザンザールに誓って嘘は言いません」


 サガはしばらく考え込んでいたがやがて頷いた。


「妹を頼む。ポメロもペッシュについててやってくれ」

「もちろん」

「すぐに答えを出さないところは良いですよ。貴方、中々に鍛えがいがありそうだ」


 そういえばゲームではサガはティエラ家の従僕として働いていたはずだ。望実としてはティエラ家持っていかれるつもりはなく、出来れば神殿で二人が一緒にいれる環境を作りたいと思っていた。


「サガはペッシュと暮らせるように手配したいから持っていかないでね。とりあえずペッシュ、まずは一緒に安全な場所に移動することになるけどいい?」


 こくっと頷くペッシュの手を握り望実はエスクードと向き合う。


「馬車もないのにどうやって戻るの?」


 その疑問はすぐに解消された。エスクードが笛を吹くと空から大きな籠のようなものをもって朝みた大きすぎる鷹が降りてくる。


「まさか、これにのって?」

「そうです。大人一人しか運べませんがその幼女は軽そうなので乗れるでしょう」


 気球の下の部分のような籠に小さな椅子があり望実がそこに座り、ペッシュが望実の膝に座る。二人が座ったことを確認するとエスクードは毛布で二人をぐるぐる巻きにして、ベルトのようなもので二人の腰を固定し動かないか確認する。


「鍵の開け方はグルナードが知っておりますのでけして城につくまで動きませんよう。落ちたら大変なことになるのはお分かりですね」


 ぶんぶんと縦に首を振る望実を見てネビルが小さく笑う。


「では、マハード。妃殿下を頼みますよ」


 エスクードの声に答えるかのように甲高い声で大鷹が鳴く。

 助走をつけて飛びだった鷹がぐるりと旋回して降りてくる。獲物をとるようにしっかりと鍵爪で望実が座っている籠を持ち上げ鷹は飛びだった。


「ネビル、絶対にグルナードに掛け合うから」

「姫様」

「サガも待っててね。あ、エスクード二人をいじめたらダメだからね」


 エスクードが吹き出した気がしたが、あのエスクードだし見間違いだろうと望実は顔をあげる。


「高所恐怖症とかじゃない?」

「はい、へいきです。ただ、すごい。ゆめみたい」

「本当ね」


 小さくくしゃみをするペッシュを抱き抱えながら毛布はかけてもらったけど、速度もあるし結構寒いなと下を見おろす。


「みて、ペッシュ。神殿の回り、男の人たちがかなりいる」

「わたしたちをさがしてるんでしょうか?」

「そうかもしれない。伯爵の家の人かもしれない。ともかく静かにいきましょう」


 通ってきた街や村を見ながら二人で何度かくしゃみをする。その度に顔を合わせて笑いながらひたすら飛び続けた。三日近くかかった距離なのだ。直線でいってももう少しかかると思う。

 数時間後、サガとあった村が見えた。ここから馬なら数時間、馬車なら半日で城につく。いくつの山をぐるぐる回りながら進んでいるのだろうと思いながらかなり大きな山を飛び越えると、小さく城の塔が見えてきた。


「そろそろトイレも限界」

「わたしも、いきたいです」


 あと少しがとんでもなく長く感じた。鷹は城を飛び越え神殿の中庭に降りた。


「のぞみ」

「……イル、心配かけてごめんなさい」

「今、はずしますね。トイレにいきたいでしょう?部屋も温めておきました。この子が、例の子ですね」

「ペッシュ・ロベリともうします」

「ようこそザンザールの大神殿へ、とりあえず挨拶は中でしましょう。二人ともお帰りなさい」


 何はともあれ望実とペッシュは今までにない早さでトイレに向かった。

 異世界の空の旅は色々と大変だ。



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