どこまでも四人で
ゲホゴホと咳をしながらクモの巣だらけの道を強引に進んでいく。蝋燭の灯りで照らしながら匍匐前進でなんとか進める道を進んでいく。ひたすら下りに感じるのはなぜだろう。しばらく進むと突き当たりにあたってしまう。後ろからサガとペッシュが来ているのに止まるわけにはと強引に押してみるがうんともすんとも言わない。戻るには倍の時間と苦労がかかるし、こんな場所に二人をつれてきた責任もある。
「動いて……動け、開いて!」
力任せに押しても扉は開かない。ふうと息を吐いて今度は扉を横に押してみる。押して駄目なら引くかスライドだ。さわっているとなにか穴のようなものがある。
「あっ!?」
「おまえ煩いぞ」
ポケットを探りイルがくれた石を取り出す。ぴったりと石がはまって扉が開いた。ようやく広い空間に出たがここがどこかわからない。サガとペッシュを引っ張り出して三人で白い空間を見つめる。
「ここどこか分かる?」
「わかんねえ、いや、ちょっと待てよ」
望実の手から蝋燭を取るとサガは辺りを見回す。しばらく色々確認しながら唸っていたがペッシュに「覚えてるか?」と尋ねた。
「村の何人かでここに来たことがあるはずだ。おまえが藪の中をひたすら突き進んで迷子になって探し回ったあげくここでぼんやりしてたんだ」
「……ごめんなさい。おぼえてない」
「まあ、三才ぐらいのことだもんな。目を放したってばれて母ちゃんにむちゃくちゃ怒られたから覚えてるだけで」
顔色が悪くなっているペッシュが気になって望実は先を急かすように「じゃあ出れるの?」と聞いた。
「ペッシュが迷子になったとき危ないからって塞いだって聞いた気がするんだよな。ただここら辺は背が高い雑草がよくはえてるからそのままにしても人は来ないってんで放置されてるかも」
「ともかく出口まででないとダメね。ネビルはこの場所を通れるか微妙だしとりあえず外にでて鷹を呼びましょう」
立って歩けるだけありがたいと出る前に扉から石を取って扉はネビルが万が一に来たときのために開けておく。
「ここ、どこかに似てると思ったら転移者の間に似てる」
もっとも、こちらは白で女神の彫刻が置かれていて向こうは黄金で輝いているのでずいぶん違うが、作りが近い気がする。もしかしたらここに贈り人がいたのかもしれない。
「ぶつぶつ言ってねえでいくぞ」
「分かってる」
少し小走りで出口をひたすら目指す。行き止まりはサガと強引に押すと抜けることができた。木の蔦で作られていたのが古くなって脆くなっていたのだ。ようやく日が当たる場所に出れた。
望実は真っ先に首にかけていた笛を取り出して吹く。やがて甲高い鳴き声と共に鷲が舞い降りてくる。メモ帳とシャーペンを取り出して朝とおった裏の山と書いて「ネビルに渡して」と頼む。鷹はじっと望実を見つめて任せろというかのように羽ばたく。
「サガ、せめて荷馬車にのせてくれたおじさんのとこまでいきたいけど日暮れ前に間に合う?」
「どうだろうな。それに近くの村が安全とは言えねえだろ? 他の村も働き手以外を売って暮らしてるならそっちの味方をする事もある。それぐらい金がねえと大変なんだ」
「こう言うときにネビルがいないと辛いわね。野宿はしたことないし」
テントもなければ布もない。ここまでサバイバルなのは始めてだなととりあえず海に向かって歩くことにした。伯爵の城とは逆へ行けるとこまで歩く。途中サガと望実は泣き出しそうなペッシュを交代しながらおぶって歩き続けた。
「夏の間畑が手がかからない時に漁にでる漁師の小屋があってそこで休めねえかな」
「ただそういう場所があるって皆知ってるなら真っ先に知らされそうじゃない?」
「確かに……後は森で木に登ってロープで縛って寝るぐらいしか」
それはそれであまり寝相がよろしくない望実は真っ先に落ちそうだ。
「洞窟を見つけてさっきの神殿の抜け穴みたいに枝や草で覆えないかな」
「あまりやり過ぎるとネビルと合流できなくなるぞ」
「……このみちをまっすぐいくと、なにかあります。こやに……さっきのはとがみえる」
「ペッシュ。わかった。サガ、とりあえずまっすぐいこう。そろそろ日がくれる。山の中に古い小屋があるならそこがいい」
「ここをまっすぐなら適当に俺はあっちこっち歩いてくるぜ。足跡が真っ直ぐに三つあったら追っ手がみる目があればすぐに辿れちまう」
「気を付けてね」
しっかり頷くサガを送り出して望実は大丈夫というペッシュをおぶって道なき道を真っ直ぐに歩いた。そろそろ周囲が見えなくなりそうな夕暮れ時、倒木で見えづらいが古い家のたぶん屋根が見えてきた。
崖にぴったりとくっつけるようにたっている小屋はありがたいことに誰がいる気配はない。倒木と倒木の間を擦り傷だらけになりながら望実は進んでいく。扉を押すが鍵がかかっていて開かない。最悪玄関に壊れそうだけど屋根がかかっているのでここで野宿もましかなと考えているとペッシュが石を拾って玄関の窓を叩き、手をいれようとする。
「ペッシュ、貴女けっこうやるじゃない。でも怪我したら大変だからそれは私にやらして」
バックから布を出して腕にぐるぐる薪にしてペッシュが割ってくれたガラスの部分に手を通す。簡易な鍵だったのか持ち上げるだけで簡単に扉は開いた。
「これならヘアピンでいけたかもね」
髪からヘアピンを取って見せると心配そうだったペッシュが小さく笑った。
「後はイルの鳩にここにいてもらえばサガもネビルもたどり着いてくれればいいんだけど」
先程持っていた蝋燭を取り出してとりあえず火をつける。ボロボロにはなっているが屋根も大きな穴は見えないし、壁もきちんとしている。がさごそという音は聞かなかったことにする。サガがきたらネズミと虫は退治してもらえばいい。下手に噛まれでもしたら大変だ。
わざと音をたてて隅までいき、蝋燭を下ろす。灯りでばれるのもこまる。暖炉もあるが煙で遠くからも使われているのがわかってしまうのでつけれないだろう。くちそうなテーブルと椅子が二つ。枠だけのベッド。小さな暖炉のそばには空っぽだけど棚もある。
「夏だけの猟師小屋とかかな」
「……だれかくる」
ペッシュを抱き締めて暖炉の側の火かき棒をつかむ。じっと構えて動かずにいると「ペッシュ、ポメロ」とサガの声がした。ペッシュと顔を見合わせてほっとする。
「けっこうましなとこじゃん。ちょっと待ってろ。簡単に入れないように仕掛けしてくるから、あ、ロープとかある?」
「長くないけど」
「これぐらいで大丈夫。ペッシュ、頑張ったな」
優しい兄の顔で頭を撫でるサガに望実は思わず「いいな」と呟いてしまう。
「いいぜ、おまえもよく頑張ったな。強行軍なのにへこたれねえし、すげえよ」
そういって頭をグシャグシャにするとサガは笑いながら外に出ていってしまった。
「すいません。ちょっとごういんだけどいいおにいちゃんなんです」
「うん、だから羨ましいなって。私、男兄弟に憧れてたから。あ、でも妹もすごくほしかったよ。一緒に街にいってソフトクリームとか食べながらおしゃれして……ここを切り抜けられたら一緒にいこうね。ソフトクリームはないかもしれないけど、アイスクリームはあるし」
ペッシュは望実の手をぎゅっと握ると「はい」と頷いた。こんな可愛い妹なら是非ほしい。ミラベルも美少女だけど見た目以上に生身が小さな淑女なので話すとき少し緊張するのだ。
「よしこれでいいな。ベリーしかないけど取ってきたから食べようぜ」
「サガ、やるわね。実は私もお昼に出たパンの残りをいれてきたから半分ずっこで食べましょう」
丸くい小さなパンだがこんな状況だと美味しく感じる。一応四等分にして一番大きいのをサガに渡す。ベッドの木枠にハンカチを引いてベリー系の実をおいて望実が持っていた水筒を回し飲みしながらゆっくりと食べる。オランジュは今頃ちゃんと食べているのだろうかとぼんやり望実は考える。
「ポメロ、火を消せ」
「え、ええ」
ふっと息をかけて身体を縮める。サガが腰に差していたナイフを構え入り口で待ち構える。
「姫様。ここですか?」
「ネビル、ここだ」
「サガ、無事だったか。よく姫様を守ってくれたな」
ほっとしてペッシュと見つめう。月明かりがずいぶんと明るく感じる。こんな風に月だけが輝いているなんて向こうでは見たことがない。
「とりあえず馬を少し離れた場所においてくる。切れるだけ切ったので川を探して洗ってからまだ戻ってくる。サガ、ここはまだバーナン伯爵の領地だ。気を抜くなよ」
「当たり前だ」
うとうとしているとこてんとペッシュが望実の膝に転がる。浅く寝ていたようだ。サガも立ったまま時折かくんかくんと揺れながら目を擦っている。
「遅くなってすまない」
「いや、人がいるのか?」
「川の下流にちらちらと灯りを見たがここまで夜のうちに来ることはなさそうだな」
「一晩はここで夜明けと共にひたすら領地越えだな」
そう言うサガに返事をせずネビルは望実をみて膝を折った。
「お疲れ様。見つけてもらえて良かったわ」
「大司祭の鳩をティエラ家の鷹が見つけてくれました。一晩は彼らが見張っていてくれると思います」
「二人に感謝しないとね。ネビルもお疲れ様」
いらないというネビルに食事を強引に押し付けて望実は床に座る。
ネビルがサガに交代するといって寝かせる。二人が寝静まったのをみて布をかけるとネビルに手をとられた。
「このままいきましょう」
「なぜ、二人はどうするの?」
「彼らはここにおいておいても大丈夫ですが、貴女が万が一にも傷などつけられたら大変なことになる。馬ならかけ続けて1日かからないでしょう」
「そんな、大袈裟よ。それになぜペッシュにあうための旅なのにここでおいていけと? 本末転倒じゃない。ちゃんと四人で城にいくの。その前にあの村に必ず戻らないと」
「貴女がそうおっしゃるなら」
ネビルの言うことも分かるのだ。ただ望実には予感があった。必ず迎えがくるという予感が。




