聖女と私 ⑦
まずはこの城壁から出なければいけない。望実はサガとペッシュに馬車に向かう作戦について話し始める。
「一番いいのはネビルに抱き抱えてもらうことだけどそれだとペッシュごとだし、なにかあったら形が浮き出てしまうかもしれないでしょう? だからこれが一番なの」
「……本当に、本当にそれが一番なんだな?」
「私の体力が続く限り頑張るから」
作戦はこうだ。スカートをめくる。足の甲にペッシュにのってもらい、望実の足にしがみつく。望実は馬車まで頑張って歩く。
伯爵が足元まで隠れる布をたっぷりつかったドレスに着替えさせてくれたのでできる作戦だ。とりあえずスカートの中にペッシュに入ってもらう。座れば形は見えないのでとりあえずオーケーだろう。ただペッシュもそれなりに重さはあるので馬車に乗り込むための階段はスカートを広げている間に先にペッシュに登って入ってもらうことにした。
「よくそんなアホみたいな作戦考え付くな」
「前代未聞過ぎてむしろ伯爵も疑わない気がしてくるので不思議だ」
「じゃあペッシュいくわよ」
「は、はい」
拳を向けると拳をこつんとしてくれるので望実はガッツポーズをとってスカートをばっとめくった。
「おまえは少しは恥じらえ!」
「せめてもう少し恥じらいってもんを持ってくれ!」
同時に同じようなことを言われた気がするが気にしない。下に半ズボンをはいているのでパンツは見えないし、グルナードもコラーダもいないのだ。怒る人がいなければ問題無しである。
問題は馬車までのおよそ十五歩ほどである。思っていた以上に重い。重い上にペッシュだって囚われていたのだ。そう腕の力が持つとは思えない。
ただ身一つで乗り込んだ望実が出る際に何かもっていたらおかしいだろう。ネビルに支えてもらいながらねんとか馬車までたどり着く。身体中汗でびっしょりでペッシュの手が滑ってしまうのではと心配になるぐらいだ。
「皆様ありがとうございます」
馬車の踏み台に足を強引に持ち上げペッシュが足から降りるのを確認して望実は声をかける。ペッシュが階段を上がるとネビルが馬を強引に馬車の入り口に止め身体で二人を隠してくれる。スカートの裾をつかんでなるべくふわりとなるように歩く。
望実が腰を掛けたと同時にペッシュにはもう一度足の甲にすわってもらいネビルが扉を閉める。そこからは馬車が出るのを待つ。
窓から顔をだし望実が頭を下げると執事が丁寧に礼をする。
やがて馬車はゆっくりと動き始め門に一度止まる。
「先程はお世話になりました」
「お気を付けて」
挨拶をして手を振ると門番は笑いながら手を振ってくれる。部屋であのときあったバーナン伯爵は底が知れない感じだったが働いている人達は皆、おおらかで真面目そうだっだ。どうもまだ望実の中では伯爵の悪事と伯爵自身が一致しない。
「ペッシュ、そろそろ大丈夫だから」
御者から見えないようすべての窓のカーテンを閉じてスカートをまくる。ペッシュの腕をとって隣に座らせると望実はハンカチを取り出して汗を拭いた。
「私はどこにつれていかれるのでしょうか?」
「貴女のいた村はほとんどが昨日の嵐と火事でなくなってしまったの。出来れば一緒に城に来てほしいのだけど、無理強いはしたくないから無理にとは言わないわ。お兄さんと離れたくないのなら二人一緒に来てくれていいから。大歓迎よ」
「えっと、兄とそうだんさせてください」
「もちろん。大事なことだものね」
望実はペッシュをちらちら見ながらどこまで聞いていいんだろうと考える。転生者といっても日本語を知ってるだけの外国人の人だっているし、挨拶なら知っている可能性もある。
「日本のえっと、かたなんですよね
「うん。こっちではポメロって呼ばれてるの。本当は津野望実っていうの。向こうにいたときは高校生だよ。ペッシュちゃんは?」
「…前はモモって呼ばれてました。日本のきおくはあまりなくて」
「そうなんだ。モモちゃんか、ペッシュも桃だしぴったりな名前だね」
ふわふわと結べるぐらいの長さで揺れている髪は、日本では見たことのない綺麗な桃色をしていた 。いいなと羨ましくなって望実は髪に触れてみる。
「あっ……」
「ごめん、嫌だったらやめるから」
「だいじょうぶ。いやじゃなくて……その、とうちゃんもかあちゃんももう、いないんだなって……だからのぞみ、さんがなででてくれるのが嬉しいです」
「そうか、いくらでも撫でるからいってね」
望実が自分の胸をどんと叩くとペッシュがようやく笑う。
「じつは、その……わたし」
「色々聞きたいことはいっぱいあるんだけど、とりあえずついたみたいだから後で話そう」
「わかりました」
止まった馬車からまずは望実が降りる。御者にお礼をいって望実が引き付けている間にペッシュに反対側のドアからでてもらい、植え込みに隠れてもらう。
二人で打ち合わせ通りに別々のドアから降りる。御者に謝礼を渡し見送る。ちょうど見えなくなったので植え込みからペッシュを引っ張り出して二人で笑い会う。
ペッシュは昨日の火事で燃えてしまった村の焦げ跡を見ながら目を潤ませる。今はこうすればよかった、ああすればどうだっただろうと色々考えている暇はなかった。
「もう少ししたらネビルとサガがくるから待ってましょう」
「はい」




