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姑ですもの!  作者: K
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大司祭の報告

「オランジュ、ずっと待っていてくれたの?」

「はい。待っていました」


 目を開けると心配そうにオランジュがこちらを見ていた。頬に触れて「ごめんなさいね」と望実が言うとオランジュは「怖かったです」と素直に答える。手を握られてその手に子供らしからぬ冷たさを感じて望実は勝手な事をしたグルナードを恨む。もちろんあれだって望実のため、なのだろうけれど。


「サーシャなら多めに見てくれるでしょう。オランジュほら」


 ベッドを詰めて布団を開けるとオランジュはもじもじしながら自分を見つめる。


「ほら、寒いからおいで」

「はい!」


 飛び込んできたオランジュを望実は受け止めて一緒に布団を被る。秘密基地で遊んだ時みたいだ。


「今日のははうえはかっこよかったです。でもちょっとエスクードみたいでこわかったです」

「氷の宰相並みにきっれきれだったのね。でも今日のは敵相手だから、はっきりノーって言わないと私達二人にとって大変なことになるの」

「けっこんですか?」

「それ以外もね」

「ノーってなに?」

「ダメとかイヤとかそういう感じかな」

「オランジュはははうえとけっこんしたいです。いやなのですか?」


 そんな涙いっぱいの目で訴えられてもと望実はオランジュの手を握りながら困り果てる。かわいい。すごくすごくかわいいのだ。父親が娘にパパ結婚すると言われて大喜びするのをテレビで何度か見たことがあるが、その父親の気持ちがわかるぐらいにかわいい。けれど、それとオランジュと結婚するのは別の話だ。オランジュが血の繋がりのない祖父に頼んだら、また誰かが死ぬかもしれない。


「嫌じゃないよ。私もオランジュが大好きだから」

「はい」

「ただ……オランジュはもう少し大きくなったら考えればいいと思うの。私は王様と結婚したからオランジュの養母になれて、それがとても嬉しい。オランジュといれるのも親だからなの。親子は選べないでしょ?」


 まだ見ぬ父がそうであるように、王族とはいえ結婚相手はまだ選ぶ余地があるが親子は選んでなれるものじゃない。望実はその中で、王様とオランジュに選んでもらって親子になれた。


「ぼくがおとなになるまで、だれともけっこんしないでいてくれますか?」


 ゲーム通りなら十年以上先の話だ。ペッシュかミラベルが嫁になってくれればだが。けれどオランジュの健気さはグルナードにあんな仕打ちをされた後の望実の心を強く打った。


「ええ、いいわよ。私の小さな王子様。大きくなってかわいいお嫁さんをつれてくるまで私は結婚しないでいてあげる」

「やくそくです」

「約束!」


 小指を握り合うとオランジュは嬉しそうに何度も笑った。そして耳元でははうえとグルナードが結婚するのかもと言われて悲しかったのだと小声でいった。誰がとんでもないことを言うのだろうとベッドから起き上がるオランジュの頭をくしゃくしゃにして勢いで頬にキスする。


「おやすみなさい」

「おやすみなさい。よく眠れますように」


 ドアの向こうにサーシャがいたのだろう。会話が聞こえてオランジュが遠ざかる。


「グルナードと結婚とか、考えられないな」


 そもそも王様と結婚した記憶も望実にはないので結婚のイメージがわかない。両親揃っているのを見たこともないし、アパートの住民は恋人はいても夫婦はいなかった。お隣のおばあちゃんは戦争の時に夫を亡くして若いままの遺影をずっと大事にしてきたといっていた。ツンばかりで口が悪いのにその人の話をするときは柔らかな表情で優しいお嫁さんになっていた。

 冗談でいったのだが、先生かネビルの方がまだ結婚相手にするならいいと思う。


「日本にいたら結婚なんてまだまだ先だし、十年後でも若い方だけど」


 のらりくらりと交わすしかないかとため息をつく。今日の演説だって社会科の教科書にかいてあったエリザベス一世の項目をちょっと頂いたからなんとなく辻褄が合うように話せただけだ。

 しばらくは散歩も控えるようにと言われてしまったので城の中庭にももちろん神殿にもいけない。図書室にこもるかなと望実は目を閉じる。

 どんな気持ちで王様に嫁いだのか、ポメロに無性に聞きたかった。




 朝、望実が起きるとイルから手紙が届いていた。いつものご機嫌うかがいかなと開けてみると昼頃そちらに行きますとかかれている。あまりに簡潔な文に眠気が一気に吹っ飛ぶ。


「コラーダ、大司祭様をお迎えするのはこの私室で大丈夫なの?応接間を用意しないといけない?」

「使者をたててお迎えするのでしたらもちろんそうせねばいけませんが」

「昼に伺うとだけ書いてあるの」

「でしたらこちらで大丈夫かと。お付きの方等については書かれていませんか?」

「ないわね」

「でしたら私的なものでしょう。大司祭様は甘党でいらっしゃるので先に厨房に注文して来ますわ」


 コラーダが出ていってしまったので望実はお茶を次いでくれているミリヤに「私的な訪問の場合、服装はどこまですれば失礼でないのかしら?」と尋ねる。


「グルナード様とお会いになる格好でよろしいかと、簡素なものの方が普段見慣れていらっしゃるでしょうし神に仕える方には好ましく映るかと」

「ありがとう。グレーのワンピースでいいかしら?」

「結構です。お持ちいたします」


 なかなか板についてきたじゃないかと自画自賛しながら着替える。コルセットはつけず、望実が着ていたスポブラとシャツを中に着る。式典の前に仕立て屋を呼んでもらえるときいたのでその時にでも作ってもらえるか聞いてみようと思う。

 どこかに転生者がいて下着フルセット作ってくれていればいいのになと現実逃避しながら、イルを待つ。

 オランジュとランチをとっていると近衛がやってきて大司祭様がご到着されたと報告してくれた。


「これから司祭様が先日のお見舞いに来てくださるの。オランジュは午後は何をするの?」

「きょうはけんのにぎりかたをおそわります」

「がんばってきてね」


 望実が拳を出してこつんと合わせると首をかしげてオランジュは自分の拳を見つめる。


「気合いが入る儀式よ」

「がんばります」


 部活でやっているのをみていいなと思ったのでやってみたがオランジュの評価も上々だ。

 オランジュと入れ替わるようにイルがやって来た。


「大司祭様となると衣装も気軽に変えれないんですね」

「ふふ、妃殿下は面白いことをおっしゃりますね。神に汚れなき者と見ていただくために司祭や巫女は白を基調とした服しか来てはいけないのです。妃殿下のような服を着てみたいと思ったことがないとは言いませんが、この服でないと落ち着かないんですよ」

「制服……近衛や侍従も同じ服装を求められますものね。やはり決まっていると楽ですからそのよさも分かります」


 本人たちは楽しんで会話していたのだが、ミリヤは後ろでヒヤヒヤしていたそうだ。

 お茶を飲みながら雑談をし、しばらくしてから二人にしてほしいと頼む。


「妃殿下の活躍は私の耳にも入ってきております。少々目立っているようですが」

「ええ、やりすぎたことは反省してます」

「なら余計に視察という目的で田舎にいかれるのはどうでしょうか?妃殿下、こちらなのですが」


 紙を広げると見たことのない地方の地図がかかれている。


「南北東西、今年の病は民に重くのし掛かっているようです。当初貴族だけがかかると言われていたようですが地方の神殿は人手が足りず大変なことになっているとか」


 南北東西というときに北を強調してイルは丸を地図の上で書いた。北の少女がそうなのかと望実は顔をあげる。


「それぞれの地方から報告に少女たちが来てくれたのですが、今年は地方を回ることはできそうにありません。ただ北は視察にいこうかと思っております」

「お勤めお疲れ様です。大司祭様がお越しになれば地方の方々も慰められると思います」

「そういえば、教師の件、貴族達の了承も得ることができました。しばらくは教師としてこちらに越させていただきます」

「本当に?」

「はい。朝と夕に勤めがありますので、今ぐらいの時間に参ります。週の終わりは来ることができませんが、よろしくお願いいたします」

「私こそよろしくお願いします」


 私室とはいえ扉の向こうは侍女も近衛もいる。あまり大きな声で話せないしイルの私室のように自分をだすことはできないが、それでも望実は嬉しかった。

 話ながら地図の上の紙には『北に聖女候補あり』と書かれていた。この状況でどうやって北に行けるのだろうか?

 グルナードは許さないだろう。


「私、ネビル・ウェルテクスにひとつ貸しがありますの。ですから、貸し分を返して頂きましょう」


 ちょっとだけ悪い顔をしてイルが微笑む。グルナードそっくりの笑いかたにやっぱり似た者同士なのではと思ったが、外に出てペッシュを探すなら儀式が始まるまでの期間しかない。


「イル、よろしくね。ありがとう」

「そのお言葉だけで十分でございます」


 抜け出せると思えば元気がわく。雑談をしながら、しばらく文字と読み書きを初歩から丁寧に教えてもらう。オランジュの盗み見作戦は結構役に立っているようで、子供の読み書き程度は出来ているとイルに言ってもらえた。

 扉がノックされミリヤの「お時間です」という声が聞こえるとイルはまた明日と帰っていく。

 ネビルの背中をみながらよろしく頼むからねとお願いして望実はしばらくイルがくれた課題の予習をして過ごした。



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