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姑ですもの!  作者: K
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踊れ議会

 静まり返った議事堂の廊下をなるべく胸を張って堂々と見えるように歩く。二回りどころか四回りは年上な男性ばかりの議員達の中で自分とオランジュは異質だ。

 黒のかっちりしたスーツがほとんど中で色だけでも浮かないようにと紺のドレスを用意してくれたミリヤはさすがよくわかっている。領主と跡継ぎどちらの資格も持っているミリヤですら議員になる資格はない。

 この場に集っているのは大臣、一族の長、地方の現領主であり、議員はあるが彼らは日本のように選挙で選ばれているわけではない。時折神託で選ばれることもあるようだが、基本的には大臣で貴族で領主なこの国のエリート中のエリートがいることになる。

 その話を聞いたとき女性の議員や領主も増えればいいのにと思わず望実は言ってしまったが、この国がザンザールの神元であるかぎり難しいという望実としては繋がらない答えを出されてしまった。


「神のみ前で嘘偽りなく国のために仕えると誓います。この議会に加護と知恵を願います。第48回リヤン国議会をはじることをポメロ・リヤンが宣言いたします」


 第何回かは年事の回数ではなく王の即位から退位に至るまでに何度会議が行われたかを数える。今は王の代理という立場のオランジュと望実なので亡くなった王の会議数に今日の会議は加算されている。オランジュが王になって開かれた会議から一に戻るのだそうだ。


「一の議題。まずは病の現在の様子とそれにともない法律の変化すべき点、また補償をどうするかについての話し合いを行う」


 何回か流し見したことがある日本の国会中継とは少し違っていて、議題がまず読まれ議題についての見解が代表者によってのべられる。発言を許されているのは数人の代表者だけで、議会が始まる前に代表に疑問点などはそれぞれが話しておき代表者が必要と決めたものだけ読み上げる。

 しかし文章でも辛かった専門用語の羅列に望実眠気に襲われる。

 要約すると貴族達は病から立ち直り始めたが辺境の地まで広がっており対策が必要だということ。

 よくあれだけくどくど話せるなと望実は奥歯を噛んで自分の足をつねる。昨夜、緊張で寝れなかったせいで眠気が気を抜くと襲ってくるが、欠伸一つもしてはいけない。ただただ耐えるしかないのだ。

 背筋を伸ばして法律は変えるべきと主張する推進派の貴族代表と変えずにやれることを続ければそれでいいという寛容派の貴族が意見を言い合う。


「貴族以外も医者に見てもらいたい。そうでないと医者の数が足りない。法律では貴族の医師は貴族しか見ることができない。貴族達は治ってきている」

「貴族を回る医師は残していただかないと困る。持病をもつ貴族もいれば、未だに容態が安定しない物もいる。法律を変えてまで急に決めるべきことではない」


 抜粋するとこんな感じだろうか?

 望実からすれば、すぐに困っている人のところに送れないなんてバカみたい。早く法律変えてみんなところに行ってもらえばいいと思うのだが、そう簡単な話ではないらしい。毒の心配がある貴族は信頼できる医師を手放せない。『誰が盛るの?バカじゃない。心配しすぎよ』と言ったらグルナードに『妃殿下の食事にもすでに三回混入しておりました』と睨まれた。

 白熱してきた意見のすえに数人を代表として特に危機的な場所に送りそれ以外は今まで通り貴族をみるという方向に落ち着いたようだ。


「では次、王の即位について、また諸国への知らせはいするのか?即位までの空の王位をどうするのかについて話し合いを行う」


 こちらはすでに5歳の誕生日に即位し、諸国への挨拶は成人の儀を迎えてから、それまで空の王位は前王妃と王子で守ると代表者であるグルナードが説明する。


「異議ありだ。グルナード・ティエラ補佐官、もし王妃が王子を産んでいて30を過ぎたご年齢なら少し間仮の王座についてもらうことに異論はない。が、しかし王妃はまだ十代半ば、そのような若い年齢のしかも王族として学んでいたわけでもない少女に国の代表を任せていいものだろうか?」


 ハービス侯爵の言葉に列に並ぶ男性陣が確かにと頷きながら望実にぶしつけな視線を向ける。


「妃殿下は勉強熱心であられます。一年にも満たない期間問題にはならないと思われますが?」

「問題ではないと? 問題ではないか! 勉強熱心であらるということは今まで勉強してこなかった証拠。オランジュ殿下には私という後見人がいるのだから妃殿下が政治や議会に出てくることがおかしいのだ」


 堂々と演説するハービス侯爵に拍手まで聞こえてきて望実は思わず左側の議員席を睨む。いけないいけないと笑顔を貼り付ける。ハービス侯爵は強固手段ではなく、あくまでも祖父としてを強調し、この国のために経験があるものが補佐としていることが大事なのだと強調した。

 グルナード曰く、それこそ養女を王妃にしようと企んでいる時からずっとハービス侯爵を調べているのだが、これと言って断罪できる罪は一つもなく、帳簿も綺麗なもので息子たちも貴族として問題はない。隙がない男らしい。

 

「ハービス侯爵。妃殿下は、前王の妃でありますが、お年のせいか大事なことをお忘れのようですね。ポメロ・リヤン様はこの国に来てくださった贈り人が残した姫君。それも王家に幼い身でありながら嫁いでくださった方なのです。それを軽々しく扱うような物言いは大神ザンザールが許さないのでは?」


 今度はグルナード側から拍手が起こり、わずかにハービス侯爵側の男性が顔色を変える。ザンザールという神に持っている畏怖は大きいようで会議はしばらくざわついた。


「ポメロ妃殿下を軽々しく扱ったわけではない。ただポメロ妃殿下も贈り人様も出自はわからない平民ですらないかもしれない方々。王のお子がいるのだ。贈り人様の養い子をわざわざ持ち上げるのはそれこそ大神であるザンザールに異を唱えるようなもの。もちろん神からの贈り人であり我らが王に逆らう気持ちなど私には微塵もない。妃殿下に殿下と再婚していただいた上で国を支えるというのなら道理は叶っている。ザンザールも祝福するだろう。私も二度と口は挟むまい」


 あのヒヒジジィと叫びたくなったが拳をぎゅっと作るだけで望実は堪える。望実とオランジュに発言は許可されていない。紛糾した議題に議長から求められる事があれば答えるが、今はただ見守るしかないのだ。


「その点は妃殿下の王への思いをきいた上でお分かりいただいたと思っておりましたが」

「確かにそれは分かっておる。だからこそ王の遺児を思いその血を王家に混ぜることこそ妃殿下の勤めではないのか? そう言っている」


 人をなんだと思っているんだと望実は扇子を広げ口元を隠しながらクソジジィと呟く。私もポメロも動物ではない。血を混ぜるだのなんだのよく思春期の女の子の前で言えるなデリカシーのないクソジジィと心の中で再度叫ぶ。


「妃殿下は国家の危機にどうお考えなのだろうか?国を憂うなら真っ先に殿下と婚約し、この国のために働くことを僭越ながら私は願っておりますぞ」


 グルナードがしゃべるなと言うように睨んでくる。議長は侯爵からグルナードにそして望実へと視線を動かし「妃殿下なにかご意見がありますか?」と尋ねた。座っていろと小さくジェスチャーするグルナードを無視して望実は立ち上がる。


「議長、ならびに議員方、偉大なるザンザールに嘘偽りなく答えます。私はオランジュと結婚はいたしません」

「それはご自分の都合を国よりとったという事でよろしいですかな?」

「いいえ、前王はオランジュの生母様をとても愛しておりました。皆様も知っておられるはず。ハービス侯爵はいかがですか?」

「もちろん我が娘への深い愛は存じ上げております。妃殿下には失礼かもしれませんが」


 髭をさわりながらいやらしい笑顔でハービス侯爵が深い愛を強調して話す。望実は来たなとたたみかかける。


「それなのに、贈り人様である父との約束で私を正妃にしなければならなかったのです」

「それは違う!」

「議長、ティエラ補佐官に発言の許可はないはず」

「グルナード・ティエラ補佐官座るように」


 座るようにと今度は望実は目で訴える。隣に座るエスクードの目が輝いているのが怖いが今はハービス侯爵との対決の方が大事だ。


「お静かに。先程申し上げた通り、オランジュには愛する人と結ばれることを、養母として願っております。それはハービス侯爵の意見と一致しているかと」

「む……それではこの国はどうなる」

「侯爵がもし王妃として結婚すべきと言うなら私はリヤンの名の通りこの国と結婚しましょう。前王と夫である王の名の通りポメロ・リヤンはこの国のものです」


 静まり返った議事堂に一つの拍手が響く、その拍手は次第に広がり異様な熱気が議事堂には広がっていた。


「侯爵、この国の妻として仕えることでお許しはいただけますか? もちろん侯爵は娘をもつ父親としても国を憂い嘆く同志としても既にお分かりいただけていると思っております」


 スカートを広げ一礼し、議事に「以上です」と言って望実はふわふわした気持ちで椅子に座る。


「妃殿下の言葉重く受け止め我らも国のために仕えねばと思います。オランジュ殿下の来年の戴冠まではこのまま王座を空席とし公務は果たしていただく、それでよろしいですかな?」


 次々と上がる賛成の声に望実はやったとグルナードを見上げる。歓声と熱気の中、グルナードは冷たい感情のない目で望実を見ていた。冷や水を上から浴びせられた気分になり目をそらす。

 議題は進んでいくのにどこか遠くでなにかが起きているようだった。

 望実が閉会をザンザールに宣言し、再度議事堂が拍手と熱気で包まれても望実の心はどこか遠くに飛んでいた。


「やりすぎだ。馬鹿者」


 横を通る時、グルナードがぼそりと呟いた声を拾って望実は瞬きする。言いたいことはいっぱいあるのに出来たのは扇子を握りしめることだけ。

 それをエスクードが興味深げに見つめているのにも気づかず望実はオランジュと議事堂を後にした。


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