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姑ですもの!  作者: K
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突然の展開 ③

「ははうえ、ははうえ」

「あっ、えっと」


 窓の外をぼんやりと眺めていてオランジュが呼んでいるのに全く気づかなかった。膝に腰かけているオランジュを後ろからぎゅっと抱き締めるとくすぐったいのかぽんぽんと膝を軽く叩かれる。


「ちょっと疲れちゃったみたい。聞いていなくてごめんなさいね」

「だいじょぶ?」

「うん。大丈夫。だからもう一回ぎゅう」

「きゃーっ! くすぐったい!」


 オランジュの声が馬車いっぱいに響く。まだとりきれないもやもやした気分を一時だけでも忘れることができる気がした。ほっとして、オランジュを膝から下ろす。


「あら、これはなに?」

「おまもり、めがみさまのね。いちばんすきなのえらんでいいっていわれたから、これーって!」


 首もとにかけられた紐には木彫りの女神が彫られている。時計のような物をこちらに差し出すように持っている女神像は今は不在の女神だ。

 望実はそれって不吉ではと思う。自分はいいけれどオランジュ自身がそれを選んだという事実を変な方向に捉える人間がいたらこれですら責める武器になる。


「ペリドット……様よね。大司祭様はなんておっしゃられたの?」

「『とてもよい女神を選ばれましたね』とお喜びでした」


 イルがそう言うなら不吉の象徴ではなさそうだ。それならいいかとオランジュの頬をつまんで離す。プニプニのほっぺたは最高の癒しだ。あんまりつつくと怒られるので二、三回で止めておく。頭を撫でて手を繋ぐ。誰かに触れていないと、何か大声で叫んで飛び出しそうだった。

 不安な望実の様子が伝わるのかオランジュの握り返す手が強くなる。一緒に不安にさせてどうすると自分を叱って止まった馬車を降りる。

 部屋の前でオランジュとお別れしようと手を離すとドレスを引っ張られる。


「どうしたの?」


 望実は口元に耳を近づける。何か言っているようなのに聞こえなかったからだ。護衛に聞かれたくない話なのかもしれない。

 オランジュは望実の頬にキスするとぎゅっと抱きついてきた。


「まあ、オランジュ」


 望実が前に癒されると叫んでいたのを覚えていたのかもしれない。抱き上げられない非力さを悲しく思いながら、すぐに床にペタンと座り込み望実はオランジュの顔を覗き込む。後ろで声が上がったが無視する。お説教は後で聞くので今は来ないでほしい。


「自分の事で精一杯でごめんなさい。一緒に頑張ろうって言ったのに自分勝手だよね」


 ぶんぶんと首を振るオランジュに望実は「いつもありがとう。オランジュがいるから頑張れるんだよ」と微笑む。母親が抱き上げてそう言ってくれたから、一人で待っているのが辛くても耐えれた。その気持ちが伝わればいいと思う。

 大人の何倍も子供は多感だ。そして言葉にまだ出来ない気持ちも沢山ある。それを汲み取れと言われても経験のない望実では無理だ。だから自分がしてもらって嬉しかったことでオランジュが何を喜んでくれるかを探すしかない。


「手を洗って着替えてね。お疲れ様」

「ははうえ……ははうえにいだいなるザンザールのかごがありますように」


 後ろからサーシャがやって来てオランジュの手をとる。


「一生懸命姫様が静養している間、神殿で練習しておられました」

「優しいオランジュにも加護がありますように」


 何度も振り返るオランジュに手を振る。隣の部屋に入ったのを確認して望実も自室にはいる。


「……妃殿下」


 ミリヤが言いづらそうに壁にもたれ掛かる望実に声をかけ、躊躇うように視線をはずす。


「王妃らしくなくてすいませんね」


 違う。こんな嫌味みたいなことを言いたいわけじゃない。自分が足元から這い上がってくる淀みにのまれ酷く醜悪な生き物になっていく気分だ。

 でも私だってまだ日本では未成年だ。結婚できる年齢でもなければ、反抗的になることはあってもまだまだ親が必要で、甘えたい年齢なのだ。オランジュのように素直に甘えるのはもう無理だけど。


「……王妃としてでなく、ポメロ様自身がオランジュ様と御再婚される気がないのならもう少し距離を置かねばなりません」

「一年は見守ってくれるって言ったじゃない」

「両親を同時に亡くされた殿下の孤独を全部背負う必要はありません。オランジュ様は貴方のぬいぐるみでもペットでもないのですよ」


 核心を突かれた。

 望実はぐっと拳を握り締めミリヤをにらむ。自分がなんとか取っていたバランスがぐちゃぐちゃにかき乱されている。


「うるさい!」


 バン! 拳で壁を殴り付けるとそのまま扉を開け寝室に駆け込む。普段はかけない鍵をかけ「誰も来るな」と叫ぶ。

 異世界、父親、母親、オランジュ、大司祭、贈り人、王。色んな単語が頭の中でぐるぐると回って望実を取り囲む。


「会いたくない。私とママを捨ててこっちの世界でふらふら生きている父親になんか会いたくない。王座だって放り出してどっかいっちゃたくせに、オランジュの両親に迷惑かけて、その上ポメロだって結婚したくなかったかもしれないのに。贈り人が何様なの? 知るか! 私はこの国の人間じゃない。オランジュを可愛がって何が悪いの」


 ベットに突っ伏して叫ぶ。シーツが全部吸い込んでくれるのを願って。叫べる限り叫ぶ。


「かえして、かえりたい……あいたくない……いやだ」


 自分の嫌なところばかりが出てくる気がして望実は布団を抱き締めて泣いた。




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