突然の展開 ②
「一度も会ったことがないので、前の王様が父親っていう感覚がないんです」
「そうでしょうね」
「……父は………生きているんですか?」
「貴方がここにいっらしゃるということはおそらく御存命かと」
「生まれた時に既に父はいませんでした。写真もなかったし、母が描いた絵は見たことがあるんですけど、なんとなく思い出を美化した絵のような気がして、実在しているようには思えなかったんです」
「姫君も大変な苦労をされたんですね」
痛ましいというかのように目を細め口元に袖を当てるイルには悪いが、無いものは無いのだ。だからこんな父親だったらいいなと言う願望はあっても、実際に現実にいると思うと複雑な気持ちしか浮かばない。
望実としてはまず、異世界で親子対面するなんてどんな出来すぎな物語だと突っ込みをいれたい。
「母と父が結婚してその後行方不明になったと言うことは、その時この世界に召喚されたんですか?」
「いいえ、父君と母君はこの世界で出会われ母君だけが姫君が育った場所へ送られたのだと思います」
「それで、父は今どこにいるんですか?」
自分の気持ちは置いておいて、今すぐにでも母の元へ父を返してあげたい。よそ見もせず、十五年の歳月ずっと待ち続けている母は、報われるべきだと望実は思う。
イルはゆっくりと首を振る。
居場所は分からないらしい。そうなるとますます望実としては、会いたいような会いたくないようなもやもやした気持ちになってくる。
「この国に贈り人はいないと本には書いてありました。父はこの国の贈り人ではなかったのですか?」
「違います。父上は八の国、時の女神に呼ばれこの世界に召喚されました」
「ペリドット様ですね」
「はい。かの女神は時空や次元に干渉する力を持っています。贈り人が呼ばれる際、迎える女神が彼女なのです」
「大司祭様、私はそのような女神様にあった記憶がありません」
走って家に帰る途中にトラックにぶつかった。これは覚えている。そして気づけばあの部屋で寝ていたのだ。望実にはその記憶以外はない。
「ええ、時の女神は現在おりません。ですから我々は皆、贈り人が贈られるとは思ってもいませんでした」
「では、私はなぜここにいるんでしょうか?」
「全ては偉大なるザンザールのお導きでございましょう。姫君があの方の本当の娘御であるなど、誰が思いましょうか? 今年の奉納品は倍にしませんと」
はしゃぐイルには悪いけれど、何でもかんでも神様頼みとはどうも日本人的な思考で考えると居心地が悪い。
勝手に人を呼び寄せてどう言うことだ。と問い詰める事も出来ないじゃないか。地団駄踏みたくなりながら頬杖をついてはあとため息をつく。コルセットを引きちぎりたい気分だ。
とりあえず話題を変えようとずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
「ポメロと私は瓜二つらしいのにどうして誰も違和感を感じていないの?」
「今は分かりません。お越しになる前にあった鍵の吉兆の輝きと姫君が目の前で倒れなければ私にも分からなかったと思います」
こちらは特に進展はなさそうだ。世界には似た人が三人いるという説の採用で済まそう。
これ以上考えても仕方ないので、望実は立ち上がる。目眩もしないし、スッキリした気分だ。
「貴女は私の味方なのかしら?」
「もちろんです。姫君」
即座に返答され、望実はこういう人なんだと自分に言い聞かせる。
「そう。それは心強いわ、えっと…」
「イルとお呼びください」
若干うっとりとしながらいうイルに望実はひいた。
今までこういうタイプとあったことがないので対処のしようが分からない。それでも望実の真実を知っている唯一の人だ。少しぐらい変わっていても味方として協力してほしい。
「最後に、王様って王族がつぐんじゃないの?私の父親はどうやって王になったのかしら?」
万が一にもオランジュでなく望実が王になったら野望が消える。冒険の夢もなくなる。それだけは回避しないとと望実は尋ねる。
「そうですね。基本的には王家は初代の王からずっと続いております。しかし突然王が鍵に選ばれる事があります。その場合、その時点で王座についている王がいても鍵の方が絶対なのです。鍵なくしてこの国の王としての勤めは果たせませんから」
「そんな風に急に王が変わってこの国の人は納得できているの?」
門を守るのがこの国の役目で、それに用いる鍵が非常に重要なものだというのはわかる。
しかし想像もできないほどあれな王を鍵に選ばれたら素直に従うんだろうか? 自分だったら嫌だな。と思うだろう。
「もちろんです。この国は戦もなく穏やかな国です。鍵に選ばれた王は必ず善政をおこない、王族はそれを補佐する。なので昔の王族というくくりなら相当数おります。私の一族もそうです。そして鍵に選ばれた王は王族から伴侶を選びます。そうして血を混ぜればよりよい王家になると伝えられておりますので」
「では今からイルが頑張って鍵に気に入られるという事はできないの?」
「おそらく無理かと、実は私も候補だったこともあるのです。ですが私は大司祭に選ばれましたし、祭事の度に鍵の前に出ております。今まで私が触っても何も起きなかったので私が選ばれることはないでしょう」
呼び案として王座をイルに全部丸投げ作戦は失敗のようだ。
それならと望実は「グルナード・ティエラはどうかしら?」と尋ねる。
「ティエラも確かに随分と古い王家の血族ですが、どうでしょうか?彼は王座に座りたいとは思わないでしょうね」
きっぱりと言い切ったイルに望実は「知り合いなの?」と思わず聞いてしまう。
「知り合いと言いますか、ええ。その姫君。絶対にあの男に姫君があの方の本物の娘御であることは知らせない方がいいと思います。絶対にです」
急に肩をがっしりと捕まれて望実は慌てる。なんだろうこのアイドルを前にした熱狂的ファンのような行動。いや、思い出せばグルナードもその気がある。
不愉快なハーレム主人公のような父親像がぱっと浮かんで望実は頭を振る。
しかしグルナードほどの才能と容姿でもダメというならいったいどこの誰が選ばれるんだろう?
ゲーム内でも、ペッシュのルートで何度か鍵の話があったか考えてみるが思い出せない。
「オランジュは万が一の話なんだけど、その鍵に選ばればなくても大丈夫なのよね?」
「王の息子であることを誰も疑っておりませんのでもちろんです」
「なら、いいわ。鍵に気に入られる人物がいたらその人がなるとしてもきっとオランジュは敵対はしないでしょうから」
「王子よりふさわしい人がいらっしゃるかと。鍵は誰よりも姫君を気に入ると思いますが」
「なぜ?」
驚いてしまいつい声を大きくして聞いた望実にイルは「あなたの父上こそが鍵に愛され久しくいなかった突然王になった方だからです」と言った。
「前王は偶然この国に来た際に鍵に気に入られ、とどまって王になることになりました。病気がちだった王を助け、そのまま王座につかれたのです。ですから姫君もきっと」
「私はオランジュの義母でいいの。王になる気はないわ」
「贈り人様が望まれないのなら鍵も諦めるでしょう」
神から贈られずっと守られている鍵と、神から贈られた贈り人では、贈り人に軍配が上がるらしい。分からないことを聞いたら分からないことがどんどん増えていく感じだ。色々帰ったらまとめておかないと。
望実は一礼をして「また色々と教えてください」と頭を下げる。
「もちろんです。いつでもお越しくださいませ」
「くれぐれも私が贈り人であることは誰にも言わないように」
「はい!姫君と私の秘密の約束ですね」
そう言ってイルは小指をたてた。今までの食いつきにちょっとどころでなく引いていた望実だが、その瞬間、声を出して笑ってしまった。
「大司祭様は近づき難い方だと思っていたけれど、随分とフレンドリーなのね」
「フレンドリー?」
「身近なとか、親しみやすいみたいな感じかな」
「……ええ、ええ。ふれんどりーです。姫君……そのもしお心を許していただけるなら真名を教えていただいてもよろしいでしょうか?ポメロは貴女の名ではないので」
「望実よ! 津野望実」
「の、ぞみ」
久しぶりに名前を呼ばれてなぜか望実は泣きたくなった。懐かしさが胸に込み上げてくる。
飢えていたのだ。
自分がつけてもらった名前を呼ばれること。
それは自分を自分と認められること。
「そう、望む願いが実りますようにって願いを込めてつけたんですって」
「望実。素晴らしい真名を教えてくださりありがとうございます」
ベールをとると大祭司イルは泣きながら望実の手を握る。父は年上のこの女性の何を動かしたのだろう。
望実は考えたことのない自分の出生についてきちんと考えなければいけない事に、少し憂鬱さを感じる。王にはなりたくなかった。




