貴族との対面
ディオールの診察が終わり完治しましたとオランジュがお墨付きをもらった。長かったような短かったようなともかくこの世界に慣れることで精一杯の十日間だった。そんな事を考えながら静まり返った廊下を歩いていく。望実はカーペットとヒールの相性が悪すぎるのを内心イライラしながら引っ掛からないように慎重に歩いていく。
「妃殿下が参られました」
大きな金色の扉が掛け声と共に左右に開く。貴族達が数人並ぶ中を背中に汗をかきながら歩いていく。頭のてっぺんから足の爪先までじろじろ見られている気がする。ポメロは何度か社交場には出ていたと聞いたけれどそれだってこんな正式な場ではない。
中央にあるこれまた金ぴかの王座の前にたち両手を広げ辺りを見渡す。
「この苦難の時を耐え集まってくれた事に感謝を。国を支えてくださる皆に女神の加護があるように」
「妃殿下にも神々の加護と繁栄がありますよう」
最年長であるナロール卿が代表で望実の前に両手を広げ敵意なき事を示してから挨拶をする。貴族全員がその後一礼する。顔をあげたのを確認し望実はスカートの裾を払って王座に座った。
「グルナード・ティエラ卿。まずはよく戻ってくれました」
少し窶れたグルナードが望実の前に出て深く一礼する。グルナードはたっぷりと時間をかけながら顔をあげ響くような声で話し始めた。
「妃殿下、しばらく療養させていただき誠にありがとうございました。またそのための業務や議会が止まってしまったこと兄共々誠に申し訳なく思っております」
「天災は人には預かり知らぬところ。そしてお二方は国の宝、今まで以上に働いてくださると思っている」
「勿体無いお言葉でございます」
そういって深々と再度礼をし、グルナードは望実の隣にたった。
「宰相が不在の際に話すことではないのですが、皆に伝えたいことがあります。私、ポメロ・リヤンは王位継承を辞退しオランジュ・リヤンを時期国王に推薦したいと思っています」
「なりませぬ妃殿下。あの子供はジェリコ男爵の血筋、ハービス卿がでしゃばってきますぞ」
オランジュの母はジェリコ男爵の娘でハービス公爵の養子扱いだ。ハービス卿がこの前のように城内で無礼な態度をとるのもポメロをとるに足りない小娘という扱いを正式にとり、オランジュこそ正当な王であると主張するためだった。オランジュはハービス卿に繋がっている。そのまま後見人として王座の後ろに座りたいのだというのがグルナードから教わった王家の事情だった。
「オランジュの後見人はけして譲りません。リヤンの名に誓います。立派な王に、必ず十二の国に名が響き渡るような王に皆様と育てると誓います。ですから皆様も良き王にあの子を育てる覚悟をなさってください」
ここまでのやり取りは全てグルナードが書いたシナリオだ。ご丁寧に立派な台本まで渡してくれた。文字はまだ読めないのでまず読んでもらい、夜に覚えている限りの言葉を日本語で書いて丸暗記した。徹夜後のテスト並みに怪しいがなんとか叩き込めたと思う。
王妃自らが王子の後見を宣言し、なおかつ派閥をまとめなければいけない。正式な王の間で話すのは記録を残すため。こっそりと勝手に決められたと反対派から責められる事がないようにするためなのだそうだ。
「元より妃殿下は贈り人様から贈られた宝。反対する気はございません。しかし、オランジュ様のご即位にはいささか不安があります。諸外国は我が先代の王が贈り人であることをしっております。その彼が残した言葉を違えることにはなりませんか?」
王妃派ではあるが中間よりのバーナン伯爵がおずおずと進み出て望実に問う。ポメロは先々代の養子扱いだとグルナードが話してくれた。なのでおそらく先々代が贈り人なのだろう。なぜ諸外国が関係するのか分からないので話しようがない。
グルナードと決めてあったため息ひとつに右頬に手あてこまったというポーズをとる。すかさずグルナードが前に来る。
「グルナードはどう思うかしら?」
「はい。現時点では妃殿下が後見人としての仕事を立派に勤めてくださる事でだんだんと支持を得られるようになっていくのではと思っております。妃殿下を大事に扱えと言われたのが先々代のご指示ですし、私は何らその枠から外れていないと思います」
「私もそう思う」
「しっかりとしたお考えがおありならそれで私は見守るのみです」
励ますように温かい笑みを返してくれるバーナン伯爵は信頼できるかはわからないが悪い人ではないと思う。娘がいるのかもしれないなと望実は思う。
話し合いは数時間続き、コラーダのいっていたじっと相手から目をそらさず見つめるテクとグルナードの的確な意見により考えても良いという方向に変化し出していた。
「それではオランジュのお披露目をまず国内の貴族、主に議員の前で行うことにします。今後の問題はオランジュが拐われたり危害を加えられること。各自自分の部下や友人もう一度しっかりと公平な目で見ていただきたい。王を失いましたがまだ私達にはあの方のご子息がいます。この国の未来のために我らの父ザンザールに誓って私は尽力を捧げます。皆様も私とオランジュの成長を助けてく出さい」
望実は演説が終わるとそっとハンカチで目元を隠し感極まったように見せる。幾人かが「妃殿下のおっしゃるようになりますよう」と声をかけ、幾人かは「真剣に考えさせていただきます」と挨拶する。
一人一人に頷きながら部屋を退室する。どうやって出てきたかも思い出せなかった。
ガクッと膝がおれる。貴族中でも重鎮と教わった男達の威圧感と来たら想像する以上に重いものだった。それはきっと彼らが国を背負ってきた重みでもある。
「ははうえ」
「妃殿下」
「ごめんなさい。疲れがどっと…はあ、もう当分ああいうのはいいわ」
なんとかそれでも形にはなったはず。コラーダの手をとって椅子に座り、お茶を運んでもらう。
オランジュの王子様らしい格好にようやくほっとして襟元のレースを撫で付けながら膝にのせる。
「味方ですらあれだと敵はどうなるのかと思うだけで頭が痛くなるわね」
「いたいの?」
「…痛くなくなった。なくない」
むぎゅっと抱き締めるとオランジュの笑い声が響く。本当に癒し系ですね。これがあの堅物ツンデレ王子に成長するのかと顔を覗き込むとオランジュは照れたように両手で顔を隠す。じっと見ていると手の隙間から覗いてくるのが可愛い。
「母は強し! 頑張ります!!!」
とりあえず拳をあげるとオランジュも真似する。私達まるで家族ねというといつものようにコラーダが感極まったようにハンカチで涙をぬぐった。




