待望のピクニック⑤
「うーんなぜだろう。来たことがある気がする」
首を傾げながらじっと目の前の建物を見る望実に「ここまで遠出をしたことはなかったと思いますが」とネビルが言う。
「そうよね。ネビルとペッシュと旅したあのときぐらいしか城とその周囲以外は出てないと思うのだけど」
「それを言わないでください」
慌てて小声で囁くネビルに望実は首をかしげる。ミネオラがまた吹き出してサガは頭に手を当てている。
「なぜ? 確かに嫌なこともあったし、未だにそのせいでエスクードに腹立つけどネビルと一緒の時は楽しかったのに」
「だから、そういうのです」
なんだか必死なネビルにエスクードかグルナードにいびられているのだろうかと心配になった望実だが、ペッシュに袖を引かれて耳元で「オランジュ様がお困りです」と言われて納得する。オランジュのやきもちなんて大人なのだから気にしなければいいのにと望実は思ってしまう。
望実はそれでいいがが、本来王族に睨まれる騎士などいてはいけない。ネビルの根幹に関わることだ。オランジュの信頼が揺らげばネビルが持っている隊全員が疑惑をかけられることになる。そうでなくとも望実が来てから王族に近すぎるとやっかみもうけているのだ。その上で中立に近いとはいえ王妃派であるウェルテクス家に迷惑がかかる。オランジュが態度に出せば中立に近いというスタンスは二度ととれなくなるだろう。
ついでに兄弟から本命が長くいないと思っていればまさかの妃殿下かとからかわれているのもネビルの頭痛の種だ。目を離すとあっという間にいなくなっている王妃を守護するのは並大抵では無理だ。ペッシュが来てからは年頃ではないこともあって気軽に聞けるのでまだいいが。
「ネビル、あんまり心配ばかりしているとはげてしまうわよ」
「どなたのせいだと!」
「だから、ほどほどにね」
オランジュの手を引いて望実は笑顔で歩き出す、もう片方の手をペッシュとつないで馬車が止まっている場所まで歩いていく。一時間弱のウォーキングは久しぶりだったせいか息もあがったけれど気持ちがいい。
「古いお城ね。蔦がかなり太く絡んでいるけれど大丈夫なのかしら?」
「遺跡並みですね。それになんだか落ち着く気がします」
「私もです。なぜでしょう?」
オランジュとペッシュにとって良い空気が流れているようだが、望実にはよくわからない。
「妃殿下も到着されましたか」
「待たせたかしら?」
「いいえ。職務を片付けてから来ましたのでそこまでは。グルナード、主はいたか?」
「おそらくここにいるのですが、出てくる気配がありませんね」
どんっと床を蹴るグルナードに望実はああと頷く。
「ここ、ノバのお城じゃない」
「ええ。そう言ったはずですが」
「そうだったかしら」
はははっと笑ってごまかす。ノバは地下にいるときは何も聞こえないし食事すらとらなくなるとノアがいっていた。叫んだところで聞こえていないのなら意味がいない。
「ノア」
望実が名前を呼ぶとすっと目の前にエキゾチックな衣装を着た青年が現れる。
「やあ、母さ」
「違うでしょ。ノア」
「……ぽ、めろさま。なに? 僕らとこの汚い城に住んでくれるの?」
「汚いと思うなら掃除ぐらいしなさいよ。しょうがないわね。ペッシュ、サガついてきて」
ミラベルとミネオラ、そしてオランジュは掃除なんてしたことないだろうしと名前を呼ばなかったのだが後ろからついてくるのがわかる。
「お昼までにせめて食べるとこぐらい綺麗にしましょう。客も来ない上にまともに先生も食べてないものね。酷いわ」
「そうそう、ここ従者もいないからね」
「弟子ならせめて週に二回は掃除すべきだと思うわよ」
ペッシュが探してくれた布とバケツ、モップや箒を持つとネビルが「我ら騎士団で何とかしますのでお止めください」と悲鳴に近い声で言った。
「貴方の弟も来るのよ。こんな場所肺にもよくないわ。できればオランジュと遊んでいてくれた方が助かるのだけど」
「ペッシュとミラベルがするのなら私にもできます」
外へと言う前にオランジュがそう宣言する。強い意思に溢れている瞳に望実は頷いた。
「不敬罪ものですね。ノバは」
「やりたいんだからこっちに非があるってことでいいんじゃないかしら。ほらエスクードもグルナードも長い髪縛って箒もって、磨くわよ」
ネビルはその部屋のようすを失神しそうな顔で見つめていたがやがて自分も箒をもって床をはきだした。




