待望のピクニック ④
「いやでもさ。やっぱり貴族と王族だって違うのに庶民の中でも下の方の暮らししてたペッシュを城で一生暮らさせるっていうのはな」
「女の子は王子様と結婚するのが夢なんじゃないの?」
「ああ? そりゃあおまえは王様と結婚してたんだからそうかもしんねえけどよ」
そういえばサガには細かい話しはしてないことを思い出す。ペッシュは秘密をペラペラ話す子じゃないので言っていないだろうし、そもそも望実の話をするにはペッシュ自身の特殊な話もしなければいけない。父と母を失った兄妹がするにはまだ重い話だ。
原作ではまだペッシュは神殿に来てすらいない。大勢の人が亡くなるビジョンをみて苦しんでいる時期だ。サガの小さい頃は描かれていなかったのでわからないがあの時、望実に合わなければ盗みを繰り返していたのかもしれない。
「サガはどうなの? 城の暮らしは窮屈じゃない?」
「そりゃあまあ自由ではないけど。嵐の時に揺らがない屋根があって、腹一杯飯食えて、綺麗な水が飲めて、そんでもって見習いの俺まで給金もらえるとか怖いぐらいいい環境だよ。文句いったらバチが当たるって」
豆だらけで傷だらけのサガの手を見る。爪の色が変わっている。鉱山で、畑で、そして今は剣を握って働いている立派な手だ。手を伸ばして引っ張るとサガに背中を叩かれる。
「それよかやっぱり俺にはおまえが王妃だと思えないんだよな。俺を助けてくれて妹に力貸してくれてるダチって感じで」
「そうだもの」
ぎゅっと手を握ると慌てたようにサガに距離をとられる。ネビルがあきれた顔をしているのをみて叱らないでねとジェスチャーする。ミネオラがお腹を抱えて笑いだすのでなにか面白かったのだろうかと考えながら望実は歩き出す。
「私はサガの友達でそれでいいじゃない」
「……隊長にまたどやさられる」
「ネビルだって私の友達よ」
そういうとサガは苦笑いして望実の背中を叩いた。
「隊長はもてるわけよ」
「そりゃあそうでしょうね。近衛の中でも華やかで目を引くし逞しいから守ってほしいと思う女性にはたまらないんじゃないかな」
「まあ、守ってほしいってたまじゃないよな」
「なにいってんの。私だって守ってくれたら嬉しいわよ。最初に言ったこと覚えてるでしょ」
「ぷっ」
吹いたサガになんだか恥ずかしいことを言った気がして望実は「忘れて」と叫んだ。
「え、なにを?」
「なにがなんでも」
持ち前のすばしっこさでひょいと木々の間を抜けるサガを追いかけて望実は走る。こんなに走ったのはいつ以来だろう。森の中はひんやりとしていて気持ちがいい。
「『女の子は王子様を待ってる』んだもんな」
「だから忘れてって」
さすがに日頃から鍛えているサガにはかなわない。荒い息を繰り返して望実はサガの首根っこをつかむ。
「あえるといいな」
「え?」
「だから王子様に」
今はどちらかというとうちの王子とおたくの妹さんが気になるんですけどとさすがの望実も言わなかった。
「王子様にはもうあってるからいいんだって。次は普通の人でいい。というか普通の人がいいな。普通に笑って、言い合って、たまに出かけて、一緒にごはん食べて美味しいって言える人」
サガは望実の言うことを真剣に聞いてくれる。ずっと親友だったみたいと望実は思わず笑みがこぼれる。
「おれもそっちならわかるぜ。おんなじもん食べてうまいって言えるのは嬉しいよな」
「そう、そうよね」
後ろから「そろそろつきますので妃殿下はこちらへ」とネビルに声をかけられる。
オランジュはちゃんとペッシュをエスコートしていたようで微笑ましい二人の姿に望実は嬉しさで思わずガッツポーズをしてしまった。




