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オカ研の怖い話

「夕美ちゃんって、瀬川医院っていう病院知ってる?」


本題については、雁沢さんが主だって話してくれるらしい。

瀬川医院というと、この辺りだとわりと大きめで有名な病院だ。


「はい。ここより少し郊外にあるところで、この辺では大学病院についで大きいところですよね。」

「そうそう。個人にしては大きくて、お医者さんが12人くらい所属してる。規模ももちろん、それだけ大きい。夕美ちゃんは、行ったことある?」

「いえ。家から近くもないので。」


瀬川医院まで行くには、電車をひとつ乗り換える必要があるし、車でいっても1時間とはいわないが、それに近い時間がかかる。

それに、昔母が大学病院に入院していたことがあったので、私の実家は大学病院から程近い。だから何かあったらいつも大学病院に通っていた。今は独り暮らしをしているが、私の住んでいた実家から今住んでいる独り暮らしの家はさほど離れていないので、何かあったときの通院先も変わっていない。


「そっか。それでね、その病院…すごく、不思議なことがたくさん起こるらしいの。」

「?病院なら、まあ…おかしくないんじゃ。」

「うん、病院ってだけで、結構怖いオカルト現象が起こることはもちろん多い。人の命が関わるところだからね。」


私が小さい頃、母のお見舞いで訪れた大学病院ですら、よく髪を引っ張られたり、名前を呼ばれたこともあった。もちろん、周りには誰もいない。誰も開けていない窓が気付くと開いていることなど、ちょっと挙げるとキリがない。正直よく考えたら私が来ると変なことが起こるからと注意されたことがあったが、あまりに私がおとなしくていい子だったのであとで謝られたこともあったかな。


「でも、違うんだなー、これが!オカルト好きには結構有名なくらい、いろんなことが起こるんだよ!来た患者ほぼ全員が、一度は必ず感じたことがあると言われるくらいには!」


得意気に語る桐谷さん。この人は本当に、由希と同じタイプらしい。好奇心旺盛で、話を膨らますのも上手そうだ。


「誰もいないところで髪を引っ張られていたり、誰も開けていない窓が気付くと開いていたり。空いた個室はきれいに整頓して施錠もしていたのに、掃除のために開けてみたら生けていないはずの花が生けてあったり、さ!まるで他に患者がいるようなことや、もう一人ナースがいるような出来事が、たくさん起きている!」


半分くらい経験あったんですがそれは。


「それで…これはあまり確証があることじゃないから、大きな声では言えないけど…。原因不明の、病状の悪化が続出しているらしい。」

「えっ?」


病気を直すところで病状の悪化って。それはもう、オカルトという問題ではないのではないだろうか。病院としてはとても致命的な話だ。


「まあ不思議なことが起こる延長で広まっているただの噂、かもしれないけどね。」


もし噂だとするととんだ営業妨害だが、事実だとしたら、絶対にいきたくない。すでに入院している人とか、かわいそうすぎる。

ん?待って、今由希の話しようとしてたんだよね?…いやいや、まさか。


「実は、由希ちゃんがその不思議なことに興味を持っちゃって…しかも廃墟じゃなくて営業中の病院だっていうものだから、張り切って行ってきますと言ったのが、三日前…なのよ。」

「えっ…ちょ、ちょっと待ってください。それ、もうオカルトじゃないじゃないですか。医療ミスとか、そういうのじゃ、」

「それが…。見えるやつがあそこはやばいって…言ってたらしくて…。」


あそこは、やばい?つまり、霊的なものがたくさんいると、そういうことなんだろうか。

…そんなの聞いたら、由希はそれが嘘でも確かめに行きかねない。いや、この話を聞く限り、いったんだろうあのバカは。


「もし、由希ちゃんと連絡とれているなら安心だし、もしそうじゃないとすると、あいつがヤバイっていってるくらいだから、その…とり憑かれたり、とか。病院で、何かあったんじゃ…」

「ありえません。」


雁沢さんの言葉をきっぱりと否定し、私はすぐに帰る身支度をして立ち上がった。


「え、織野さん?」


帰ろうとしている私に、少し慌てたように牧野さんも立ち上がった。


「由希がオカルト関連に巻き込まれることは、はっきりいって100%あり得ない。断言できます。でも、連絡もとれないし姿も見せない。だったら巻き込まれたのはオカルトじゃなくて、医療ミス関連でしょう。」

「いやでも、事実かわからないし、」

「医療ミスがあってもなくても、オカルトはあり得ません。それがないとするなら、人的な事件に巻き込まれてる可能性もある。私、これから瀬川医院に行ってきます。外来は間に合わないけど、面会が8時までだったはずです。まだ間に合う。すいません、失礼します。」


そのまま鞄をもってその場を離れようとすると、黙っていた桐谷さんに腕を捕まれた。なんだ、私は今急いでいるのに。


「ね、俺もいくよ。足があった方が、早いし楽でしょ?」


そう言って桐谷さんは、車のキーがついたキーケースを取り出して笑った。

なんだこの人たち、元々私をつれていく気だったんじゃないだろうか。








「本当は、由希ちゃんが巻き込まれた可能性のあるものが人的なものか、霊的なものか、それを夕美ちゃんに確認したかっただけなのよね。」


桐谷さんの助手席に座る雁沢さんがそう告げた。でも、何でそれを私に確認しようと思ったんだろう。


「実は、その見えるやつが、絶対に霊的なものじゃないって言い張るんだよ。連絡がとれないのも、どうせ携帯水ぽちゃしたとかだろって。

でも、もしかしたらってこともあるだろう?一応オカルト研究会だからそういうときの対処法は何通りも把握してる。それに、もし事件や事故だったら警察沙汰にする必要があるかもしれない。」

「だったら、私に聞かずとも行けばよかったんじゃないですか?」

「俺、おりっちと話してみたかったんだよ!」


赤信号で止まった瞬間、桐谷さんがバッとこちらを振り向いた。正直かなりビックリした。


「だって、慎一が絶対見えるって言い張るし、橘もおりっちの話ばっかするしさ!!」


いや、誰だよ慎一。


「あぁ、慎一っていうのは、さっきいってた見えるやつ。立石慎一。」


顔に出ていただろうか。牧野さんが教えてくれたが、しかし私には身に覚えがない。学部生はさすがに仲のいい友人くらいしか覚えていないし、学部外なら余計に。


「…ごめんなさい、私その人知りません。」

「あぁ、そうだね。あいつは基本、橘の回収係だからな。」

「回収…もしかして、由希のいとこの?」

「あ、そっちで知ってるの?あいつも不名誉な形で知られてるね。」


あはは、と楽しそうに笑う牧野さん。でも、どうしてその人は私のことを知っているんだろう。それに、"絶対に見える"、だなんて。

その時、なんだか体が重く、なにかに引きずられるような感覚がした。


「着いたわよ、瀬川医院。」


顔を挙げると、そこには瀬川医院の看板があり、大きくてキレイな病院がたっていた。小児科に内科に外科、脳外科に精神外科とかいてある。


「俺、車おいてくるから三人先いっててー!」

「じゃあ、いこうか。」


見た目には何もない。おかしなところも、不気味な影とかも、なにも。

でも、どうしても体が重くて、引きずられる感覚。それも中に入るようにと、体が引っ張られる感覚。


「…っ、織野さん!?ちょ、真っ青だけど!」


車を降りてすぐ、牧野さんが私に気づいた。しかし私の足は、病院に向かってしまう。


「ちょ、まって夕美ちゃん!」

「………」


雁沢さんが止めるのも構わず、病院に進む。由希が危険とか、もうそういのではなくて、ただなにかを察して、病院へと進む。


病院は外来も終わってとても静かなはずなのに、人の気配がしていた。入院患者が受付のところにいるんだろうか?看護師さんも一緒なのかもしれない。


「っ、だれも、いない?」


扉を開けた先には、誰一人、受付にすら人がいなかった。

しかし、数名の声だけが聞こえ、人の気配もある。


『早瀬さん。ほら、もうすぐ面会時間終わりますよ。お部屋戻ってください。』

『えー、いいじゃないまだ消灯時間じゃないし。』

『わがままいっちゃダメですよ!』


小さく聞こえる会話は、おそらく看護師さんと入院患者のものだと思われる。しかし、人はどこにも、見当たらない。


「織野さん!」


慌てた様子の牧野さんに、後ろから手を捕まれ、思わずビクッと肩を震わせる。


「おかしいわね。まだ面会時間あるはずなのに、受付に看護師さんも誰もいないの?」


雁沢さんの言葉に、彼女の方を振り向く。雁沢さんは少し不思議そうにキョロキョロ見回しているだけだ。


「あの、こ、声が、」

「?声?夕美ちゃんの声はいつも通りとてもキレイなソプラノよ。」


いや、そういうことを言っているのではなくて。

しかし、やはり彼女達には聞こえていないのだろうか?小さくだが、明らかにすぐ近くでする会話が。


『あら?患者さんかしら?』


その時、遠かった声がこちらに向かった。


『こんにちは。どうしたの、真っ青よ?』


明らかに私の方に近づいてくるその声。完全に私に向けられたその声に、私の体は金縛りのように動かなくなり、思わず膝をついた。


「ちょ、織野さん!?」

「牧野さん、雁沢さん、ダメ、逃げて、ダメ、」


見えないのに近づいてくるその気配。優しい声なのに、キレイな声なのに、私のことを心配する声なのに、引きずられるような、求められるような、そう、助けを、求めるような、……助け、を?


「ったくこのバカ!せめて連絡いれろよ、連絡を!!…あれ?純に、雁沢先輩、どうし…っ、織野さん!?」


その時、病室棟の方から男の声。そして、駆け寄ってくる足音。病院内は走っちゃダメだよ。

しかしその瞬間、いくつかあった見えない気配が、ひとつだけになった。しかし残ったひとつは、私に近づく、おそらくは看護師の霊。


「あっ、織ちゃん!?」


そしてその直後、聞きなれた幼さの残る女性の声がした。その声は私がよく知る、そして探していた彼女のもの。

その瞬間残ったその気配も、ふっと消えてしまった。


「慎一、それに橘!?」

「え、由希ちゃん!?」

「んなことより、織野さんは!大丈夫か!?」


新たな登場人物に驚く牧野さんと雁沢さん。その二人が見る前で私の方に駆け寄る男の人の方へ目を向けると、焦ったように私と、そして気配があった方を交互に見る、年も近そうな青年。そしてその奥に、…両足に包帯をぐるぐる巻いた車椅子の由希の姿があった。





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