行方不明の幼馴染
「俺、オカルト研究会の桐谷柊!ねえ、君織野さんだよね、橘の幼馴染みの!」
今日の講義も終えて、帰宅しようと講義室を出たときに呼び止められた。
今日は由希のことを聞きに、帰りに彼女の家に行ってみようと思っていたのに。橘とは恐らく、件の幼馴染み、橘由希のことなんだろう。彼女もオカルト研究会に所属しているし、無視するわけにもいくまい。
「そうですけど…。私、オカ研何度か訪ねたことありますけど、桐谷さん見たことありません。」
「あぁ。俺ね、よくオカルトスポットに行ってるから、あんま部室行かないんだよね。」
なるほど、この人も由希と同じということか。
「でさ、実は橘のことで聞きたいことがあってさ。よかったら、これから部室来てくんない?」
「えっ。」
桐谷さんはそれはもう素敵な笑顔を浮かべている。小柄で無邪気でかわいいタイプのイケメン。時間的にも今日の講義はすべて終わっている時間だし、断られることもないと思っているんだろう。そして、女の子に断られることも少ないんだろうな、この人。
でも私は正直断りたい。由希のいないあの部室に行くのは非常に抵抗がある。でも連絡がとれなくなった由希のことはやっぱり心配だし、どうしようか。
「桐谷!」
どう答えようかと考えあぐねていると、桐谷さんの向こう側、つまりは桐谷さんの後ろから、彼に向かって走る男の人がいた。あの人は知っている。オカ研3年生の…なんだっけ。
「牧野ー!なんだよ、俺一人でも織野さん迎えに行けるって!」
そうだ、オカ研3年の牧野さん。
桐谷さんとは逆で、長身でそこそこにガタイのいい、いかにも男の人、といったタイプの人。一見怖そうなタイプだが、姿に似合わずとても優しい人だ。
「いや、織野さんもしかすると、…あの部室は行きたがらないかと思って。」
牧野さんはそう言って、伺うようにこちらを見てきた。そう言えば、由希を待つために部室にいたとき、顔色悪いねって気づいてくれたのはこの人だったか。
「部長も呼んどいたからさ。隣の教室借りてるから、そこで話そうか。」
「あ、ありがとうございます。」
「おっ待たせー、夕美ちゃん!」
教室でしばらく待っていて現れたのは、4年の雁沢さん。オカ研の部長さんである。女性ながら気も強ければ腕っぷしも強い、更には長身で美人。読者モデルのバイトをしていたこともあるらしい。
女の子の憧れの的。しかし無類のオカルト好きという(しかもかなり熱狂的な)趣味を持っているため、男性はあまり近づかないとか。
「雁沢さん、お久しぶりです。」
「ごめんねー、急にさ。」
「いえ、私こそ、教室を借りていただいたみたいで…。」
「いいのいいのー!うちの部室、見える人にはきついらしいからねー。ほら、いっぱい出でるんでしょ?曰く付きの場所だし。」
雁沢さんの言葉に、一瞬固まる。
「えっ?みえる、ひと?」
目を丸くした私を見て、ハッとしたのは雁沢さんではなく、牧野さんだった。
「あ、あれ?俺、織野さんも見える人…つまり、霊感がある人だと思ってたんだけど…、違った?」
「え、違うっていうか、いや違わないって、いうか…え?織野さん"も"?」
少し混乱しながら、聞き返す。その言い方だとまるで、私以外にもそういった不思議体験をしている人がいるようだ。
「実は、いるんだよね。俺たちのサークルに、見える男が。織野さんのこと、たぶんその子もそうだろうって。」
牧野さんは少し戸惑いながらも、それを打ち明けてくれた。
感じてしまう私だからこそ分かることかもしれないが、そういった『人がわからないものが見える、感じる』ということは、どんなに本気でも疑われやすいし、信頼も失いがちだ。相手が絶対そうだと思える確信がなければ伝えられることでもないし、違えば頭がおかしいんじゃないかと心配されることだってある。
だからこそ、彼らに打ち明けたその"見える人"は、よくこの人たちに伝えられたものだと思う。でも、牧野さんや他の二人の反応を見ても、どうやらこの人たちはそういったことを信じてくれる人らしい。
「織野さんが橘いないときに部室来るといつも、体調も悪そうだったし。でも橘いるときはそいつと同じで、織野さんもピンピンしてるから、あいつとおんなじかと思ってたんだけど。」
牧野さんがこうして丁寧に説明してくれるから、からかわれているわけではないのであろうこともわかる。きっと私が感じるということを打ち明けても信じてくれるのだと思うし、むしろ打ち明けてもらいたいんだろうというのもわかる。
オカルト大好きで真っ先に気になっていそうな桐谷さんや部長の雁沢さんが黙ってうずうずとしているのがその証拠だろう。この人たちが話せばからかわれてる気がしてきそうだし、遊ばれそうな気もする。見える人というのがそうやって慎重にしろと、牧野さんが適任だと、教えたのかもしれない。
でもやっぱり、なかなか打ち明けにくいんだよね。誰にも話したことがないわけだし。
「…ごめんね、急に、変な話かもしれない。でも、もし織野さんがオカルトにも全く興味がなくて、更に霊感もないんだとすると、今回の橘のことについて、相談するのは筋違いなのかもしれないから。」
なにも言わない私に、牧野さんは申し訳なさそうに、でもはっきりと私にそう伝えてくれた。
色々考えて言葉になっていないだけなのだけど、…由希とは連絡もとれないことだし、話して、そして話を聞いた方がいいのかもしれない。
「…私はその…足捕まれたり、後ろから声かけられたり、でも掴んでる手もないし、振り向いても人すらいないしっていうことは、あるんですけど…。見たことは一度も…。」
「えー!?なにそれ、スゲー!!!」
会話を聞いて、うずうずしていたのだろう、桐谷さんが身を乗り出してきた。ちなみに、桐谷さんはこれでも4年生らしい。牧野さんより年上とか信じられない。でも、昔から幼馴染みの牧野さんが、彼の世話係みたいになっていたらしい。
「やめなさいよ、桐谷。由希ちゃんからも夕美ちゃんのそんな話聞いたことないし、夕美ちゃんだって困って、でも誰にも話せなかったくらい悩んでたことなのよ、きっと。ね、夕美ちゃん?」
とか言いながら気になってうずうずしてるのまるわかりですよ、雁沢さん。
「悩んではいましたけど…でも、怪我したり事故になったりとか、大きなことになったことはないし…今のところは。なにより、由希がいれば…本当に、変な気配も不思議なことも、何一つ起こらないんです。だから、これまでは必要以上に、由希のそばにいるようにしてました。」
もちろん幼馴染みとして、友人としてそばにはいるけれど、高校からは必要以上にくっついている気がする。だって由希といると楽しい上に平穏までついてくる。こんないいことってなかなかない。
「あー、高校くらいからなんでしょ?由希ちゃんよくいってるのよー。幼馴染みが高校くらいから私にベッタリだって。」
え。由希そんな様子なかったけど、もしかしてうざかったのだろうか。
「本当にうざくてさ。私の幼馴染み可愛いんですよ私にベッタリになっちゃって、表には出さないけどすごく心配性だから私、オカルトスポットにいくときは絶対あの子に伝えたり、連絡とるようにしてるんですー!って。まるで彼女のノロケ話かのように。」
少しうんざりとした様子なのは、雁沢さんだけではなく3人とも。
「あーなんか…すいません。」
「あ、おりっちは悪くないよ!全然!」
「お、おりっち?」
「だって俺もさー、牧野がいっつも俺のそば離れないから、俺のこと好きなんだなーこいつって思うし。」
「それはお前が世話の焼けるやつだからだ。」
突然つけられたあだ名に、桐谷さんに思わず聞き返すが、なんかもう、ダメだこの人話きいてない。でもなんか桐谷さんっぽいしいいや。
「まあ、とりあえず本題ね。由希ちゃんのこと、聞いてくれる?」
「…おねがいします。」




