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ビジネスパートナーと穏やかな昼下がり


 小鳥もさえずる穏やかな昼下がり。


 差し込む陽光に目を細めながら、予算を割り出し在庫を数えて電卓を叩く。

 神サマだなんだと騒がしく喚いたこともあったが、このところはお得意様もめでたく出店なさって、こちらも随分贔屓にさせてもらっている。

 売り上げ上々、安定生産。品質向上、平和解決。

 実に優雅で素晴らしい日々が、当たり前の幸せとなって連続していく……、これぞまさにハッピーミルフィーユきょん。


 獣神から友好の証として譲り受けた赤縁メガネをクイっと指であげながら、人妻キョンシーは色っぽい吐息を一つつく。


「にゃー、オカミさん。あの魔物祓いから連絡きてるにゃ」


 すると、今日の品出しを終えて店の手伝いをしてくれていた猫が、電話を片手に駆けてきた。


「んー? 何か商品不備でもあったきょん?」

「んにゃ、オシゴトじゃにゃーてお食事のお誘いにゃ。お寿司食べに来んかーって」


 ほう、ふふっ、イカれ霊媒師のクセにたまには気を利かせてくれるじゃないか。そういえばこちらから品を送ってはいたけど、実際その店自体に行ったことは無かったな、え、だとしたら今更呼ぶの? さてはアホきょんね?


「いいだろう、その誘いのったきょん!ダリーンも連れてくとして、店番は……」

「う。それにゃらにゃーのシキガミ達にお願いするにゃ。そろそろ人変化(ひとへんげ)も慣れさしてやらんとにゃ」

「ああー、じゃあそうするきょん、あの子らいい子達で大助かりきょん」


 土地神にはそのお手伝い、雑務処理を担う式神(しきがみ)というのが付いて回る。

 大猫騒動の時の乾物泥棒が(まさ)しくソレだ。元より使い魔の(たぐい)の扱いは手馴れていた、現土地神のカシャニャン様にも当然五体の式神が付いており、主に先代へ連絡を取ったり、配送作業やらお店の手伝いやらを一生懸命手伝ってくれている。

 お調子者のトラ、クールで知的なミケ、物腰柔らかなブチ、生真面目なタマ、とにかく明るいゲリュクス・フェン・ディアナキブル。

 五体の式神はいつも仲良し、お給料要らずの都合のいい労働源である。(煮干し一つでメッチャ喜ぶ)


「よし、じゃー準備できたら声かけるきょん。ネコも支度しとくきょん〜」

「うー」


 ふふふ、さーてエクシーとは久しぶりのご対面だ、知的に美的にパワーアップしたミーの姿を見て、今日を持ってハイテンション誰トクキワモノ人妻キョンシーも卒業か……、これからは頼れるビジネスパートナーウーマンとして、寿司クエ界最強のバブみを発揮する秘書系セクシーメガネお姉さん枠として振る舞っていくきょんね!黒タイツとかはこっかな!


 サラバ、穏やかな昼下がり!

キサマと過ごした時間は楽しかったよ……、だがもうここまでだ、覚悟しろッ!



 小鳥もさえずる穏やかな昼下がり、今日のお客の入りも上々、バイトくん達もだいぶ動けるようになってきた。

 客足の落ち着いた頃合いを見て、まな板を洗って包丁を研ぎ、その都度新人教育や指導をしていく。

 店のリニューアルオープンからしばらく時も経ち、随分と身も手も馴染んできた。ヤナギバも頻繁に面倒を見てくれているし、カシャニャンさんの仕入れてくれる鮮魚も質がいい。

 口コミで店自体の評判も良いようだし、美味しそうに召し上がってくださるお客様を見れるのは中々にシアワセだ。座敷童子が妖力を金銭へと変換してくれるおかげで、随分と強そうな妖怪たちを相手に接客することも増えてきたが、まあ今ではそれも慣れたものだ。



「店長ぉ〜、オーナーから留守電がきてたよ」


 すると、長い黒髪を束ねた小柄な少年が、受話器を片手に可愛らしい声を転がせた。

 すっかり馴染んでしまった彼は、普段は裏手で魚の切りつけやサク取りといった仕込みを行っている。たまに表で接客したりレジ打ったり茶汲みもしているが。

 まずは綺麗な切りつけを会得しないと総料理長には敵わないと思っているのか、かつての狂気にも似た執念は何処へやら、今やなんやかんや楽しんで仕事をしてくれているし、なんなら私生活でも一緒に暮らしてるし、一緒に夕飯の支度をして食べたり、私の帰りが遅い日はお風呂を沸かしておいてくれてたり、なんなら一緒にお風呂に入ったりもしている。

 休日には木刀を用いて稽古をつけてやったり、買い物に連れて行ったり、人里に降りてげえせん? とやらではしゃいでたりと、いつの間にやら私にとっても同じ"鎌鼬"として、可愛い後輩というか、すっかり弟のような存在になりつつある。


「む、オーナーだと? 用件は何だって?」


 そんな大好きな可愛い少年を愛でる心は今はしまっておいて、私は店長らしく毅然とした態度で確認をとった。


「うーんとね、ザックリ言うと午後にお客さん連れてくるから、貸し切りにしてくれってさ」


 ……それはまた随分とムチャを言ってくれる。お客の信用問題に関わるとか考えないのかあのバカ。

 さりとて他ならぬオーナーのオーダーとなればスッパリ断るワケにもいかない、彼女にはとてもじゃないが返しきれない恩がある。多少のムチャは聞くが道理か。


「……フゥー、じゃあ仕方ない。(おもて)に貼り紙出して、今晩の営業はナシだ。バイトくん達も全員上がらせよう。タイムカード切ってもらってくれ」

「オッケー、じゃーボクは貼り紙作って連絡返しておくね、あ、午後の分結構仕込んじゃったけど使い切れるかな? スズキとアイナメ〜」

「大丈夫さ、もし廃棄することになったらオーナーに全部買い取らせよう。一切の値切りは聞かん。うん、それがいい。私達の晩御飯にしよう」

「おー怖。キレてるキレてる」


 ああそうだとも。私はすごくキレるからな。鎌鼬なのでな。

 さて、では久方ぶりにこの刃を振るおうか、どうせ私の成長を見るつもりもあるのだろう。私に斬れぬものなどない、店の貸し切りなど造作もないことだ。

 QSCだQSC、クオリティ、サービス、クレンリネス。接客は彼(名前募集中)に任せるとして、店回りの清掃もしなくては、ああ、あと漬けダレの準備もしておくかな。


 ああ、さようなら穏やかな昼下がり、こんばんは大変野蛮な特別営業。


 今日の晩酌は一段と強い酒にしよう、辛口の、キレのあるヤツ。ワイト殿とか付き合ってくれるだろうか。

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