第7話 戦争
――あれから、体感半年。
まぁ、特に何も変わらなかった。
相変わらず悪魔たちは人間界へ召喚されている。
呼ばれて、何かを頼まれて、見返りをもらって帰ってくる。
「最近、人間たちも悪魔を使うのに慣れてきたなぁ」
最初の頃は一体。
多くても数体。
それが最近では、召喚される頻度も少しずつ増えてきている。
とはいえ――
「まぁ、半年じゃそんなに変わらないか」
俺はそう思って、また魔法の研究へ戻った。
⸻
――またまた、あれから体感半年。
さらに半年が経った。
この半年で、俺たちは一つのことを知った。
「俺たち悪魔を召喚している人間について、だいぶ分かってきたな」
今まで召喚された悪魔たちから話を聞いた結果、どうやら俺たちを召喚している人間の多くは――
悪魔教団。
通称、
悪魔教。
という宗教組織に所属しているらしい。
「悪魔を信仰する宗教か……」
なんとも分かりやすい名前だ。
ある時、悪魔教の信者に話を聞く機会があった悪魔から、さらに詳しい話を聞いた。
どうやら悪魔教ができたきっかけは――
召喚された悪魔が、自分たちのことをうっかり、
「俺たちは悪魔だ」
と口を滑らせたことだったらしい。
「……それだけ?」
思わずそう聞き返してしまった。
「はい。どうやら、それがきっかけだったようです」
「なんともまぁ……」
そんな偶然みたいな理由で宗教ができるとは。
まぁ、人間の考えることはよく分からない。
ただ、その悪魔教という組織。
俺たち悪魔を崇拝しているだけではなく、実際に悪魔を召喚して力を借りているらしい。
要人の暗殺。
敵対者への攻撃。
戦闘への参加。
魔力の貸し出し。
色々と悪魔を使っている。
「随分と扱き使ってるなぁ」
そう思ったが――
どうやら悪魔教の人間たちは、本心から悪魔に感謝しているらしい。
「まぁ……それならいいか」
俺としては、悪魔たちが自分から嫌がっているわけでもないなら、特に口を出すつもりはなかった。
そんな中、別の悪魔から妙な話を聞いた。
どうやら召喚された悪魔が、俺のことを――
「あの御方」
と呼んでしまったらしい。
「……あっ俺?」
どうやら人間たちは、その言葉を聞いてしまった。
そこから悪魔教の中でも、少し考え方が分かれたらしい。
一つは、単純に悪魔そのものを崇拝する者たち。
そしてもう一つは――
「あの御方」こそ、悪魔たちを生み出した至高の存在なのではないか
と考え、俺を崇拝する者たち。
「へぇ……」
どうやら悪魔教の中でも、二つの考え方が生まれたらしい。
とはいえ、両者が敵対しているわけではない。
根本にある目的は同じ。
悪魔を人間世界へ広めること。
そして、悪魔への信仰を広めること。
だから、今のところは案外仲良くやっているらしい。
「……俺が知らないところで、なんか凄いことになってるな」
まぁ、俺は相変わらず人間界へ行くことができない。
だから、今は放っておくことにした。
⸻
――あれから、体感十年。
その日は、いつもと少し違った。
俺はいつものように魔力を感じながら、魔法の研究をしていた。
その時だった。
「……ん?」
何かがおかしい。
「これは……なんの魔力の流れだ?」
いつもの召喚とは明らかに違う。
今まで感じた召喚の魔力とは、規模がまるで違った。
そして――
ドンッ!!
目の前に、巨大な魔法陣のようなものが現れた。
「……でかっ」
その瞬間。
周囲にいた悪魔たちが――
数百体まとめて、その魔法陣へ飲み込まれていった。
「え?」
俺は思わず固まった。
「ちょっと待て!」
だが、止める間もなかった。
数百体の悪魔が、一瞬で消えた。
「…………」
今までの召喚なら、一体。
多くても数体程度だった。
それなのに――
今回は、
数百体。
「……何が起きてるんだ?」
俺は巨大な魔法陣が消えた場所を見つめた。
そして、嫌な予感がした。
⸻
――あれから、体感二年。
最初は一体。
次に二体。
そしてまた一体。
数百体同時に召喚された悪魔たちが、少しずつ戻ってきた。
だが――
「……お前ら、どうした?」
帰ってきた悪魔たちは、明らかに疲れていた。
いつものように、
「ただいま戻りました!」
と元気よく帰ってくる者もいない。
みんな疲れたような様子をしていた。
俺は戻ってきた悪魔の一体に聞いた。
「何があった?」
すると――
「戦争です」
「……戦争?」
「はい」
どうやら、悪魔教団が――
教会に戦争を仕掛けたらしい。
「……人間同士で?」
「そうです」
そして、俺が召喚された数百体の悪魔について聞くと――
「俺たちは、その戦争の戦力として召喚されたんです」
「なるほど……」
悪魔教団は、俺たち悪魔を軍事力として利用したらしい。
そして――
戦争の中で、俺たち悪魔にも被害が出た。
「何体くらい死んだ?」
俺が聞くと、悪魔は少し黙ってから答えた。
「……一割強です」
「……一割強?」
俺は思わず聞き返した。
数百体いた。
その一割以上。
つまり――
かなりの数の悪魔が殺されたことになる。
「……聖魔法か?」
「はい。教会側の聖職者が使っていた魔法です」
やはり。
あの時聞いた、悪魔を殺して復活させなかった魔法。
それが戦争でも使われていたらしい。
「それで、戦争は?」
「悪魔教団が勝ちました」
「勝ったのか」
「はい。ただ……」
悪魔は少し言葉を濁した。
「双方ともかなりの被害を受けたそうです」
つまり――
悪魔教団は勝った。
だが、教会側にも大きな被害を与えた一方で、悪魔教団も大きな損害を受けた。
完全な一方的勝利というわけではない。
いわば――
痛み分けに近い勝利。
そんな感じらしい。
そして、悪魔教団はこれ以上の戦いを避けるため、しばらく活動を縮小することにしたらしい。
戦力と組織を立て直すため、可能な限り表立った活動を控え、身を潜める。
「なるほどな……」
俺は話を聞きながら、少し考え込んだ。
それにしても――
悪魔が一割強も死んだ。
今まで、悪魔が人間界で死んでも復活しないこと自体が珍しかった。
それが今回、一度の戦争でこれだけの悪魔が死んだ。
「……人間側の教会も、なかなか侮れないな」
俺はそう呟いた。
そして、もう一つ。
「聖魔法……」
俺は少し考える。
これまで俺は、聖なる属性についてほとんど研究していなかった。
そもそも、俺たち悪魔は闇属性の魔法を得意としている。
だから、聖属性については後回しにしていた。
だが――
これは完全に誤算だった。
人間の聖魔法は、俺たち悪魔に対してかなりの特効になる。
しかも、場合によっては――
この世界での「復活」すら無効にする。
「……これは、ちょっと問題だな」
俺は立ち上がった。
「一度、七柱と話し合う必要がありそうだ」
今までは、人間界のことなど大して気にしていなかった。
召喚される悪魔が増えても、
「まぁ、好きにしたらいいんじゃないか」
くらいに思っていた。
だが――
今回の件は違う。
悪魔がたくさん死んだ。
戻ってこなかった。
そして、人間にはそれを可能にする力がある。
俺はまだ知らない。
この出来事が、これからのアビスライヒにとってどれほど大きな意味を持つのかを。
ただ一つだけ。
俺は初めて、人間界というものを――
少しだけ警戒し始めていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
少しでも「面白い」「続きが読みたい」と感じていただけましたら、
下にある【★】や【コメント】で応援していただけると非常に嬉しいです!
皆様の一票が、毎日の執筆の最大のモチベーションになります!
m(_ _)m




