第8話 悪魔界の円卓会議(?)
俺はすぐに、悪魔界でもトップクラスの実力を持つ七柱を招集した。
今回ばかりは、俺一人で考えても仕方がない。
人間界で悪魔が死んだ。
しかも、今回召喚された数百体の悪魔が戦争で、そのうち一割強が帰ってこなかった。
今までの俺なら「まぁ、そんなこともあるか」で済ませていたかもしれない。
だが、今回ばかりは違う。
俺たち悪魔にとって、本当に死ぬということがどういう意味なのか。
それを考えなければならない。
そして、七柱の中で最初に来たのは――
「……お?」
意外なことに、ベルフェだった。
「ヴァルゼル様に呼ばれたので来ましたよ……」
相変わらず気だるそうだ。
「お前、意外と早いな」
「呼ばれたから来ただけですよぉ……」
そう言うと、ベルフェはその場で眠そうに立っていた。
そして次にやって来たのはルシファー。
「緊急のご用件とのことでしたので、すぐに参りました」
さすがルシファー。
いつも通り落ち着いている。
その次にやって来たのは――
「我ゼブブ!! ヴァルゼルに呼ばれたから来た!! 呼ばれた!!」
「うん、聞こえてるぞ」
相変わらず元気だな。
まぁ、可愛いからいいか。
その後、アスモ、サタン、マモン、レヴィーの順番でやって来た。
「ヴァルゼル様からのお呼び出しなら、来るしかないわね」
とアスモ。
「何か重大な問題が起きたのでしょうか」
とサタン。
「何だ何だ!? 面白そうな話か!?」
とマモン。
そして――
「…………」
レヴィーは何も言わずにこちらを見ていた。
全員が揃ったところで、俺は口を開いた。
「それじゃあ、ここに悪魔界の円卓会議を始める」
「円卓……ですか?」
ルシファーが首を傾げる。
「そう。みんなの顔が見えるように、円になって座ってくれ」
七柱は俺の言う通りに、それぞれの場所についた。
俺もその中に座る。
こうして、悪魔界で初めての円卓会議が始まった。
「まず、七柱に共有しておきたいことがある」
全員がこちらを見る。
「前に話した、人間界で悪魔が死んだって話を覚えているか?」
それぞれ反応は違った。
ルシファーは静かに頷き、サタンも真剣な表情を浮かべる。
マモンは腕を組み、アスモは興味深そうにこちらを見る。
ベルフェは眠そうなままだった。
ゼブブは、
「我ゼブブ!! 覚えてる!!」
と元気よく答えた。
「……まぁ、いいか」
とりあえず、全員覚えているらしい。
「そこから話が繋がる」
俺は少し間を置いて話し始めた。
「この前、悪魔が数百体まとめて召喚された」
七柱の表情が少し変わる。
「今までなら、一体から数体程度が普通だった。だから俺も、何か大きなことが起きているとは思っていた」
「そして今日まで、召喚された悪魔たちから何の連絡もなかった」
俺は続ける。
「だが、最近になって、その悪魔たちが少しずつ帰ってきた」
そこで一度言葉を止めた。
「……ただ、帰ってきた悪魔たちは満身創痍だった」
その言葉に、七柱が静かになる。
「俺は何があったのか聞いた。そして分かったのが――」
「悪魔教団が、教会に戦争を仕掛けたということだ」
マモンが少し笑う。
「戦争か……」
「ああ。そして、召喚された数百体の悪魔は、その戦争の戦力として使われた」
「さらに――」
俺は言葉を選びながら続けた。
「その数百体のうち、一割強が何らかの形で殺された」
「…………」
会議室が静まり返った。
俺はその沈黙の中で、自分の考えを口にする。
「俺は、悪魔が魔法を得意としていることや、人間界でもある程度無双できていることを知っていた」
「だからこそ、俺は失念していたんだと思う」
俺は七柱を見回す。
「人間側にも、俺たち悪魔を殺せるだけの力があるということを」
少しだけ、胸の奥が重くなった。
「最初に悪魔が殺された時も、俺はそれを甘く見ていた」
そして――
「これは俺の傲慢だった」
俺は頭を下げた。
「……済まなかった」
誰に謝ればいいのか、正直なところ分からなかった。
死んだ悪魔本人は、もう戻ってこない。
だからこそ、七柱とのこの場で謝ることにした。
しばらく誰も何も言わなかった。
だが、最初に口を開いたのはルシファーだった。
「ヴァルゼル様」
俺が顔を上げる。
「どうか、お気になさらないでください」
「だが――」
「死んだ者たちは、弱かったから死んだ。それだけのことにございます」
ルシファーは淡々と言った。
サタンも続く。
「私もルシファーと同意見です。戦場に赴いた以上、力が及ばなければ命を落とす。それは我々悪魔にも変わりません」
マモンも、
「そういうことだ。俺たちだって強くなるために戦ってるんだからな」
と頷く。
アスモは、
「ヴァルゼル様が悪いわけじゃないでしょう?」
と優しく言った。
ベルフェも眠そうに、
「まぁ……気にしなくていいんじゃないですかぁ……」
と言った。
ゼブブは、
「我ゼブブ!! ヴァルゼル悪くない!!」
と叫んだ。
最後にレヴィーが、
「…………」
こちらを見ていた。
「……お前は何か言わないのか?」
「……ヴァルゼル様が謝る必要はないと思う」
小さな声だった。
七柱の言葉を聞いても、俺の気持ちが完全に晴れたわけではなかった。
それでも――
「……そうか」
俺は顔を上げた。
ここでいつまでも落ち込んでいても仕方がない。
死んだ悪魔たちを生き返らせる方法が今の俺には分からない。
なら、これから同じことを起こさないために動くしかない。
「……これからのことについて話し合おう」
七柱がこちらを見る。
「まず、悪魔教団は今回の戦争で相当なダメージを受けたらしい」
「だから、しばらくは活動を縮小して身を潜めるそうだ、召喚される悪魔の数も減るだろう」
「なら、その間に俺たちも準備をしよう」
俺は指を立てながら話す。
「一つ。悪魔たちの戦闘能力をもっと高める」
「二つ。人間の聖職者が使う魔法について調べる」
「三つ。そして――」
少し考える。
「召喚された悪魔には、人間界の偵察をしてもらう」
ルシファーが頷く。
「なるほど」
「ただし、無理はさせない」
俺はそこを強調した。
「自分が死ぬと思ったら、すぐに逃げる。人間界での死が本当に俺たちの復活を妨げるなら、命を無駄にする必要はない」
「それがよろしいかと」
ルシファーは立ち上がった。
「では、今決まったことを悪魔界にいる悪魔全員へ伝えましょう」
「頼む」
「承知いたしました」
ルシファーはそう言って、その場を離れた。
他の七柱も、それぞれ神妙な面持ちで話を聞いていた。
……ただ、一人を除いて。
「ゼブブ!! 最強!! 最強!!」
「……お前、分かってるのか?」
「我ゼブブ!! 最強になる!!」
「まぁ……いいか」
なんとなく暗かった会議の空気が、一気に明るくなった気がした。
「では、ここで話したことを各々心に留めて、次の行動に移すように」
俺は七柱を見回す。
「これにて、悪魔界の円卓会議を終わろうと思う。いいか?」
七柱は頷いた。
「はい」
「異論ありません」
「うん」
それぞれが席を立ち、ゼブブ以外の六柱はその場を去っていった。
最後まで残ったゼブブは、俺の方を向いて――
「我ゼブブ!! ヴァルゼルに会えた!! 会えた!!」
「……相変わらずテンション高いな」
ゼブブも満足そうに去っていった。
静かになった場所で、俺は一人考える。
「……これからは、もう少し心しておかないとな」
今まで、俺は人間界をほとんど気にしていなかった。
だが、もう無視するわけにはいかない。
人間界では何が起きているのか。
悪魔を殺した聖魔法とは、どんな魔法なのか。
なぜ人間たちは悪魔を召喚するのか。
そして――
人間界には、どれほどの力を持った存在がいるのか。
調べなければならない。
「……まぁ、まずは人間界へ行く方法を探すところからか」
俺はため息をついた。
「長くなりそうだなぁ……」
でも――
俺は悪魔だ。
たぶん寿命もない。
「……まぁ、時間ならいくらでもあるか」
そう呟きながら、俺は再び研究へ戻った。
ただ、この時の俺はまだ知らなかった。
人間界を知るために始めたこの行動が――
やがて、俺自身が人間界へ降り立つきっかけになることを。
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