第6話 「死んだ…」
何も無しに休んですみませんでした。
m(_ _)m
――あれから、体感で一年。
アビスライヒができてからも、俺は相変わらず魔法の研究を続けていた。
国ができたと言っても、俺自身の生活が大きく変わったわけではない。
俺は研究をして、悪魔たちを眺めて、たまに七柱と話す。
そんな毎日だった。
ただ、一つだけ明らかに変わったことがある。
「……最近、召喚される悪魔が増えたな」
人間界。
俺たちはそう呼んでいる。
もちろん、本当に人間が住んでいる世界なのかはまだ分からない。
ただ、今まで召喚された悪魔たちの話を聞く限り、そこには俺たちとは違う種族――人間が存在しているらしい。
そして最近、その人間界へ召喚される悪魔の頻度と数が、明らかに増えていた。
最初の頃は、たまに一体が召喚される程度だった。
それが今では、複数体が同時に召喚されることも珍しくない。
「人間って、そんなに悪魔を呼んで何してるんだ?」
俺は召喚から戻ってきた悪魔たちに聞いてみた。
すると、いろいろな話が出てきた。
「要人の暗殺を頼まれた」
「大量の人間を殺してほしいと言われた」
「魔力を貸してほしいと言われた」
「戦争に力を貸してほしいと言われた」
「特定の人間を脅してほしいと言われた」
……などなど。
どうやら人間たちは、悪魔をかなり都合よく使っているらしい。
「なるほどなぁ……」
悪魔を召喚して、自分たちの目的を達成する。
そういう契約みたいなものなのだろう。
以前、おれっち悪魔が言っていた、
『これをしてくれないか』
というのも、どうやらそういう意味だったらしい。
「まぁ、人間も色々大変なんだな」
俺は特に気にしていなかった。
そもそも、俺たちは人間界に自由に行く方法すら分かっていない。
だから、今のところは関わりようがない。
……そう思っていた。
だが、ある時。
俺たちにとって、とても重要なことが起きた。
複数体の悪魔が同時に召喚された時のことだった。
今回の依頼は――
人間界の要人を暗殺すること。
何体かの悪魔が一緒に召喚され、依頼を遂行しようとした。
しかし、その途中。
「聖職者らしき人間が現れた」
帰ってきた悪魔は、そう話した。
「聖職者?」
「はい。人間の中でも、魔法を使える者だったようです」
どうやら、その人間は悪魔に対して魔法を放ったらしい。
そして――
一体の悪魔が、その魔法を受けた。
「……それで?」
「死にました」
「…………」
俺は一瞬、意味が分からなかった。
悪魔は死んでも復活する。
それが、この世界では当たり前だった。
だから俺は、何度も聞き返した。
「死んだ?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「……その後は?」
「戻ってきませんでした」
「…………」
俺はしばらく黙った。
「……生き返らなかったのか?」
「はい」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが引っかかった。
これまで、悪魔は死んでも復活する。
それが当たり前だと思っていた。
だが――
人間界では違うのか?
俺たちが今まで知らなかっただけなのか?
「……死んだの?」
自分でも驚くほど、同じことを何度も聞いてしまった。
「はい。戻ってきていません」
「…………そうか」
俺は少しだけ考えた。
もし人間界で悪魔が死んだ場合、本当に復活しないのだとしたら。
それは――
俺たち悪魔にとって、とんでもなく重要な問題だ。
しかも、殺したのは人間。
聖職者らしき人物が使った魔法。
「……聖なる魔法、なのか?」
俺はそう呟いた。
俺自身、魔法には様々な属性があることを知っている。
火、水、風、土、雷、闇。
そして、まだ詳しく分かっていないものもある。
もしかすると――
俺たち悪魔にとって致命的な魔法が、人間界には存在する。
そういうことなのかもしれない。
「……」
俺は、少しだけ嫌な予感がした。
とはいえ、今の俺には人間界へ自由に行く方法がない。
仕返しをしようにも、そもそも相手のところへ行けない。
「……まぁ、今は我慢するしかないか」
俺はそう結論づけた。
そして、七柱にもこのことを話すことにした。
まずはルシファー。
「人間界で悪魔が一体、復活せずに死んだ」
俺がそう伝えると、ルシファーは少し考え――
「それは……重要なことが分かりましたね」
淡々と答えた。
相変わらず冷静だ。
次にゼブブ。
「悪魔が死んだ」
「我ゼブブ!! 悪魔死んだ!! 悪魔死んだ!!」
「うん」
「悪魔、死んだ!!」
「……気にしてるのか?」
「我ゼブブ!!」
「分からんな……」
ただ、相変わらず可愛いので良しとする。
次にサタン。
「人間界では、悪魔が死んでも復活しない可能性がある」
「それは……私たち悪魔にとっての、死活問題にならないといいのですが」
サタンはかなり問題視しているようだった。
確かに、その通りだ。
アスモはというと、
「へぇ~。私たちを殺せるなんて、どんな魔法なのかしら?」
「そこを気にするのか?」
「だって気になるじゃない?」
どうやら、敵の魔法そのものに興味があるらしい。
マモンは、
「ほぉう……俺たちを殺せる奴がいるのか」
ニヤリと笑った。
「いつか、そいつらと殺し合いをしてみたいな」
「……お前は相変わらずだな」
なぜか戦う気満々だった。
ベルフェは、
「悪魔がまだ一体殺されただけでしょ……」
と、眠そうに言った。
「まぁ……確かにそうだな」
そして最後にレヴィー。
「…………」
「レヴィー?」
「…………」
こちらをじっと見つめている。
「何か言わないのか?」
「…………」
何も言わない。
「まぁ、いいか」
俺は放っておくことにした。
七柱の反応はそれぞれだった。
心配する者。
興味を持つ者。
戦いたがる者。
特に気にしない者。
そして――何も言わない者。
俺自身も、まだそこまで深刻には考えていなかった。
なにしろ、今まで何千、何万という悪魔が生まれてきた。
その中で、死んで戻ってこなかったのは――
たった一体。
だから俺は、まだ大事にはしなかった。
「まぁ、一体くらいなら……」
俺はそう呟いた。
この時の俺は――
まだ知らなかった。
たった一体の死が。
これから俺たち悪魔と人間との関係を、大きく変えることになるとは。
そして――
この一体の死が、後に大きな戦いへと繋がっていくことを。
知らないまま、俺は再び魔法の研究へ戻った。
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