第5話 建国??
あれから――
体感で十年ほど経った気がする。
俺は相変わらず、増え続ける悪魔たちを眺めながら、魔法の研究を続けていた。
「すごいなぁ……」
最初は俺一人だった。
それが今では、見渡す限り悪魔だらけ。
まぁ、俺が特に何かをしたわけではないんだけどな。
そんなある日、俺は魔法について、とんでもなく当たり前のことに気づいた。
「……あれ?」
魔法を使う。
火が出る。
「…………」
もう一度使う。
火が出る。
「……詠唱、いらないんだ」
俺はてっきり、異世界転生といえば、
『我が求めるは炎の力――』
みたいな詠唱が必要なのかと思っていた。
どうやら、そんなものはいらなかったらしい。
ここから考えると、俺たちの魔法は――
イメージと魔力操作。
この二つがあれば、ある程度は何とかなるようだ。
さらに研究を続けていると、強力な魔法を使うには、それ相応の魔力量が必要だということも分かった。
「まぁ、無駄な十年ではなかったな」
俺は満足した。
そんな俺が魔法の研究を続けている間にも、悪魔たちはどんどん増えていった。
そして、ある時から悪魔たち同士で争っているのを見かけるようになった。
「……何してんだ?」
どうやら、技量を高めるためなのか、それとも単純に力を試したいのか。
悪魔たちは仲間同士で戦い始めていた。
まぁ、俺は止めなかった。
俺は至高なるお方と呼ばれているらしいが、悪魔たちが争うことを禁止するつもりはなかった。
むしろ――
「強くなるためなら、争うのもいいんじゃないか?」
俺自身、技量を高めるために戦うことは推奨していた。
それに、どうやら悪魔は死んでもこの世界では復活する。
なら、多少の争いくらいなら問題ないだろう。
……たぶん。
⸻
――あれから、体感二十年。
さらに時間が経った。
ある日、俺は悪魔たちを眺めていて、ふと気づいた。
「……あれ?」
いつもいるはずの悪魔が、何体かいない。
死んだのかと思ったが、しばらくすると――
「お、おかえり」
消えていた悪魔たちが戻ってきた。
そこで俺は、一体の悪魔に話を聞いてみることにした。
「お前、どこに行ってたんだ?」
すると、その悪魔は少し変わった口調で答えた。
「至高の御方、なぜおれっちが消えていたかと言うと――」
「うん」
「なんか足元に魔法陣みたいな、光ってる紋様ができてたんすよ」
「魔法陣?」
「そうっす。それで『うわっ』って思って目をつぶったら――」
「……」
「俺たち悪魔の容姿に似た奴らがいて、なんかめちゃくちゃ喜ばれてたんすよ」
「……人間か?」
「たぶん、人間っぽいっす」
「ほう」
「で、そのまま放置してたら、その複数人の中の一人が『これをしてくれないか』って言ってきたんすよ」
「何を?」
「それが分からないんすよねぇ」
「……」
「だから、おれっちが『代わりにこっちに見返りをちょうだい』って言ったら、そいつが分かったって」
「それで?」
「その後、本当に見返りをくれたんで、おれっちは戻ってきた感じっす」
「…………」
よく分からない。
だが、一つだけ分かったことがある。
「俺たちとは別の世界がある……?」
この世界とは違う場所。
そこに人間らしき存在がいて、そこから俺たち悪魔を呼び出している。
つまり――
召喚。
なのかもしれない。
「……まぁ、そんなことどうでもいいか」
俺は深く考えるのをやめた。
俺たち悪魔には関係のない話だ。
たぶん。
そういえば、この悪魔はいつの間にか貴族級になっていた。
俺は以前と同じように、そいつへ名前を与えることにした。
「じゃあ、お前にも名前をやろう」
「お、おれっちにっすか!?」
「ああ」
「至高の御方に名をいただけるなんて……嬉しいっす!」
そいつは、とても嬉しそうだった。
名前を与えると、俺の魔力がそいつへ流れ込んでいく。
そして、鑑定してみる。
子爵級(侯爵級)
「……」
やっぱり、よく分からない。
「まぁ、いいか」
分からないものは分からない。
そうして俺は、また魔法の研究へ戻った。
⸻
――あれから、体感百年。
この百年で、いくつか分かったことがある。
まず、さっきのおれっち悪魔以外にも、同じように召喚されていた悪魔がいた。
話を聞いてみても、だいたい似たようなものだった。
人間らしき存在に呼ばれ、何かを頼まれ、代わりに何らかの見返りを受けて戻ってくる。
「……どうやら俺たちの存在に、人間たちが気づき始めたみたいだな」
まぁ、それ以上のことは今の俺には分からない。
そして、もう一つ。
悪魔の数はさらに増えていた。
気づけば、俺たちはとんでもない数になっていた。
そんなある日。
俺はルシファーに呼ばれた。
「ヴァルゼル様、一つご提案がございます」
「ん?」
「悪魔たちがこれほどまでに増えているのであれば、この世界に『国』のようなものを作ってはいかがでしょうか?」
「国?」
「はい」
ルシファーは真剣な顔で続けた。
「悪魔たちをまとめるためにも、統一された国家が必要かと」
「ふーん」
俺は少し考えた。
……正直、どうでもいい。
国なんてものを作って何が変わるのか、俺にはよく分からなかった。
だから――
「好きにしたら?」
「……承知いたしました!」
その一言で、俺は話を終わらせた。
そして――
いつの間にか。
本当に、いつの間にか。
俺の知らないところで、一つの国が出来上がっていた。
その名は――
アビスライヒ。
「……いつの間に?」
どうやら俺を皇帝として、その下に七柱が並ぶ形になっているらしい。
正式国号は――
深淵魔帝国。
そして通称が、
アビスライヒ。
あるいは単に、
ライヒ。
と呼ばれるらしい。
まぁ、今のところは「国」というより、巨大な悪魔たちの集団に近い気もする。
ただ、人数の規模が規模だ。
もう国と呼んでもいいだろう。
「……俺、建国した覚えないんだけどなぁ」
思わず笑ってしまった。
すると、ゼブブが嬉しそうに叫んだ。
「我ゼブブ!! ヴァルゼルの国!! ヴァルゼルの国!!」
「そんなに嬉しいのか?」
「うん!!」
ゼブブはとても嬉しそうだった。
サタンも静かに頭を下げる。
「私めも、大変喜ばしゅうございます」
「そうか」
アスモはというと、
「私はぁ、ヴァルゼル様が上ならなんでもいいわ」
「……まぁ、それならいいか」
マモンも豪快に笑う。
「俺様はいいと思うぜ!」
「よし」
ベルフェはというと――
「どうでもいいやぁ……」
眠そうだった。
「……まぁ、こいつは放っておこう」
そして最後にレヴィー。
「お、お、俺はいいと思うよ。なぜなら、この国というものがヴァルゼル様を中心として――」
「…………」
長そうだ。
俺はレヴィーの話を聞いているふりをしながら、適当に相槌を打った。
「うんうん」
「それでですね、さらに――」
「うんうん」
「つまり――」
「なるほどなぁ」
たぶん、ほとんど聞いていない。
まぁ、七柱のほとんどが好印象みたいだし。
俺も特に反対する理由はなかった。
こうして――
俺が知らない間に。
俺が特に何もせず。
一つの国が生まれた。
その国の名は、
深淵魔帝国――アビスライヒ。
そして俺は、その国の皇帝になっていた。
「……まぁ、いいか」
俺は今日も、そう呟いた。
――こうして、悪魔たちの帝国が始まった。
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