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第4話 あれから万年

俺は、途方に暮れていた。


「……あれ?」


ふと周囲を見渡す。


いつもと変わらない景色。


けれど、俺には一つだけ気になることがあった。


「……待てよ」


俺はこれまで、魔力の研究や魔法の実験をしていた。


その合間に、周囲で生まれてくる悪魔たちを眺めたり、話をしたりしていた。


そして、ふと気になって時間を確認してみる。


「…………」


どうやら、いつの間にか――


一万年近く経っていたらしい。


「……一万年?」


思わず呆れてしまった。


いや、だって一万年だぞ?


人間なら何世代どころの話ではない。


文明だって大きく変わっていてもおかしくない年月だ。


「……まぁ、俺って悪魔だしな」


そう考えると、どうでもよくなった。


そもそも俺には寿命らしい寿命がない。


気にしたところで仕方がない。


「せっかくだし、この一万年で何があったのか整理してみるか」


そうして俺は、この一万年を振り返ることにした。


まず、最初に生まれた七人。


ルシファー、ゼブブ、サタン、アスモ、マモン、ベルフェ、レヴィー。


あの七人が生まれてから数百年ほどは、特に大きな変化はなかった。


だが――


五千年ほど経った頃から、少しずつ変化が起き始めた。


「……増えたなぁ」


気づけば、新しい悪魔が次々と生まれるようになっていた。


しかも一体や二体ではない。


数千体規模。


最初の頃は、悪魔が生まれること自体が珍しかったのに、今ではそこら中に悪魔がいる。


そこで俺は、一つの重要なことに気づいた。


どうやら俺たち悪魔は――


この世界で戦って死んでも、死なないらしい。


正確には、一度死んでも時間が経てば再び復活する。


もちろん、戦いで傷つけば痛みはある。


それでも、完全な意味での「死」ではない。


少なくとも、この世界にいる限りは。


「……不思議な生き物だな、俺たち」


そして、もう一つ分かったことがある。


それは――


長く生きれば生きるほど、強くなる。


生まれたばかりの悪魔と、何千年も生きている悪魔では、魔力量も身体能力もまるで違う。


俺が教えた魔法も、長く生きている悪魔ほど上手く扱えるようになっていた。


そして、そんな悪魔たちは俺や、長く生きている悪魔たちを尊敬し、そして畏怖するようになっていた。


特に俺に対しては凄かった。


「至高なるお方に、一生お仕えいたします!」


「どこまでもヴァルゼル様についていきます!」


「我らの始祖にして、偉大なるお方よ!」


……などなど。


「いや、そこまで?」


最初は少し困った。


でも、悪い気はしなかった。


むしろ――


「まぁ、嬉しいけどな」


そんな感じだった。


そして、いつの間にか最初に生まれた七人のことを、俺たちは「七人」とは呼ばなくなっていた。


彼らは悪魔の中でも特別な存在になっていたからだ。


いつしか、彼らはこう呼ばれるようになった。


――七柱。


俺もその呼び方を気に入り、そのまま定着していった。


そんな中、俺は途中で一つの能力を覚えた。


正確には、スキルなのか魔法なのか、それとも別の何かなのかは分からない。


ただ、対象を見れば、その悪魔の情報がなんとなく分かる。


俺はそれを――


「鑑定」


と呼ぶことにした。


試しに長く生きている悪魔を鑑定してみる。


すると――


「……ん?」


そこには、今まで見たことのない文字が表示されていた。


子爵級悪魔


「……貴族?」


どうやら悪魔にも、何らかの階級があるらしい。


ファンタジー作品でよく見るような、


騎士爵。


男爵。


子爵。


伯爵。


侯爵。


公爵。


そんな貴族階級が、悪魔にも存在していた。


「へぇ……」


これは面白い。


そこで俺は考えた。


長く生きていて、なおかつ力の強い悪魔たちに、名前を与えてみることにした。


以前、ルシファーたちに名前を与えた時、俺の魔力が大量に流れ込んだ。


ならば――


「名前を与えれば、こいつらも強くなるんじゃないか?」


実際に名前を与えてみる。


すると、やはり同じだった。


俺の魔力が相手へ流れ込み、その悪魔の力が増していく。


そして――


「ありがとうございます!」


「この名、必ずや我が身に刻みましょう!」


「至高なるお方から名をいただけるとは……!」


みんな、とんでもなく喜んだ。


「……そんなに嬉しいものなのか?」


まぁ、喜んでくれるなら俺としても嬉しい。


そんなことを繰り返しているうちに、俺はある程度、悪魔たちの階級を把握できるようになっていった。


そして――


俺は七柱のことも鑑定してみた。


まずはルシファー。


「……お?」


そこには、


侯爵級


そして、その横には――


悪魔王


と表示されていた。


「……悪魔王?」


初めて見る言葉だった。


次にゼブブを鑑定する。


辺境伯級


その横には――


公爵


と表示されている。


「……なんだこれ?」


さらにサタンを鑑定。


伯爵級


そして、


公爵


その下の四柱も、サタンと同じだった。


「……七人とも、とんでもないな」


俺は改めて七柱を見た。


最初に生まれた七人。


今では、悪魔の中でも明らかに別格の存在になっている。


そして俺は、一つの仮説を立てた。


「もしかして……この階級って、強さとか生きた年数で変わるのか?」


長く生きているほど強くなる。


そして、強い悪魔ほど高い階級になっている。


ならば、この階級は悪魔の強さや年齢をある程度反映しているのかもしれない。


「まぁ、分からんけど」


今の俺には確かめる方法がない。


「考えても仕方ないか」


そうして俺は、それ以上深く考えるのをやめた。


ただ、一つだけ気になることがあった。


七柱以外の悪魔を鑑定してみると、どれだけ強い悪魔でも、


子爵級


と表示されるものが多かった。


だが、その横に表示される言葉が違っている。


侯爵。


「……なんで階級と横の表示が違うんだ?」


俺にはさっぱり分からなかった。


そもそも、なぜ二種類の階級が表示されているのかすら分からない。


そして最後に――


俺自身を鑑定してみた。


すると、


悪魔王


その下に、


始祖


さらに――


悪魔帝


と表示された。


「…………」


これはもう、謎が深まるばかりだった。


「俺って、何なんだ?」


まぁ、考えても分からない。


ただ、この表示を見る限り、どうやら俺は他の悪魔とは明確に違う存在らしい。


それだけは分かった。


そして――


一万年が経つ頃には、俺たち悪魔の数はさらに増えていた。


その数――


およそ百万人。


最初は俺一人だった。


そこからルシファーが生まれ、七柱が揃い、さらに新たな悪魔たちが次々と生まれていった。


そして今では――


百万人もの悪魔が、この世界に存在している。


「……一万年って、すごいな」


俺はそう呟きながら、遠くを眺めた。


かつて何もなかった世界には、今では数え切れないほどの悪魔がいる。


そして俺は、まだ知らなかった。


この一万年の間に生まれた悪魔たちと、この世界が――


これから一つの巨大な国家へと変わっていくことを。


――アビスライヒ。


その名が、この世界に刻まれる日が近づいていた。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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