第3話 あれからたった6年されど6年
ルシファーが生まれてから、俺の生活は少し変わった。
何しろ、今までずっと一人だったのだ。
話し相手がいるというだけで、暇つぶしの方法が一気に増えた。
魔法の研究をするときも、
「これはどういう原理なんだ?」
「おそらく魔力の流れに関係しているのではないでしょうか」
なんて話しながら研究できる。
……まあ、俺が適当に思いついたことを言っているだけのときも多いけど。
それでも、一人で黙々と研究していた頃よりはずっと楽しい。
ルシファーには俺が知っている魔法を教えたり、魔力の動かし方を教えたりもした。
最初は魔力を少し動かすだけでも苦労していたルシファーだったが、何度も練習するうちにどんどん上達していった。
「やはり、魔法というものは面白いですね」
「だろ?」
「はい。至高のお方が研究される理由が分かる気がします」
「まあ、暇だからやってるだけだけどな」
「……」
なぜかルシファーが少し困った顔をする。
……まあいいか。
そんな毎日を過ごしていた。
⸻
――あれから体感半年後。
「……ん?」
いつものように魔力の流れを感じていると、また以前と同じような感覚があった。
俺の魔力が、外へ漏れ出している。
「またか?」
周囲を見る。
すると、少し離れた場所で魔力が渦を巻いていた。
「ルシファー、あれ何だと思う?」
「……私にも分かりません」
「まあ、見に行ってみるか」
俺たちは魔力の渦へ向かった。
そして――。
そこには、一体の新しい悪魔がいた。
ルシファーとは明らかに違う姿。
そして、その悪魔は俺を見るなり、いきなり口を開いた。
「我に名前をくれ」
「……」
いきなりだな。
俺がどうしようか考えていると、横にいたルシファーが口を開いた。
「無礼ですよ。至高のお方に対して、そのような口の利き方を――」
「別にいい」
「しかし……」
「まあ、俺は気にしてないから」
新しく生まれた悪魔は、そんな俺たちのやり取りを気にする様子もない。
というか、そもそも全然反省していない。
……まあ、いいか。
ルシファーのときは名前を決めるのに十年も待たせてしまった。
今回は早めに決めてやろう。
「お前は悪魔なんだよな?」
「そうだ」
「なら……」
俺は少し考える。
そして、七つの大罪の一つから名前を取ることにした。
「傲慢のルシファーに続いて、お前は暴食のベルゼブブ――」
少し長いな。
「……ゼブブでいいか」
「我は……ゼブブ……」
俺がそう言った瞬間――。
また、俺の体から凄まじい量の魔力が抜けていった。
「おお……」
抜け出した魔力はゼブブへと吸い込まれていく。
そして――。
「我、ゼブブ!」
ゼブブは突然、嬉しそうに叫んだ。
「我、ゼブブ! ゼブブ!」
……なんだろう。
めちゃくちゃ可愛い。
見た目も幼い少女のような姿をしている。
さっきまで口が悪かったのに、今では自分の名前を嬉しそうに連呼している。
「我ゼブブ! 主様の名前! 教えて!」
「俺?」
「そう!」
「俺はヴァルゼルっていう」
「ヴァルゼル!」
ゼブブはさらに嬉しそうになる。
「我ゼブブ! 一生ヴァルゼルについて行く!」
「至高のお方を呼び捨てにするなど――」
ルシファーがすぐさま注意する。
しかし俺は、
「まあ、いいんじゃない?」
「……よろしいのですか?」
「可愛いし」
「……」
ルシファーが何とも言えない顔をしている。
まあ、いいだろう。
こうして俺に、新しい仲間が一人増えた。
⸻
ちなみに、俺たちの容姿についても少し分かってきた。
俺自身は自分の姿を見ることができないので、詳しいことは分からない。
ただ、ルシファー曰く、
「身長は180センチほどで、とても整った顔立ちをされています」
らしい。
……本当か?
ルシファーのことだから、お世辞がかなり混ざっていそうな気がする。
まあ、自分では確認できないし、
俺はイケメンということにしておこう。
そしてルシファーはというと――。
ボーイッシュな女性のような雰囲気をしている。
身長は170センチ後半くらい。
凛々しく、かっこいい。
俺からすると、モデルみたいな感じだ。
一方、ゼブブは幼い少女のような見た目をしている。
……なんというか。
三人並んだら、かなり変な組み合わせになりそうだ。
⸻
――あれから体感一年後。
また魔力の渦が発生した。
「……また生まれたのか?」
ルシファーとゼブブと一緒に見に行く。
そこにいたのは――。
老人だった。
長い年月を生きてきたような風格。
落ち着いた物腰。
そして、どこか英国紳士を思わせるような雰囲気。
いわゆる、
イケおじ
というやつだ。
その悪魔は俺を見ると、丁寧に頭を下げた。
「私めに、お名前を付けていただけませんでしょうか」
「お前は……」
少し考える。
なら、次は――。
「憤怒のサタンから取って、サタンだ!」
「サタン……」
名前を告げた瞬間、いつものように俺の魔力が大量に抜けていく。
そしてサタンへと吸収される。
……この辺はもう慣れてきた。
「私めに、このような素晴らしいお名前をいただき、ありがとうございます」
「喜んでもらえたならよかった」
こうして三人目の仲間ができた。
⸻
――あれから体感一年後。
また生まれた。
最近、こういうことが増えてきた気がする。
「今度はどんなやつだ?」
見に行ってみると――。
「……おお」
そこにいたのは、ものすごく綺麗な女性だった。
いわゆる、
お姉様系美女。
どこか妖艶な雰囲気もある。
その女性は俺の前まで来ると、微笑みながら言った。
「私に、お名前を付けてくださらないのですか? 至高のお方」
「もちろん」
もう名前を考えるのにも慣れてきた。
「色欲のアスモデウスから取って――アスモ!」
「アスモ……」
いつものように俺の魔力が抜け、アスモへと流れていく。
「私にこんな素敵なお名前をくださるなんて……ありがとうございます」
「喜んでくれたならよかった」
四人目。
名前はアスモ。
⸻
――あれから体感一年後。
「……またか」
また生まれたらしい。
見に行く。
すると――。
「うお……」
そこには筋骨隆々の男が立っていた。
とにかくデカい。
そして、暑苦しい。
「至高のお方よぉ~!」
「……」
「俺様に名前をつけてくれよ!」
声まで暑苦しい。
まあ、名前を欲しがっているなら付けるか。
「君は……力を欲しそうな見た目をしているから」
俺は少し考えてから言った。
「強欲のマモンから取って、マモンね」
「マモン……!」
また俺の魔力が大量に抜けていく。
そして――。
「俺様は今日からマモンを名乗るぜ!」
マモンは嬉しそうに拳を握った。
「……まあ、喜んでるならいいか」
五人目。
マモン。
⸻
――そして、さらに一年後。
ここまで来ると、読者がいたら、
「また名前を付けるだけじゃん」
と思われそうだ。
……まあ、実際そうなんだけど。
ということで、ここからは少しダイジェストにしよう。
次に生まれたのは、中肉中背の男だった。
なんというか――。
だるそう。
やる気がない。
ずっと眠そうにしている。
なので、俺は迷わず、
「怠惰のベルフェゴールから取って、ベルフェ」
と名付けた。
ベルフェは、
「……ベルフェ……か。まあ、いいや」
と、ものすごくだるそうに答えた。
……本当に怠惰だな。
そして、その次に生まれたのは――。
根暗そうな、細身の男。
目つきも悪い。
何というか、ずっとネチネチ言ってきそうな雰囲気がある。
俺は少し考え、
「嫉妬のレヴィアタンから取って、レヴィー」
と名付けた。
「……レヴィー……」
「うん」
「……まあ、悪くない」
こちらはこちらで、なんとも陰気である。
こうして――。
俺の周囲には、
ルシファー。
ゼブブ。
サタン。
アスモ。
マモン。
ベルフェ。
レヴィー。
七人の悪魔が集まった。
⸻
俺は改めて、七人を眺めた。
「……」
最初は俺一人だった。
それが、ルシファーが生まれて。
ゼブブが生まれて。
サタンが生まれて。
アスモが生まれて。
マモンが生まれて。
ベルフェが生まれて。
レヴィーが生まれた。
「六年で……七人か」
……大分増えたな。
最初はずっと一人だったのに。
今では、周囲に七人もいる。
「なんか賑やかになったな」
俺がそう言うと、ルシファーが微笑んだ。
「はい。これもすべて、至高のお方のおかげです」
「そう?」
「はい」
ゼブブも、
「我ゼブブ、ヴァルゼル好き!」
と叫ぶ。
「……お前は本当に自由だな」
サタンは微笑みながら、
「実に賑やかになりましたな」
と答える。
アスモは楽しそうに笑い、
マモンは豪快に笑い、
ベルフェは眠そうにしていて、
レヴィーは少し離れた場所でこちらを眺めている。
……なんだかんだで、悪くない。
一人だった頃より、ずっと面白い。
⸻
だが――。
それから先。
数年。
数十年。
そして数百年。
どれだけ時間が経っても、
新しい悪魔が生まれることはなかった。
俺の魔力は、今も世界へと流れ続けている。
それなのに。
生まれた悪魔は、あの七人だけだった。
「……なんでだ?」
俺には、まだ分からなかった。
なぜ最初の七人だけが生まれたのか。
なぜ、その後に新しい悪魔が生まれないのか。
そして――。
この七人が、これからどんな存在になっていくのか。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。
ただ一つ分かっていたことがある。
最初は一人だった俺のそばに――
七人の仲間ができた。
それだけだった。
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