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第2話 新たな仲間?部下?ができた

――あれから、体感百年後。


俺は最近、少し気になることがあった。


今からさらに五十年ほど前のことだ。


いつものように魔法の研究をしていた俺は、ふと違和感を覚えた。


「……あれ?」


何かがおかしい。


自分の体の中にある、あの温かいもの。


俺が勝手に魔力と呼んでいるものが、どうやら体の外に漏れ出しているらしい。


最初は気のせいだと思った。


しかし、意識を集中させて周囲を探ってみると――


「……めちゃくちゃあるな」


そこら中に、俺の魔力が漂っていた。


空気中に霧のように浮かんでいる。


しかも、ただ漂っているだけではない。


少しずつ集まり始めていた。


「お?」


俺が観察していると、周囲に漂っていた魔力が渦を巻き始めた。


ぐるぐると回転しながら、徐々に一つの場所へ集まっていく。


「なんだこれ?」


面白い現象ではある。


だが――


「……まあ、何も起きてないし、いいか」


俺はそのまま放置することにした。


だって、何か危険そうなことが起きているわけでもない。


爆発するわけでもない。


俺に襲いかかってくるわけでもない。


だったら、わざわざ止める必要もないだろう。


そんな感じで放置していた。


そして――


気づけば、五十年が経っていた。


いや、五十年って長いな。


普通なら長いどころの話じゃないんだろうけど、俺の場合は暇つぶしに魔法の研究をしていたら過ぎていた。


まあ、そんなことはどうでもいい。


結局、何も起きなかった。


だから俺は、そのまま放置することにした。


⸻


――それから、体感九百年後。


「……ん?」


気づけば、目の前に何かがいた。


人間ではない。


俺が今まで見たことのない姿をした存在だ。


黒い服を着た体。


鋭い角。


背中には大きな翼。


そして、俺のことを見つめる二つの目。


見た瞬間に思った。


「……悪魔?」


前世でいうところの、いわゆる悪魔。


そんな存在が、俺の目の前に立っていた。


どうやら、かなり長い時間をかけて魔力の渦から生まれたらしい。


俺が観察していると、その悪魔は俺の前で跪いた。


そして――


「初めまして。悪魔の始祖にして、至高なるお方。どうか私めにお名前をお付けください」


「……」


……え?


俺?


俺に言ってるの?


いや、周囲を見渡してみる。


誰もいない。


やっぱり俺か。


「……名前?」


「はい」


悪魔は深々と頭を下げたまま答える。


「私は、偉大なるお方より生まれし者。どうか、この身に名をお与えください」


なるほど。


名前を付けてほしいらしい。


……どうしよう。


そもそも、俺は名前を付けた経験なんてない。


前世では田中貞国という名前があったが、今はそんなものを名乗る必要もない。


というか、この悪魔。


生まれてからまだそんなに経ってないよな?


それなのに、俺のことを「始祖」とか「至高なるお方」とか呼んでいる。


なんでだ?


……まあ、考えても分からないか。


それにしても名前か。


適当に付けるのもどうかと思う。


一応、俺から生まれたようなものだし。


「……」


俺は悩んだ。


かなり悩んだ。


⸻


――それから、体感十年後。


「……うーん」


俺はまだ悩んでいた。


そう。


十年も。


「さすがに待たせすぎたかな」


目の前では、あの悪魔が十年間ずっと跪いている。


よく待てるな。


俺だったら絶対に嫌だ。


というか、そろそろ決めてあげたほうがいいだろう。


「よし」


俺はようやく決断した。


ただ、一つ気になることがある。


この悪魔は、さっきから俺のことを「あのお方」とか「至高なるお方」と呼んでいる。


「あの御方って……俺のことだよな?」


周囲を見る。


やっぱり俺しかいない。


「まあ、俺のことか」


そう納得して、目の前の悪魔を見る。


「君は悪魔と言っていたよな?」


「はい」


「じゃあ……」


俺は少し考えてから口を開いた。


「傲慢のルシファーから取ってルシファーという名前を付けよう」


その瞬間だった。


「――ッ!?」


体の中から、何かが一気に抜けていく感覚がした。


「うおっ!?」


俺の体に存在していた莫大な魔力が、一気に外へ流れ出していく。


そして、その魔力は目の前にいる悪魔――ルシファーへと吸い込まれていった。


「……何だこれ?」


魔力が流れ込むたびに、ルシファーの体から発せられる力がどんどん大きくなっていく。


そして、しばらくすると――。


ルシファーが顔を上げた。


その表情には、先ほどまでにはなかった強い力が宿っている。


「……これが、力……」


ルシファーは自分の手を見つめる。


そして、俺へ向き直った。


「至高のお方に名前をいただき、恐悦至極にございます」


「……そう?」


「そして――」


ルシファーは自分の体を確かめるように拳を握る。


「至高のお方のおかげで、力が漲るようです」


「へぇ」


どうやら名前を付けると、相手に力を与えられるらしい。


俺の魔力が抜けたのも、そのためか。


「ありがとうございます」


ルシファーは深く頭を下げた。


「まあ、喜んでもらえたならいいか」


それにしても――。


名付けをすると、相手に力を与えることができる。


これはかなり重要な発見かもしれない。


俺は頭の中で新たな仮説を立てた。


もしかすると、俺の魔力そのものが、悪魔に何らかの影響を与えているのではないだろうか。


だとすれば、あの魔力の渦からルシファーが生まれたことにも説明がつく。


……まあ、まだ仮説だけど。


「そのうち色々試してみるか」


俺はそう考えた。


⸻


――それから、体感数年後。


俺がいつものように魔法の研究をしていると、ルシファーが突然話しかけてきた。


「至高のお方」


「ん?」


「一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」


「いいけど」


ルシファーは少し不思議そうな顔をしていた。


「至高のお方には、お名前はないのでしょうか?」


「……」


言われてみれば。


「……あ」


俺、自分の名前ないじゃん。


前世では田中貞国だった。


でも、この世界に転生してから一度も名乗っていない。


というか、名乗る相手がいなかった。


ずっと一人だったからな。


「そういや、名前なかったな」


俺がそう言うと、ルシファーは驚いたような顔をした。


「お名前がないのですか?」


「うん」


「……」


なぜかルシファーがものすごく驚いている。


まあ、普通に考えれば、自分より上位の存在に名前がないというのは変なのかもしれない。


それに――。


今はルシファーという、いわば部下……なのかな?


そんな存在もできた。


確かに、名前がないと不便かもしれない。


「じゃあ、俺も名前を考えるか」


⸻


――それから、体感一年後。


「……決めた」


俺は自分の名前を決めた。


これから俺は――


ヴァルゼル


と名乗ることにする。


「今日から俺はヴァルゼルだ」


「ヴァルゼル……」


ルシファーが、その名前を口にする。


「はい。大変素晴らしいお名前かと存じます」


「そう?」


「はい」


「じゃあ、それでいいか」


こうして俺は、ようやく自分自身の名前を手に入れた。


前世の名前とは違う。


この世界で生きるための、新しい名前だ。


ヴァルゼル。


それが、俺の新しい名となった。


⸻


その時の俺は、まだ知らなかった。


この日が――


悪魔帝ヴァルゼル


という存在の始まりになることを。


そして、俺の魔力から生まれた最初の悪魔、


ルシファー


が、後に始まる巨大な悪魔社会の最初の一柱となることを。


……まあ、その時の俺はそんなことなど知る由もなかった。


ただ――。


「仲間が一人増えたな」


そう思っただけだった。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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m(_ _)m


※最初の5日間までは1日3話投稿でいきたいと思います。


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