第1話 転生
俺は25歳、独身の田中貞国という男だった。
……だった。
そう、「だった」と過去形なのには理由がある。
俺は横断歩道を歩いていた。
その途中で、前方から強いライトが近づいてきた。
そこから先の記憶はない。
車に轢かれたのだろうか?
それとも、轢かれるかもしれないという強烈なショックで死んだのだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいいか。
今の俺には、それ以上に気になることがある。
ここはどこだ?
周囲は真っ暗だ。
とはいえ、何も見えないほどの暗闇というわけでもない。
ぼんやりと周囲の存在だけは感じ取れる。
そして、今になって気づいた。
何か温かいものが、体の中を巡っている。
血……ではない気がする。
これは……なんだ?
まあ、とりあえず考えていても前には進まない。
何かやってみるか。
そう思い、体の中を巡る温かいものを、意識して動かしてみることにした。
⸻
――体感一週間後。
やっと、体の中の温かいやつが動いた。
これって、動かせるものだったのか。
体感一週間も粘った甲斐があったな。
……でも、これは一体なんなんだ?
まあ、今考えてもしょうがないか。
次は何をしてみよう。
⸻
――体感一年後。
「あ、手から炎が出た」
……出た。
炎が。
俺の手から。
これって、俺の仮説だが……魔力と言われるものじゃなかろうか。
だとすると、俺の体にある魔力は、自分で感じ取れるだけでもかなりの量がある。
いや、多すぎる気がする。
俺って天才?
……まあ、誰もいないからいいか。
……いや、そんなことはどうでもいい。
今は実験だ。
炎が出せると分かったなら、次は水のイメージでやってみよう。
⸻
――それから体感一週間後。
「あ、またこの反応になった」
どうやら、さっきと同じように魔力が動いている。
そして――
「水が出た」
やっぱり出た。
ということは、要するにイメージと、俺が魔力と仮定しているものがあれば、魔法を使えるということなのか?
それがこの世界の定理だとするなら……。
俺の魔力量って、自分で言うのもなんだけど、多い気がする。
というか、多すぎる気がする。
ってことは、俺ってワンチャン、色んな魔法を使えるんじゃないか?
……試さないわけないよね。
⸻
――あれから体感十年後。
案の定、色んな魔法が使えました。
笑。
……まあ、思った通りだった。
使えるようになった属性をまとめると、
火。
水。
風。
土。
雷。
闇。
闇は……暗黒系の魔法かな?
この流れだと聖魔法もありそうだが、俺はまだ怪我をしたことがないから試せない。
まあ、そのうち試す機会もあるだろう。
とりあえず、色々な属性の魔法が存在することは分かった。
……そういえば、今思ったんだけど。
二属性を同時に使ったら、どうなるんだろう?
まあ、暇だしやってみるか。
⸻
――あれから体感百年後。
やっと、思いつく限りの二属性同時発動の魔法を、全部使えるようになった。
……案外、長かったなぁ。
まあ、せっかくだし、使えるようになった魔法をまとめるか。
えーっと……。
まず、火と風。
これは炎魔法になった。
そして、火と土。
これはマグマ魔法。
あとは……。
魔法としては成立しなかったけど、火と雷を合わせて使ったら、電磁砲みたいなものを撃てそうな気がする。
なぜこうなるのかは分からない。
まあ、使えるならいいか。
水の場合は、水と風で氷魔法。
……まあ、そのくらいか。
火と比べると、あまり派生できないな。
俺が知らないだけかもしれないけど。
そして、土と闇。
これはゴーレム魔法になった。
このゴーレム魔法はあまり使わなさそうだなぁ
……でもなんで闇でゴーレムができるんだ?
まあ、考えても分からないものは分からない。
とりあえず、今のところはこのくらいか。
今考えると、案外少ない。
……なのに、体感では百年かかった。
まあ、いい。
まだ時間はある。
⸻
――俺は、このときまだ知らなかった。
自分がこれから生きることになる世界が、どれほど広大なのかを。
そして、自分の中に眠る魔力が、この世界にどれほど大きな意味を持つのかを。
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