第0話プロローグ
帝都。
その中心にそびえ立つ帝城の前、その広場には数万人もの人々が押し寄せていた。
「皇帝陛下、万歳!!」
「陛下ー!!」
「アビスライヒ万歳!!」
広場は歓声に包まれている。
老若男女を問わず、多くの帝国臣民が帝城を見上げていた。
そして、帝城の前には帝国軍の将兵たちが整然と並んでいる。
その中には、帝国軍の中でも特に名を知られた者たちの姿があった。
「悪魔十二将が勢揃いだって!?」
「それだけじゃないぞ!十二将の中でも別格だとされる、七柱も全員いるらしい!」
「なかなかお目にできないのに、本当かよ……!」
民衆の間から驚きの声が上がる。
その時――
「んー……あー」
壇上に立つ男が、少し気の抜けた声を漏らした。
「皆の者、静かにするように」
その一言で――
「…………」
広場が静まり返った。
先ほどまでの喧騒が嘘のようだった。
誰もが壇上に立つ男へ視線を向ける。
そして、男はゆっくりと口を開いた。
「これより我々、深淵魔帝国――通称、アビスライヒは」
一拍。
「セレニア大陸全土、及びそこに住まう人々に対して、宣戦を布告する!!」
「――!!」
一瞬の静寂。
そして――
「うおおおおおおお!!」
「アビスライヒ万歳!!」
「皇帝陛下万歳!!」
「アビスライヒに栄光あれ!!」
帝都全体を揺らすほどの歓声が巻き起こった。
男は民衆を見渡しながら、さらに言葉を続ける。
「これより我々は戦時体制へ移行する!」
「国家総動員令を発令し、セレニア大陸に存在する国家をすべて滅ぼすまで、この戦争を継続する!」
「そして――」
男は一度言葉を切った。
「ここに、帝国軍の出陣式を執り行う!」
その声とともに、広場の空気が変わった。
先ほどまで歓声を上げていた民衆も、帝国軍の将兵たちも、静かに壇上へと注目する。
「黒騎将、ルシファー大将。前へ!」
「はっ!」
名を呼ばれ、一人の女性が前へ進み出る。
黒を基調とした軍服を身にまとったその姿に、周囲から小さなどよめきが起こった。
「皇帝陛下」
ルシファーは皇帝へ向かって一礼する。
「我が帝国、そして皇帝陛下の栄光のため、全力を尽くすことをここに誓います」
「我々の力がいかなるものであるか、人間種共に理解させてまいりましょう」
「良い知らせを待っている」
「はっ!」
ルシファーが下がる。
続いて皇帝が帝国軍へ向けて告げる。
「我々の栄えある帝国軍は、これよりセレニア大陸への侵攻を開始する!」
「なお、帝都及び帝国本土の防衛については――」
「第二将、魔獣将ゼブブ大将と、各諸侯が保有する私兵を中心とした防衛戦力に任せる!」
「それ以外の将兵は、すべて出陣せよ!」
「「「はっ!!」」」
数え切れないほどの兵士たちから、一斉に返答が響き渡る。
「第三将、血鎧将サタン大将!」
「はっ!」
「海軍戦力及び連合艦隊を率い、セレニア大陸沿岸部の各国を撃滅せよ!」
「この私、サタンにお任せください」
サタンは恭しく頭を下げた。
「皇帝陛下のご期待に、必ずやお応えいたしましょう」
「うむ」
「続いて、第六将、幻惑将アスモ大将!」
「はい」
美しい女性が一歩前へ出る。
「航空戦力及びそれに連なる部隊を指揮せよ」
「上空の制空権を確保し、必要に応じて爆撃を行う。各国の軍事力を徹底的に撃滅するのだ」
「私でよろしければ、お任せください」
「うむ」
そして皇帝は、帝国軍全体へ視線を向ける。
「そして、残る陸軍及び、それに連なる従軍者は輸送船団によってセレニア大陸へ送り込む!」
「総動員兵力、約一千万人!」
「この戦力をもって、セレニア大陸への侵攻を開始する!!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
帝国軍の将兵たちが一斉に拳を掲げる。
それに呼応するように、広場を埋め尽くした民衆も声を上げた。
「アビスライヒに栄光あれ!!」
「「アビスライヒに栄光あれ!!」」
「皇帝陛下万歳!!」
「「皇帝陛下万歳!!」」
その日。
深淵魔帝国――アビスライヒは、セレニア大陸全土に対して宣戦を布告した。
陸では帝国陸軍が。
海では帝国海軍が。
空では帝国空軍が。
そして大地では、数え切れないほどの帝国軍が動き始める。
約一千万人。
これほどの兵力が一つの目的のために動き出すことになる。
――セレニア大陸の征服。
これは、俺がセレニア大陸全土を巻き込む戦争を起こす物語である。
悪魔として生まれたばかりの当時の俺は――
まさか自分が、こんな未来を迎えることになるとは思いもしなかった。
ましてや。
この戦争に至るまでに、何万年もの時間を生きることになるなど――
あの頃の俺は、知る由もなかった。
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