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第18章:影の街、ムンケン

濃霧の中に黒石の塔がそびえ立ち、魔法を帯びたステンドグラスが旅人の歩みに合わせて柔らかな光を放っていた。

魔術と、城壁に刻まれた古のルーンに包まれた街、ムンケン。そこには薪の燃える匂い、焼きたてのパンの香り……そして微かな錬金術の匂いが漂っていた。冬の露に濡れた石畳の通りを、輝くたてがみと知性ある瞳を持つ獣たちが引く馬車が行き交う。魔法を付与された木材とルーン鋼で作られた監視ゴーレムたちが、音もなく巡回し、通り過ぎる異邦人たちに「生きた彫像」がゆっくりと瞬きをして挨拶を送っていた。

中央広場には、時の流れだけでなく、この地域の魔力の変動をも刻む「星辰時計アストラル・クロック」が鎮座し、一行の到着を前に息を潜めているかのようだった。不釣り合いに大きな帽子を被った魔術師たちがマントを翻して足早に通り過ぎ、商人たちは浮遊するグリモワールから色付きガラス瓶に入ったバジリスクの血まで、あらゆるものを売りさばいている。

青い炎を吐くランタンに照らされた二階建ての宿屋の前で、四人は足を止めた。

クレアは体にフィットしたマントの下で腕を組み、疲れた溜息をついた。

「この街はここ三つの村よりマシな匂いがするけど……またジジイに『罪作りな小悪魔チャーミング・シナー』なんて呼ばれたら、瞼が痙攣しそうだわ」

ケンは旅路の埃を被ったコートのまま、不思議そうに首を傾げた。

「バタークッキー、あるかな? 前の場所じゃ、勝手に反撃してくるパンしか売ってなかったからさ……」

アリスは濃紺の旅用コートに身を包み、星辰時計の塔を見上げた。その青い瞳は、頂上で浮遊するサファイアに固定されている。

「気を抜かないで……。この場所は平穏に見えるけれど、ムンケンはその『中立性』で有名なの。つまり、誰であろうと金さえあれば受け入れる……それが私たちの敵であってもね」

「敵……か。アリス、もう指揮官みたいな口ぶりだな」

大悪魔は、真紅の瞳で塔を見据えながら言った。

「その張り詰めた空気は、自分のマナを暴走させて探知される原因にしかならない。そういう言葉遣いは避けるんだ」

彼は人差し指で、塔の方向を軽く指し示した。

「それから……彼ら(インキュバスとサキュバス)とは別に、もう一体、超自然的な存在がいる」

視線は塔から離さない。

「私と同じような……闇の存在だ。大気中に微かだが、闇のエネルギーの痕跡がある……」

アリスはゆっくりと塔から視線を外し、マルクスの方へと顔を向けた。わずかに眉をひそめ、抑え込んだ緊張を滲ませる。

「『敵』って言ってごめんなさい……そうね、気をつけるわ。空気が重くなるような言葉は控える。でも、貴方のような存在が他にもいるなら……尚更、完全に気を抜くわけにはいかないわね」

旅の埃を払っていたクレアが、片眉を上げて皮肉めいた薄ら笑いを浮かべた。視線は市場の屋根の上で微かに震える空気を追っている。

「最高ね……また悪魔? あいにく、『殺しのドレス』は持ってきてないんだけど」

ケンは興味深そうに、しかし恐怖と興奮が入り混じった緑色の目で首を傾げた。

「お喋りしたい奴かな……それとも、僕らの内臓を引きずり出したい奴?」

アリスは振り返らず、宿屋に向かって歩き出しながら、乾いた声で呟いた。

「前者であることを祈るわ……。でもこの世界じゃ、後者である確率の方が高いのよね」

「先に行ってくれ……。少し、野暮用がある」

大悪魔の唇から、わずかに覗く牙が光った。瞬き一つしない瞳。

「リラックスしててくれ。私は少し……飢えを鎮めてくるだけだ。長居はしない」

マルクスは首を左右に鳴らした。

クレアは苛立ちを隠さずに舌打ちし、横目で大悪魔を睨みながら腕を組んだ。

「夕食があんまり悲鳴を上げないようにしてよ……。ムンケンの街中に、アンタみたいな化け物が放たれてるなんて知られたくないからね」

ケンはどこか気まずそうに、しかし理解を示して頷いた。少し伏し目がちに、声を潜めて言う。

「気をつけてね、マルクス……。たとえ害を与えなくても、君が『何であるか』を理解してくれる人ばかりじゃないから」

アリスは数歩先で立ち止まった。完全には振り返らず、その声は乾いた囁きだったが、普段は見せない親密さを帯びていた。

「遅くならないで……。貴方がどこにいるのか分からないのは、嫌だから」

それ以上の言葉はなく、三人は宿屋へと向かった。マルクスの姿は、ムンケンの路地に伸びる影の中へと溶けるように消えていった。

ムンケンの夕暮れは、石の屋根の上に渦巻く重い雲によって濾過され、黄金色の光となって降り注いでいた。市場の喧騒はまだ通りを満たしていたが、一日の労働を終えた気怠さが漂っている。野菜やパン、干し肉の屋台の間で、十四歳にもならない少年が、食料で溢れそうな布袋を両手で抱えていた。肘に継ぎ当てのある粗末な服、薄汚れた顔。だがその瞳には決意があった。

親指で硬貨を数えていた彼は、背後から忍び寄る影に気づかなかった。

「おい、小僧……。そいつを何処で手に入れた?」

しゃがれた声が、明らかに悪意を持って粘りつくように響いた。

少年が振り返ろうとした瞬間、擦り切れたマントを羽織った大男が彼をパンの屋台へと突き飛ばした。数個のパンが地面に転がる。

「商人の息子ってツラじゃないな」

見知らぬ男は、欠けた歯を見せて笑った。笑っていない目。荒れた皮膚のゴツゴツした手が、少年の布袋へと伸びる。

少年は即座に後ずさり、袋を胸に抱きしめた。

「放っといてくれ! これは家族のためなんだ!」

震える声だったが、芯は強かった。

何人かの通行人が不快そうに横目で見たが、誰も足を止めない。ムンケンでは、すべての叫びが助けを求める声とは限らない。風景の一部に過ぎないのだ。

悪漢は布袋から手を離さず、危険な光を目に宿して身を乗り出した。

「お前の家族なんざ、腹を空かせてればいい。俺の方がこいつを必要としてるんだよ……分かったか?」

その時だった。

何か――あるいは誰か――が市場の片隅で動いた。まだ顔を持たぬ気配が、争いが激化するよりも早く、その場の緊張を感知していた。

男はマントを掴まれ、まるで玩具のように、何の抵抗もなく宙へと持ち上げられた。

「面白い。思ったより簡単に見つかったな……」

唇から小さく、不吉な笑い声が漏れる。霧の切れ間から差し込むわずかな光の中で、真紅の瞳が輝いた。

「少年、買ったものを拾いなさい。そして今すぐ持って帰るんだ。家族が君の帰りを待ちわびているだろう……」

泥棒は本能的に暴れたが、その足は古い人形のようにぶら下がっていた。振り返り、呪い、唾を吐きかけてやろうとしたが、自分を吊り上げているその「顔」を見た瞬間、喉が痙攣して閉じた。

直面している恐怖のせいではない……もっと根源的な、動物的な確信だった。

目の前にいるのは、人間ではない。

少年は震えながら落ちた袋を拾い上げ、見開いた目でその光景を見つめていた。自分を助けてくれたのが何者なのかは分からない。だが、その存在には、救いであると同時に、彼を金縛りにする何かが潜んでいた。

「は、はい……」

消え入りそうな声で呟き、少年の視線はその影の輪郭から離せないまま、後ずさった。

つい数秒前まで争いを無視していた市場が、奇妙な静寂に包まれた。何人かが、その長身の影に気づく。光を吸い込むようなコート、燃え盛る炭火のような赤い目。

誰も言葉を発しなかったが、誰もが後退った。


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