第17章:探索の始まり
ペイジは一瞬目を閉じた。その長い睫毛がわずかに震える。
常に彼女を包み込んでいた「傲慢」の殻に、微かな亀裂が入った。それは、その場にいるのがヴェックスでなければ、即座に消し炭にされていたであろう無防備な姿だった。
「ジャンヌ……」
彼女は崇敬と、それ以上の苦々しさを込めて囁いた。
「あの女は、ただ私を戦闘で負かしただけじゃない……私を気絶させたのよ、あの忌々しい女は」
再び目を開く。ネオン色の瞳が、迷うように明滅した。
「もしその娘が、あの狡猾さを受け継いでいて……今、メフィストと共に歩んでいるのだとしたら……」
彼女はゆっくりと振り返る。黒いスカートの裾が、液体の影のように磨かれた床を擦った。
「私たちを破滅させるだけでは済まない……」声は低く、重い確信を帯びていた。「地獄、天界、すべての均衡を変えてしまうかもしれない」
彼女はゆっくりとした足取りでヴェックスへと歩み寄った。ヒールの音が柱の間を反響する。
「サタン様が気づく前に、彼らを見つけ出さなければならない。もし先に知られてしまえば……贖罪も停戦もあり得ない。あるのは殲滅だけよ」
シュトルツの目の前で、彼女は足を止めた。
「どういうことか、貴女も分かっているでしょう?」
その瞳が燃え上がる。
「――全面戦争よ」
「同意するわ。問題は貴女の父親ではなく……サタン卿よ。あの方は未だに、ハンゼアテンでメフィストに敗北した屈辱を根に持っている……。間違いなく正面戦争を望み、不必要な混沌を引き起こすでしょうね。
もし、その小娘が既に兄と共にいるなら……探知するのは極めて困難よ。メフィストのことだもの、気配遮断の術式を既に教えているはず。あの人がやりそうなことだわ」
ペイジはゆっくりと頷いた。地獄の王の名が出た瞬間、その表情が硬化する。
「サタン……」
吐き捨てるように、その名を繰り返した。
「あの男はいつだって衝動的な野蛮人よ。ハンゼアテンの屈辱以外、何も見えていない」
彼女は眼下に広がる作戦テーブルへと向き直った。人間界の地図、ルートが記された羊皮紙、象徴と注釈の数々。高い窓から正午の光が差し込み、タペストリーと悪魔の軍旗に鮮明な影を落としている。
「メフィストが魔力を隠す術を教えたのなら……」彼女は手袋をはめた指でテーブルの縁を強く握りしめた。「魔術による追跡は不可能ね。彼らが行動する際に残す、微細な痕跡を追うしかない……均衡の乱れ、予期せぬ動き」
ネオンピンクの瞳が、躊躇いなくヴェックスの深紅の瞳を射抜いた。
「貴女の兄はミスをしない。もし彼が姿を現すとしたら、それは私たちに見つかることを望んでいるからよ」
彼女は窓辺に歩み寄り、微風に揺れる重厚なカーテンの横からアイントラハトの城塞を見下ろした。賑わう広場、中庭で訓練する兵士たち、階段で書物を広げる魔術師たち……。世界が新たな戦争の瀬戸際にあることなど知らぬかのように、すべてが穏やかな正午の黄金の光に包まれている。
「サタンにはそれが理解できない。傷ついたプライドのためだけに、必要とあれば村を、町ごと焼き払うでしょう……」
声が囁きへと変わる。
「でも、そうなれば、マルクスは止めようとする。またしても」
彼女はゆっくりとヴェックスの方へ振り返った。その表情には、もはや傲慢さも高慢さもなかった。それはリスクをあまりにも深く理解している、計算された眼差しだった。
「貴女だけが、私たちのために彼を見つけられる……。この街と、私たちがここで維持している均衡が崩れ去る前に」
ヴェックスは二度、首を横に振り、地獄の指揮官を見返した。
「それはお断りさせてもらうわ……。前回、一人で行った時……メフィストは私に『問い』を突きつけた。今の私には、それを受け止める余裕はないの。地獄で最も頑固な女である貴女でさえ、影響を受けているのだから」
彼女は長い溜息をつき、踵を返して作戦室の扉へと歩き出した。
「素朴な疑問なのだけれど……。貴女は以前、兄が脱走した後でさえ関係を持っていたわよね。でも、彼は長い間不在だった……。リビドーの処理はどうしていたの? 詳細はどうでもいいけれど、ただ知りたいのは、メフィストとの感情的な繋がりがまだあるのかどうかよ。今でも、お互いを探知できるの?」
ペイジは沈黙した。背筋を伸ばし、手をテーブルにつき、拳に力を込める。ヴェックスの問いは、正確に放たれた毒矢だった。
振り返ることなく、彼女は一瞬目を閉じた。
「その繋がりは……」
ようやく漏れた声は、聞き取れないほど微かだった。
「……消えたりはしない。どれだけの時が経とうとも」
彼女はゆっくりと体を起こし、踵を軸に振り返った。顔立ちは完璧だったが、その瞳は……決して他人には見せないはずの疲労を滲ませていた。
「それに、いいえ。代わりなど探していないし、これからも探さない」
ネオンピンクの眼差しがわずかに和らぎ、苦渋と諦念の色を帯びる。
「彼は裏切り者で……彼がしたこと、私たちに強いたことのすべてを憎んでいるけれど……それでも、彼がそこにいると感じずにはいられないの」
唇が、虚ろな笑みを形作った。
「毎晩、目を閉じるたびに……消えることのない影のように、彼の気配を感じるわ」
再びテーブルへと歩み寄り、地図の上にそっと手を置く。今度は、その瞳に硬く、揺るぎない挑戦的な光が宿っていた。
「だから、そうよ。もし彼が現れれば……私には分かる。また彼の答えを待つことになるでしょうね、いつだって別の道はあったのだから」
声が凍てつくような囁きへと落ちる。
「そして、もしその答えが気に入らなければ、今度こそ私が短剣を突き立てる」
「完璧ね。絆はまだ健在ということ……。また後で、ペイジ」
ヴェックスは扉の敷居で立ち止まった。
「答えたくなければ答えなくていいのだけれど、単なる好奇心よ。ケインはまだしつこく貴女を求めているのでしょう? だとしたら……彼になんと言ったの?」
今度は、ペイジは振り返らなかった。静かに息を吐く。その背中の緊張は、難攻不落の城壁のようだった。
「ケインは……」
馴染みの毒の名を呼ぶように、彼女は言った。
「しつこい男よ。相変わらずね」
指先がテーブルの縁を軽く叩く。
「でも、いいえ」
返答は乾いており、決定的だった。
「何も許してはいないわ」
一拍置いて、苦々しい皮肉を込めて付け加えた。
「自分の居場所でもない席に座ろうとするだけの男を、どうして受け入れられるというの?」
そして彼女は顔を上げ、ネオンピンクの視線を窓の外へと向けた。
「力に興奮する悪魔もいれば、野心に溺れる者もいる。でも私は……『確信』にしか惹かれない」
言葉を切る。
「ケインは確信じゃない。あれはただの不快感、ただのノイズよ。私の頭の中は、もう十分ノイズで溢れているわ」
処刑人は、既に廊下へと一歩踏み出していた。
「確信なんて、殆ど存在しないわ……。でも、もし決められるとしたら……貴女にとっての『確信』とは誰?」
ペイジは一瞬目を閉じた。その問いは、彼女がこれまで立ててきたどんな戦略よりも重くのしかかるようだった。唇がわずかに開くが、言葉はすぐには出てこない。
室内の沈黙が密度を増す。
やがて、彼女の声は低く、戸口にいるシュトルツ家の女だけが聞き取れるほどの囁きとなって響いた。
「確信とは……私が監視する必要のない相手のことよ」
ゆっくりと目を開く。正午の光が、冷徹で計算高いネオンの瞳を照らした。
「私を恐れず……しかし、盲目的に従うこともない」
深く息を吸う。
「もし私を滅ぼそうと決めたなら、決して失敗しない男……けれど、そうしないことを選ぶ男」
言葉の残響が空気に漂う。そして、聞かれてはならない告白のように、そっと付け加えた。
「確信とは……彼のことよ」




