第16章:マルクスとレナ
シュトルツ家の女は、歯の隙間から小さく不吉な笑い声を漏らし、その深紅の瞳を再び輝かせた。
「貴女がそれを望んだからでしょう……。そう語る貴女自身も、かつてメフィストが我々四人に手紙を残した時、私の兄たちや私自身と同じように葛藤した哀れな女に見えるわ。……彼の兄弟たち、そしてシュトルツ家以外の誰かに宛てられた、たった一通の手紙」
皮肉な笑みが再び広がった。
「そう、貴女よ……。別の手紙を受け取った唯一の存在。でも、自分自身に嘘をつくことを選んだ記憶喪失者のような貴女のために……数世紀前、あの手紙に書かれていた内容を一言一句、暗唱してあげましょうか」
悪魔の女は息を吸い込み、肺を空気で満たした。そして、六世紀以上も前、裏切りが決定づけられたあの遠い記憶の中で語られた言葉を、シュトルツ家と「強欲」の長女が今も背負い続けている言葉を、詠唱するように紡ぎ出した。
「『この槍を止めることはできない。私は鎖に繋がれた遊戯者。私の次の一手は何だ? 足掻けば足掻くほど、未来は変貌していく。
一時代の栄華は、必然的に消え去る運命にある……そして、新時代が幕を開ける。
決定的な瞬間が近づくとき、それは自ずと光を放つだろう。それこそが生命の美しさではないか?
私はもはや駒ではない。この盤上から降りる。失敗は破滅を意味する。私の忍耐は尽きた。今の私は、すべてを超越している。だが、人々で溢れるこの舞台の上で、私はまだゲームを続け、役割を演じ、操られたふりをしよう。そしてあの日、私は切り札を隠し持ったまま、この場から姿を消すことを選ぶだろう……!』」
彼女の深紅の視線が、モーニングスターのネオンのような瞳に固定された。
「そのわずか数分後、彼は自ら手引きした天使たちと共に、この城塞のポータルを封印した。一度目はアンジェロと共に、二度目はジャンヌと共に。そして貴女は、それを許した……」
ペイジは顎に力が入りすぎ、歯の間から微かな軋み音が漏れた。ヴェックスの言葉はハンマーのように彼女の精神を打ち据え、「誇り」の最深部に埋めていた記憶を無理やり掘り起こしていく。
手紙……あのアイントラハトの忌まわしい手紙。
一度しか読まなかった。だが、その一行一行は魂に刺青のように刻み込まれていた。
メフィストが兄弟ではなく、彼女に残した唯一の書き置き。
彼女だけに。
完璧で、優雅で、冷徹でありながら……抑え込まれた悲哀に満ちたその筆跡を思い出し、ペイジの腕が粟立った。
ペイジの指が地図の上で一瞬震えた。それはほんのわずかな脆弱さの露呈だった。だが次の瞬間、彼女はその地図を拳の中で握り潰した。
顔を上げると、ネオン色の瞳がクリスタルの刃のように鋭く閃いた。
「馬鹿げているわ、ヴェックス」
声は低く嗄れ、毒と傷ついた誇りを帯びていた。
「手紙に何が書かれていたかは知っている。なぜ彼がそれを私に残したのかも……。貴女に蒸し返される必要はない」
彼女は背筋を伸ばした。そのオーラが部屋中に膨張し、あまりに濃密な悪魔の重圧に、松明の炎が明滅する。
「その手紙に、他に何が書かれていたか知っている?
――貴女が持っていない一文よ。私の手紙の最後にしか書かれていなかったから」
彼女の唇が、苦々しく歪んだ。
「『……ただのマルクスとレナでいたかった』」
ペイジの瞳が燃えていた。涙ではなく、抑圧された激情で。
「彼は逃げた。切り札を切ったのよ。全員を裏切り……そして私も裏切った」
彼女はヴェックスの方へ一歩踏み出した。
「だから、彼の出発を思い出させに来ないで、シュトルツ。
彼を失ったすべての者たちの中で……」
彼女の声は、相手を切り裂くような囁きへと落ちた。
「……彼を憎むことができなかったのは、私だけなのだから」
「仰せの通りに……ペイジ。ところで……」
ヴェックスの深紅の瞳が地平線へと向けられた。正午の光が強さを増している。
「明らかに私の兄は封印されていた。だというのに彼が動いているということは、誰か強力な者が封印を解いたことを示している……。問題は、誰がやったかということよ」
彼女の表情は冷厳なまま、その視線を人間界における地獄の指揮官へと戻した。
「まさか、貴女が八〇年前に封印したあの小娘じゃないでしょうね? ジャンヌの娘……アリスとか言ったかしら」
ペイジは凍りついた。一瞬、呼吸が止まる。
その名前は雷鳴のような衝撃で彼女の思考を打った。
――アリス。
部屋の空気が粘度を増したようだった。切り裂くような沈黙を破るのは、外を巡回する衛兵の遠い足音だけ。
ペイジのネオンの視線がゆっくりと下がり、ヴェックスの瞳に重なった。その表情は数十年ぶりに、絶対的な支配の色を失い、疑念と……さらに暗い何か、恐怖を帯びていた。
「まさか……」最初はただの呼気のような呟きだった。
次いで、より強く。「あり得ないわ」
だが彼女の頭の中で、すべてのピースが嵌まり始めていた。
魂の忽然とした消失。
地獄への忠誠を持たない魔力の痕跡。
数週間前のマルセイユに残っていた残留エネルギー……あまりにも古く、あまりにも……懐かしい気配。
ペイジは拳を握りしめ、革手袋が圧力で軋んだ。
「アリス……」
低い声でその名を繰り返す。まるで血管を逆流する毒を味わうかのように。
顔を上げ、ヴェックスを睨みつけた。
「もし彼女なら……もし本当に彼女が彼を解放したのだとしたら……」
一瞬声が震えたが、すぐに鉄のような響きを取り戻した。
「……事態は、貴女や私だけで抑え込める範疇を超えているわ」
彼女は踵を返し、巨大な窓へと歩み寄ると、魔族の城塞とその向こうに広がる地平線を見つめた。
「もしマルクスが、ジャンヌの娘を連れて再び自由に歩き回っているのなら……」
声が低く、研ぎ澄まされた鋼の囁きとなった。
「状況は、制御不能になったということよ」
「母親であるジャンヌが、貴女に勝つことができた唯一の人間だというのなら……」
ヴェックスの視線もまた、作戦室の巨大な窓越しに地平線を捉えた。
「その娘は、貴女や私よりもさらに強い存在を倒す可能性を秘めているかもしれないわね。単純な理屈よ」




