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歪みの源

村の構造を、算盤で読み始めた。


最初は大木の残骸からだった。根がどこまで伸びていたか。地面の下で何本に枝分かれしていたか。振動がどの方向へ流れていたか。数値を追っていくと、根の先が家々の床下を通っていることが分かった。


そこから広げた。


村全体の熱量の流れ。腕輪の明るさの分布。誰がどこで何を使っているか。カチ、カチ、カチ。珠を弾くたびに輪郭が出てくる。帝都から流入してくる振動が、村の骨格に沿って広がっていた。問題はそこではなかった。流入は断ち切られている。大木が爆破された時点で、もう来ていない。


なのに歪みが残っている。


キコは珠を止めた。


流入が止まった後も、村の中に歪みが固定されている。外から来たものが止まっても、内側に根を張ってしまったものは残る。それを残しているのは——


数値を追った。追って、追って、一点に行き着いた。




「ジグ」


夕方、キコは外にいたジグを呼んだ。二人で小屋の裏へ回った。誰もいなかった。


「村長が一番の歪みだ」


ジグが少し黙った。


「そうか」


それだけだった。


聞き返さなかった。どういう意味かも聞かなかった。算盤を見せろとも言わなかった。ただ「そうか」と言って、川の方を見た。


キコも川を見た。


二人とも、それ以上何も言わなかった。言わなくても、分かっていた。村長は悪意があるわけではない。ただ止まっている。止まったまま昔のやり方を繰り返している。その停滞が、外から来た歪みを村の中に定着させた。誰かを責めても何も変わらない。でも、そこにあると分かっている以上、見ていないふりもできない。


風が来て、川面が揺れた。


ジグが「飯、まだか」と言った。


「まだだと思う」


「そうか」


二人で小屋の方へ戻った。




夜になって、ジグとボッグとイノが食料調達から帰ってきた。


三人とも、何かあった顔をしていた。


イノが妙に静かだった。ボッグはいつも無口だが、今夜は種類が違う無口だった。ジグが荷物を下ろす時、一瞬だけキコと目が合って、外した。


「どこから」とキコが言った。


「ない」「ない」「ない」


三人同時だった。


タイミングが揃いすぎていた。


ルルがキコを見た。キコはルルを見た。それから算盤を見た。


誰も追わなかった。


ジグが「飯にしよう」と言った。ボッグが鍋を出した。イノが火を起こし始めた。さっきまでと同じ動きで、何事もなかったように。


完全に閉じていた。


キコは算盤を膝に置いたまま、その三人を見ていた。数値を出す気にはなれなかった。出しても、たぶん何も分からない。


鍋が温まってきた。イノが「腹減った」と言った。ボッグが無言でイノの頭を一度だけ叩いた。ジグが「うるさい」と言いながら口の端が上がった。


それだけだった。


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