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川と六人

三日で、全部なくなった。


拠点は燃えた。対抗組織の座標は算盤の中にある。黒服はまだ追っている。次にどこへ行くか、決まっていなかった。


ジグが「古道具屋の主人に話を聞いてくる」と言ったのは、そういう夜だった。


戻ってきたのは明け方で、外套に夜気をまとったまま、短く言った。


「川を下れ。農村に出る。そこに繋ぎがある」


「根拠は」とキコが言った。


「主人が言った」


「主人の根拠は」


「聞かなかった」


キコは算盤を開いた。珠を三回弾いた。数値が合わなかった。理由は三つあると言っていたが、キコが納得できたのは一つだけだった。


それでもルルが立ち上がったので、キコも立った。




川は夜でも速かった。


「乗れ」とジグが舟を引いてきた。どこから持ってきたか聞かなかった。


「これで下るのか」とキコが言った。


「サメより早いぜ」とジグが言った。


「サメはいない」


「じゃあ何より早いか知らないけど、とにかく早い」


ルルがすでに乗り込んでいた。「揺れる」と言った。嬉しそうな声だった。


キコは算盤を胸に抱いて乗り込んだ。岸が、すぐ遠くなった。


ジグが木の舟を一艘持ってきた。どこから、とは聞かなかった。三人で乗り込んだ。流れに乗った瞬間、岸が遠くなった。


算盤を開こうとした。


舟底が岩を叩いた。珠が戻った。体勢を立て直す前に次の波が来る。水飛沫が顔に当たる。弾いた珠が、また元の位置に戻る。


役に立たない。


計算できない場所にいる、という感覚が、水飛沫より冷たく体に張りついた。帝都の禁書庫でも、廃屋の拠点でも、橋の下でも、算盤は動いた。壊れていても動いた。なのに今は、数値を出す前に世界が動く。


「右!」


ジグの声がした。体が動いた。舟が岩の横を抜けた。計算していない。声に従っただけだ。


川が白くなっている場所では、音が消えた。世界が水だけになった。算盤を握る手だけが、まだそこにあった。


舟の底が、砂を引っかいた。


止まった瞬間、ジグが動いた。


着地音もなく岸に降り、キコとルルの前に体を滑り込ませた。外套の内側に手が入っている。抜いていない。抜けば次が来ると分かっているから、抜かない。


三つの影が、岸に立っていた。


狼と、熊と、もう一つ。夜目でも分かるくらい、大きかった。ジグは真ん中の狼を、鋭く見ていた。動かなかった。キコが判断するまで、動かないつもりらしかった。


キコは算盤を開いた。


数値が、出なかった。


見知らぬ三人。夜の川岸。追われたまま、ここにいる理由も分からないまま来た。信用していいのか、計算の根拠がない。算盤は動く。でも弾くべき数値が、まだどこにもない。


ルルが、小さく言った。


「この人たち、ぜんぶ置いてきた顔してる」


説明ではなかった。答えでもなかった。ただ、言った。


キコは算盤から顔を上げた。狼を見た。


迷いのない目をしていた。でもその奥に、何か別のものがある。ルルが嗅ぎ取ったものが、確かにそこにあった。


数値は出ない。


でも——ジグが抜かなかった。ルルがそう言った。この二つが今夜の根拠だ。算盤の珠ではなく、隣にいる二人の観測が、数値の代わりに並んだ。


キコは舟を降りた。


狼が、一歩踏み出した。


「こっちだ」


ガルが言った。


誰なのか、分からない。なぜここにいたのか、分からない。信用していいのかも、まだ分からない。


それでもキコは歩いた。算盤を胸に抱いたまま、草を踏んで、その後に続いた。


六人が、夜の中を走り出した。



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