親善試合—先生VS生徒
学園中庭の特設演習場。冬空の下、観覧席には生徒たちが集まっていた。
今日は「親善試合」と称し、教師陣と生徒が模擬戦を行う特別授業だ。
「はぁ~……胃が痛い。先生相手とか勝てる気がしねぇ」
ジークが大剣を肩に担ぎながら嘆く。
隣でダリオは腕をぶんぶん回し、やる気満々。
「おいおい、燃えてきたな!ここで一発、騎士団仕込みの腕を見せつけるぜ!」
◆ 騎士教官ガロウ VS ジーク&ダリオ
審判役のカミルが静かに合図を送る。
ガロウは巨大な剣を片手で振り回し、生徒たちの攻撃を軽々と受け止める。
ジークが正面から突っ込み、ダリオが横からタックル――だが、一呼吸でかわされ逆に吹き飛ばされる。
「ぐっ……!やっぱ、先生は化け物だな!」
「まだだ、ジーク!連携だ!」
二人は必死に連携を組み、観客席から「がんばれー!」と声援が飛ぶ。
最終的に、力押しは通じなかったが「根性と工夫を見せた」として大拍手。
◆ 魔導学教授イザーク VS アルト
続いて名が呼ばれたのはアルト。
「ほう、第二王子殿下直々にご登場か。これは光栄ですな」
イザークが皮肉を滲ませ、杖を構える。
アルトは真剣な面持ちで剣を抜く。
開始直後、次々と飛んでくる魔弾をギリギリで防ぎながら、隙を狙って突進。
その姿に、観覧席の仲間たちが息を呑む。
「殿下、ただの操り人形かと思ったが……なかなか」
イザークの冷笑に、アルトは睨み返す。
「俺は……誰かの傀儡じゃない。自分の剣で、仲間を守る!」
会場が一瞬静まり返る。
剣が魔法障壁を切り裂いた瞬間、歓声が爆発。
試合は引き分けとされたが、アルトの言葉は観客の心に強く残った。
「さーて、次は私も出番かしらね?」
イレーネがウインクを飛ばしながら舞台に上がると、生徒席がざわつく。
「えっ先生まで!?」
「やべー、絶対何か仕掛けてくる!」
彼女は軽やかに杖を振り――氷の花弁が舞う……と見せかけて、ふわりと香水のような甘い香りを広げた。
「魔力ってね、感情で揺らぐものなの。だから――こういう場面、嫌いじゃないでしょ?」
男子生徒の何人かが顔を真っ赤にし、女子生徒も「ちょ、先生!?」と混乱。
結局、特別演習は大爆笑のうちに幕を閉じた。
その日の夜、仲間たちは食堂で笑いながら振り返った。
「俺たち、まだまだだな」ジークが苦笑すれば、
「でも、アルトの言葉は……本物でした」リュシアが静かに頷く。
アマネはにっこり笑って言った。
「みんなで守り合えるなら、それが一番強いんだと思う」
笑顔に包まれた食卓。
だが、遠くでは静かに新年の影が迫りつつあった――。
視線が本に落ち、目が細まる。
「……なるほど。“依代”に辿り着いたか」
緊張が走る。
エジルはゆっくりと椅子に腰を下ろし、言葉を選ぶように口を開いた。
「その言葉は、建国の頃から影のように残っている。
だが、どう救うかまでは記されていない。……私も、正解を持っているわけではないのだ」
「じゃあ……」アルトが唇を噛む。
「だが、無駄ではない」
エジルの眼差しは鋭くも優しい。
「“意志が残っているなら、呼び戻せるかもしれない”。そう書き残した学者もいた。
希望は、確かにある」
◇
沈黙が落ちた後、アマネがそっと呟いた。
「なら……諦めなくていいんだね」
リュシアが頷く。
「縛られても、意志が消えない限り――救える可能性は残っている」
「けどよ、それをどうやって呼び戻すかだ」ジークが腕を組む。
「剣で叩き割るわけにもいかねぇしな」
「魔法だけでも足りない」カイルが補う。
そこで、アルトが強く拳を握った。
「……だから、俺たちで探すんだ。勇者とか聖女とかじゃなく、みんなの力で」
橙色の光が差す図書室。
その中で芽生えたのは、小さくとも確かな希望だった。
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