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陰謀の囁き—セドリックの密告

石造りの回廊に、冷たい風が吹き抜ける。

セドリック・ノアは帳簿を抱えながら、人気のない廊下を急いでいた。

(……また庶民どもが目立ちすぎている)

その心には苛立ちと焦りが同居していた。

自分は平民出身。宰相の庇護を受けて、ようやくここまで登ってきた。

だからこそ、同じ庶民が評価されるのは我慢ならなかった。

「……俺がここにいるのは、宰相閣下の恩恵あってこそ。忘れるわけにはいかない」


事務棟奥の小部屋。

灯火の下、待っていたのは黒衣の使者だった。

「報告は?」

セドリックは緊張を隠しつつ、帳簿を机に置いた。

「……庶民どもが“奏の会”なるものを結成しました。王妃派のクラリス嬢を中心に……勇者候補たちと結びつきを強めています」

使者の目が細く光る。

「なるほど。確かに厄介な芽だ」

セドリックは続けた。

「しかも、その輪の中には平民主席のトーマ・ベルネッティまで。……このままでは“平民寄りの思想”が学園全体に広がりかねません」

「ふむ……」

使者は帳簿をめくり、淡々と呟いた。

「一方で、ライ……いや、ラインハルト様は急速に力を伸ばしている。彼を“英雄”として押し上げれば、他の声はかき消せるだろう」

セドリックは小さく頷く。

「彼の伸びは確かに異常です。ですが、私が庇護するなら……学園の評価も自然と傾くでしょう」

「よかろう。宰相閣下にも伝えておく。――忘れるな、ノア。お前の立場は我らがあってのものだ」


部屋を出たセドリックは、冷たい夜風に肩を震わせた。

(……庶民が、仲間が、笑い合っている? そんなもの、夢物語だ。上に立つ者こそ正義……!)

だが、彼の胸の奥底に――わずかなざらつきが残っていた。

授業中に見たアマネの真剣な瞳。

庶民も貴族も関係なく支え合う仲間たちの姿。

(……くだらん。俺には関係ない)

そう呟き、闇に紛れて歩み去った。

しかし、その密告は確実に波紋を広げ――

やがて「ラインハルト」という影を、学園に大きく押し上げる布石となっていく。


お読みいただきありがとうございます。

いけるところまで連続投稿! 準備でき次第どんどん載せます(更新は不定期ですが毎日目標)。

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