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スポットライトの向こう側  作者: キ"ャノレノレ


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3/5

最悪の初対面


オーディションから3日後。名古屋駅近くにあるスターライトエンターテインメント本社。野坂通は会議室で腕時計を見ていた。




12:50。約束の13時まであと10分。机の上には契約書類。レッスンスケジュール。そして2枚の履歴書。天城陽斗。桐生奏真。53人の中から選んだ2人の履歴書。




通は椅子にもたれながら小さく息を吐く。とても緊張していた。新しくはじめることは、誰だって緊張するものだ。未来への期待はある。だが不安の方が大きかった。




オーディションの日、2人の目は確かに輝いていた。だが本当の勝負はここからだ。才能があっても続かない人はいる。夢があっても途中で折れてしまう人もいる。こればかりはやってみないと分からない。だからこそ、今日が始まりなのだ。




ふと履歴書を見る。




陽斗の志望動機。『有名になりたい』

奏真の志望動機。『弟の夢を叶えたい』




正反対だ。改めてそう思う。そんな2人が同じ方向を向いて歩けるのだろうか。考えれば考えるほど自信がなくなる。本当に大丈夫だろうか…。




そんな不安が胸をよぎった時だった。コンコンと扉がノックされた。「失礼します」と静かな声と共に入ってきたのは桐生奏真だった。黒髪。色白の肌。長い手足。オーディションの時と同じように背筋が伸びている。




「こんにちは」と丁寧に頭を下げる。

「こんにちは」と通も立ち上がった。





「早かったね」

「遅れるのが嫌なので」




奏真はそう言って少し笑った。まだ約束の5分前だった。真面目だ。本当に真面目だ。通は苦笑した。




「座ってて」

「はい」




奏真は静かに椅子へ腰掛けた。それから数分。会議室には穏やかな空気が流れていた。ところが13時ちょうど、勢いよく扉が開いた。




「うーっす」




元気な声と共に入ってきたのは天城陽斗。いや、元気というより雑だった。通は思わず笑いそうになる。




黒いノースリーブ。ダメージジーンズ。少し日焼けした肌。そして自信満々な表情。オーディションの時と何も変わっていない。




「ギリギリだね」

「遅れてはないっすよ」




確かにその通りだった。悪びれる様子もない。そのまま空いている椅子へ向かい――そこで初めて奏真の存在に気付いた。




「あ」


奏真も顔を上げた。


「あぁ」




数秒間の沈黙…。いや、実際より長く感じただろう。通の胸に嫌な予感が走る。なんだろう。理由は分からない。でも、空気がおかしい。




「えええーっと…紹介するね」




慌てて通が口を開く。




「こちらは天城陽斗くん」

「どうも」


「そしてこちらは桐生奏真くん」

「よろしくお願いします」




奏真が頭を下げる。陽斗は軽く手を挙げた。温度差がすごかった。そしてまた訪れる沈黙……。最初に口を開いたのは陽斗だった。




「真面目そうっすね」




奏真が視線を向ける。




「そうですか?」

「先生とか好きそう」

「別に」

「学級委員とかやってそう」

「やってません」




即答だった。




「優等生タイプ?」

「違います」




奏真も負けていない。静かな声だったが、わずかに棘があった。そんな2人を見て、通は嫌な汗をかく。すると今度は奏真が言った。




「天城さんは」

「ん?」

「アイドルに見えませんね」




陽斗の眉がぴくりと動く。




「は?」

「どちらかというと不良です」




通は天井を見上げた。終わった。あぁ、終わったと思った。まだ3分しか経っていないのに『はい、解散!』と言ってしまいたくなった。しかし。




「いやいやいや!」慌てて割って入る。

「今日は喧嘩する日じゃないから!」




「喧嘩なんてしてないっす」

「喧嘩なんてしてません」




声が重なる。

そして再び睨み合う。




「今日は2人が仲良くなる日なんだけど…」




「俺は普通っす」

「僕は普通です」




再び2人の声が重なった。そして、お互いの顔を見る。なんだか悔しそうだった。通は頭を抱えたが、社長の言葉が脳裏をよぎった。




『君が育てるんだ』




無茶を言うなよ…と正直思った。だがもう引き返せない。気持ちを切り替えるようにして通は資料を配り始める。




「じゃあ今後の説明をするね」




2人が紙を見る。レッスン内容。活動方針。スケジュール。ダンス。ボーカル。筋力トレーニング。SNS講習。次々に配られる資料の数は、彼らの想像を遥かに上回っていた。




陽斗が顔をしかめる。




「え、多くね?」

「アイドルだからね」

「聞いてないっすよ」




すると奏真も小さく言った。




「僕も聞いてません」




2人が顔を見合わせる。




「実はね」




2人がこちらを見る。




「男性アイドルを担当するのは初めてなんだ」




沈黙が起こった。

陽斗が固まる。

奏真も固まる。




「え?」

「初めて?」


「うん」




通は苦笑した。




「女性タレントのマネージャーはやってたよ。でも男性アイドルは初挑戦。だから手探り状態であることは伝えておくよ。」




会議室が静かになる。2人とも少し不安そうだった。まぁ、当然だろう。未来を預ける相手が未経験なのだから。通はしばらく黙り、それからゆっくりと言う。




「正直に言うね」




2人が顔を上げる。




「僕も不安だ」




本音だった。




「でも」




通は履歴書を見る。





陽斗。奏真。

2人の名前。





「53人の中から選んだ」





まず陽斗を見る。

「君じゃなきゃ駄目だと思った」


次に奏真を見る。

「君でなきゃ駄目だと思った」





2人とも目を見開く。





「だから後悔はさせない」




通は真っ直ぐ言った。




「僕は本気でやる」




会議室が静まり返る。しばらく誰も喋らなかった。やがて、陽斗が視線を逸らしながら言う。





「……まぁ」

「ん?」

「選んでもらったのは感謝してます」




通は少し驚いた。もっと反発されると思っていた。『やっぱりやめます』と言いながら帰っていく姿も想像していた。




すると奏真も続く。




「僕もです」




その言葉で、通の胸の奥が少しだけ軽くなる。もしかしたら大丈夫かもしれない。まだ何も始まっていないけれど、でも、この二人なら。そう思えた。しかし、その期待はすぐに裏切られることになる。




次の日。

初めて訪れたダンススタジオで講師が笑顔で言った。



「じゃあ2人でペアを組んでみようか」




すると陽斗と奏真が顔を見合わせる。




「なんでコイツと?」




声が綺麗に重なった。




講師が固まる。通も固まる。そして社長だけが楽しそうに笑っていた。彼らのユニット名は、まだ存在していない。だが、後に武道館を目指して奮闘する2人の物語は、この日この場所から始まったのだった。

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