見つめた先と、揺れるイヤリング
「奥様。こちらなどはいかがでしょうか」
そう言って差し出されるのは指輪やイヤリング。
多くの…部屋いっぱいに広がる装飾品や服、靴に圧倒される。
「えっと…」
そう言葉を濁すが、私にはどれがいいかなどわからなかった。
ことの始まりは、私の不用意な一言だった。
「素敵ね…」
友人の屋敷からの帰り道。
街中でただ老夫婦が寄り添って歩いている。
それがとても素敵に見えたのだ。
それだけならよかった。
素敵な風景として終わっていたはずだった。
そこが装飾品店の前でなければ。
次の日。
つまり、今日。
そこの店主がやってきたのだ。
たくさんの装飾品を持って。
「奥様、お気に召されたものはございますか?お金につきましては糸目をつけなくてよいと申し遣っております」
家令がそう言って声をかけてくるが、私はそれどころではなかった。
こんな風に屋敷で買い物なんて、王宮で大がかりな夜会でもなければ経験することなんてなかったもの。
「えっと…」
ふと目に飛び込んだのは淡い…旦那様の瞳の色をした小さなイヤリングだった。
手を伸ばしかけて、手が止まる。
私なんかがつけてもいいものだろうか…。
そう思うと、これが欲しいだなんて言えなかった。
「奥様?」
「…申し訳ございません。私、宝飾品について詳しくなく…」
あの後、あまりにも高価な買い物に、気後れしてしまい結局なにも買うことはなかった。
旦那様のご厚意を無下にしてしまったかもしれない。
そう思うけれども、私一人で選ぶことなんてとてもできなかった。
でも、淡い…あのイヤリングが頭の片隅をちらついていた。
******
「彼女はなにを買ったんだ?」
いつものように日が傾き、月までも傾いた時間に帰宅した。
今日は家に宝石商が来ていたはずだ。
彼女が宝石を見て素敵だと溢した店。
きっといいものが買えただろう。
「それが、奥様はなにも購入されませんでした。」
「?」
「なにも購入されなかったのです」
レイモンドの言葉に指示が通ってなかったのかと眉をひそめる。
「…お金のことは心配するなと伝えるようにいったはずだが?店先の宝飾品まで全て持ってくるように伝えたが、店主は持ってこなかったのか?」
「それはないかと。ですが、奥様はなにも購入されなかったのです」
「…女性とはお洒落が好きではなかったか?母上はこの部屋いっぱいにしても足りないと…」
同じような宝飾品を買い漁る母上の姿を思いだし、げんなりする。
「奥様は、その…」
口ごもるレイモンドにハッとする。
「彼女の趣味ではない店を選んだのか。あの窓に写った店だったのかもしれないな…」
…俺は彼女の気分を害したのかも知れない…。
「旦那様。奥様は家に商人がやってくることに慣れていないのかもしれません。また、高額な宝石に大変恐縮したご様子でした。」
「そうか…」
レイモンドに聞いたところ、街を歩くのは好むようだ。
つまり、自分で探すことが好きなのかもしれない…。
「旦那様。せっかくです。ご自分で選ばれたものを贈り物とされては?」
レイモンドの言葉にギクリとする。
この男は俺のセンスを知らないのだろうか…。それとも、知っているならこその言葉なのか…。
「そちらの方が奥様も喜ばれるかと。」
ジト…ッとレイモンドを睨むが、涼しい顔で微笑む。
「…わかった。」
この時俺は、知らなかった。
のち一週間。
贈り物探しに奔走することとなること。




