旦那様の好きなフルーツは、なんですか?
「…今日も、ない」
お忙しいのであれば、無理をしないでほしいと残したメッセージカード。
あの日から旦那様からのメッセージカードは見当たらない。
やっぱり、忙しかったのね。
でも…。
自分から伝えたくせに、小さくため息をついてしまう。
袖机の花も、花瓶いっぱいにあった花々が少しずつ少なくなって、いつの間にか一輪だけになってしまっていた。
今日だって、ピンクのガーベラが一輪だけ花瓶に活けられていた。
でも、最近変わったこともある。
「奥様。今日のデザートには奥様がお好きだとおっしゃっていたフルーツに、南国のフルーツも用意いたしました。
アフタヌーンティーには、最近評判のケーキ菓子をお出しいたしますね」
「え?昨日話したのに?」
そう、ちょっと呟いたものが食事や贈り物として出てくるのだ。
この南国のフルーツだって、昨日手慰みに取った本に書いてあり、どんなものだろうか。と呟いただけだった。
まさか、物欲しげに聞こえたのかしら…。
『良き妻のすすめ』にはそんなときどうすべきと書いてあったかしら…。
「奥様?もしかして、お嫌いだったでしょうか?」
よくしてくれる侍女の不安そうな声に慌てて首を振る。
「いいえ、とても嬉しいわ」
「そうですか?そう言っていただけるときっと喜ばれますわ」
机に並べられたフルーツ。
「…フルーツ、いくつか残しておくことは可能かしら?せっかくですもの、旦那様にも召し上がっていただきたいわ。」
みずみずしいフルーツにふと思い付く。
美味しいフルーツで旦那様の疲れを癒せたら、と。
本当なら、一緒に食べられたならよかったのだけれど、無理ならば同じものを食べられたら…なんて、贅沢かしら。
でも、彼女は弾んだ声で
「きっと旦那様も喜ばれますわ。奥様からの贈り物ですね」
と。
そう言われると、私は旦那様に贈り物したことなかったことに気付く。
「喜んで、くださるかしら…」
イチゴを1粒手にとって呟く。
そうだと、少し嬉しい。
******
机に乗せられたフルーツは簡単に摘まめるようなものばかりだった。
「これは?彼女はフルーツが嫌いだったのだろうか…」
今日も、今日とて月まで傾く時間に帰ってきた俺を迎えたのは彼女。
…ではなく皿に盛り付けられたフルーツ。
レモン。
オレンジ。
パイナップル。
キウイ。
ラズベリー。
そして、イチゴ。
確か彼女が昨日美味しそう…と溢していた。
とレイモンドから聞いて急いで取り寄せたはずだった。
「俺は、贈り物まで間違えたのだろうか…」
フルーツは嫌いだったのだろうか。
いや、中には彼女が好きだと聞いたイチゴも残っている。
「奥様から旦那様へと。」
「…………は?」
レイモンドから零れた言葉が理解できなかった。
「奥様が自ら選ばれ、旦那様に食べていただきたいと。」
「彼女が、俺に?」
「はい。奥様が旦那様に、でございます。」
信じられず思わず強く頬を摘まむ。
「痛っ…!?」
頬は痛く、赤くなった。
夢ではないらしい…。
「彼女が、俺に…っ…」
もったいなくて食べられそうにない。
あぁ…このまま飾っておきたい。
「旦那様。よもや飾っておこうとなど考えてはおられませんよね?せっかく、奥様が旦那様へ食べていただきたいと贈られたものを。」
レイモンドの言葉にギクリとする。
こいつは心が読めるのではないか?
「はぁ…坊っちゃんがわかりやすいだけです。すぐにカトラリーの用意をいたしますから、どうぞお席へ」
「彼女が、俺に…」
まるで夢のようで。
どう足掻いても頬が緩むのが抑えられなかった。
これならばあんのくそ殿下の我儘も笑って流せる気がする。
ただ…。
彼女が選んだフルーツはどれもどこか酸っぱかった。
…やはり、彼女は怒っているのではないだろうか…。




