朝起きて、一番にすること。
朝起きて一番にすることが増えた。
袖机に置かれたカードを見ることだ。
袖机の花と共に旦那様から贈られるカード。
「今日もあった…」
赤いカーネーションに添えられたカードには、
『明日は君と』
たった一言。
他の人がみたら素っ気ないと言われそうなメッセージ。
それでも私にとっては旦那様からの贈り物だ。
汚さないうちに仕舞わないと、と思うのに少し名残惜しくって。
旦那様の筆跡を消えないように優しく撫でる。
「旦那様はもう…?」
私が訊ねれば、彼らは
「まもなく仕事も落ち着かれるかと。それまでは……」
と言葉を濁した。
「そう…」
はっとして目を落とす。
走り書きのようなメッセージ。
本当はとても忙しいのでは…?
『良き妻のすすめ』にも書いてあった。
忙しい旦那様に物をねだることははしたないと。
友人からも教わったことがある。
「あの、一つ用意していただきたいものがあるのですが」
せっかくの贈り物だったけれど…。
******
今にも坊っちゃんからキノコが生えそうだ。
いつものように日が傾き、月までも傾いた時間に帰宅された坊っちゃん。
奥様の寝顔を見に寝室に入られた。
そこまではいつも通りだった。
そう、袖机の上のカードを確認されるまでは。
カードを手に取られ、坊っちゃんは固まってしまった。
「…」
「旦那様。」
「…」
「旦那様。」
お声がけしても坊っちゃんは微動だにしない。
「…坊っちゃん。」
何度か声掛けして、昔の呼び方をしてやればやっとこちらを向く。
それはもう、情けない顔で。
「レイ。俺は…彼女に、嫌われたかも知らない」
見せられたカードには
『どうぞご無理なさらず。』
と書かれていた。
どう見ても坊っちゃんを気遣う言葉だと思うのだが。
「会えないのであれば、言葉だけでも。と思ったのだが…迷惑だったのかもしれない。
気障な言葉は苦手だからと、率直な想いを選んだつもりだったのだが。メッセージカードすら書けないのだと彼女は呆れたのだろう。」
そう言って坊っちゃんは崩れ落ちた。
そんなわけないだろう。
毎朝、奥様がメッセージカードを見て嬉しそうにはにかんでいらっしゃるか。
それほどまでに楽しみにされているというのに。
「坊っちゃん、お言葉ですが…」
「…彼女自身で好きなものを買えば、呆れられないはずだっ」
坊っちゃんはそうぶつぶつと呟きながら部屋を出ていった。
坊っちゃん。
人の話は最後まで聞きなさいと教えたでしょう。




