EP5 夜の公国ヴェスペラ 第40話 正しい騎士様
セシルは、何も答えられなかった。
ただ、剣を構え直した。
防ぐために。
影は、その姿を見て笑った。
「まだ足搔くのか」
蒼黒い水面が、静かに揺れる。
その上で、二人のセシルが向かい合っていた。
一人は白い鎧を纏い、剣を構える騎士。
もう一人は、同じ顔で、同じ剣を持ちながら、怒りだけを瞳に宿した影。
「本当に、頑固だな」
影が踏み込む。
剣が振り下ろされた。
セシルは受けた。
腕が痺れる。
足元の水面が沈む。
白い光の盾が軋み、細かな亀裂を走らせる。
「守ればいいと思っている」
影の声が、剣越しに落ちてくる。
「規律を。正義を。平等を」
次の一撃。
横薙ぎ。
セシルは剣を立て、光盾を重ねる。
衝撃が逃げきらず、肩に響いた。
「建前に縋り付き、それで満足する」
影は笑った。
「お前はいつもそうだ。規律。平等。そうすれば、自分は正しかったのだと、思える」
剣がぶつかる。
白い光が散る。
水面に波紋が広がる。
「だが、あの日のお前は何を選んだ」
セシルの呼吸が、ほんのわずかに止まった。
影は見逃さない。
「箱だ」
黒い剣が、光盾を叩く。
もう一撃。
「古い系譜書」
さらに一撃。
「肥え太った貴族の、銀の璽」
白い盾に亀裂が走る。
セシルは歯を食いしばった。
「……あれは、秩序を守るために必要なものでした」
「そうだな」
影は即答した。
笑っていた。
「正しい」
黒い剣が振り下ろされる。
セシルは受ける。
「家門印が失われれば、継承争いが起きる。領地が乱れる。多くの民が死ぬかもしれない」
「……」
「上官の言葉は正しかった。任務は正しかった。お前は騎士候補生として、実に正しく命令に従った」
影が顔を近づける。
「だから聞いている」
その声が、冷たく沈んだ。
「お前は、あの日、何を守った?」
水面に、雨が落ちた。
幻の雨。
灰鐘区の雨。
焼け焦げた木の匂いが、蒼黒い空間に滲み出す。
セシルの足元に、小さな黒いものが浮かんだ。
片腕のない、焦げた騎士人形。
セシルの目が揺れる。
影が笑った。
「その人形、まだ覚えているか」
「……やめなさい」
「白い布を巻いていたな。騎士様ごっこでもしていたのかもしれない。騎士は人を助けるものだと思っていたのかもしれない」
「黙りなさい」
「だが、本物の白い騎士様は、箱を守って通り過ぎた」
影の剣が、セシルの盾を叩き割った。
白い破片が、水面へ落ちる。
「嘘をつくなよ、セシル」
セシルは一歩下がった。
影は止まらない。
「お前はあの日、知っていたはずだ」
「……何を」
「あの箱より、あの声の方が重かった」
セシルの喉が鳴る。
小さな声。
「たすけて」と聞こえた声。
雨の音に紛れ、炎に呑まれ、それでも耳に残り続けた声。
影は、鋭く言った。
「お前は秩序を守った。任務を守った。上官の命令を守った。貴族の箱を守った」
黒い剣が、セシルの剣を押し込む。
「そして、子どもの声を置いていった」
「違う!」
初めて、セシルの声が荒れた。
影の笑みが深くなる。
「ほら」
その声は、嬉しそうですらあった。
「あるじゃないか」
セシルの剣に、わずかに光が集まる。
だが、その光は震えていた。
怒り。
悔しさ。
否定したいもの。
思い出したくなかったもの。
すべてが胸の奥で軋んでいた。
影は、さらに踏み込む。
「お前は、あの日から平等を語るようになった」
「……」
「人の重さを身分で決めたくない。出自で測りたくない。力ある者の都合で軽く扱いたくない」
「…それは、間違いではありません」
「間違いではないさ」
影は笑った。
「だが、始まりは綺麗な理想じゃない」
セシルの目が揺れる。
「お前の平等は、後悔から生まれた」
黒い剣が迫る。
セシルは受ける。
「怒りから生まれた」
また受ける。
「殺意から生まれた」
セシルの腕が震えた。
「……殺意など」
「なかったと言うのか?」
影の声が低くなる。
水面に、あの貴族の顔が映る。
濡れぬように外套をまとい、馬車の窓から言い放った男。
そこらの浮浪児とは違う。
その声が、もう一度響いた。
セシルの指が、剣の柄に食い込む。
影が囁いた。
「斬りたかっただろう」
「……」
「あの男を」
「……」
「箱を抱えて笑う者を」
「……」
「人の価値を、紙と印で決める世界を」
セシルは歯を食いしばった。
「黙りなさい」
「怒っていたんだろう?」
「黙れ!」
「なのに、お前は怒りを抑えた」
影の剣が、セシルの胸甲を打つ。
衝撃。
セシルの身体が後ろへ滑る。
水面に膝がつきかける。
「騎士は怒りで剣を振るわない。公平であれ。冷静であれ。規律を守れ」
影は、セシル自身の声で言った。
「そう唱え続ければ、あの日の声を聞かなくて済むと思った」
影は即答した。
「お前は、自分の怒りが怖かったんだ」
セシルは顔を上げる。
「怒りで剣を抜けば、あの貴族を斬っていたかもしれない」
影が踏み込む。
「命令を破っていたかもしれない」
さらに一歩。
「秩序を壊していたかもしれない」
影の瞳が赤黒く揺れる。
「だからお前は怒りを閉じ込めた。怒りを平等と呼び、悔しさを規律と呼び、殺意を正義の形に押し込めた」
セシルの呼吸が乱れる。
反論できなかった。否定できなかった。
自分は怒っていた。
あの貴族に。
あの言葉に。
あの命令に。
あの箱に。
そして、剣を抜けなかった自分に。
正しく任務を果たした自分に。
怒っていたのだ。
なのに、その怒りを騎士の形に押し込めた。
公平。平等。規律。正しさ。
そういう言葉で包めば、怒りは怒りではなくなる気がした。
でも、違う。
そこにあったものは、正しく、怒りだった。
水面が、黒く揺れる。
セシルの足元に映る自分の顔が歪む。
整った姿勢。
崩れない表情。
正しい騎士の顔。
その奥で、あの日の雨が降っている。
影は、剣を押し込んだ。
「言ってみろ」
「……」
「私は怒っている、と」
セシルは息を吸った。
喉が震える。
「……私は」
盾が軋む。
「私は、怒っています」
言葉にした瞬間、水面が大きく波打った。
影の笑みが深くなる。
「…やっと言ったな」
セシルは顔を上げた。
声は震えていた。
「私は怒っています」
影の剣を、少しだけ押し返す。
「あの日の眼をふさいだものを。目の前の命に手を伸ばさなかったことを」
白い光が、剣の根元に戻る。
弱い。
だが、確かに灯る。
「それを正しいと言った命令に」
さらに押し返す。
「あの日、逆らうことができなかった自分に」
影の瞳が細くなる。
「それで?」
セシルは唇を噛む。
「私は、あの子たちを救えませんでした」
水面に、小さな波紋が広がる。
「任務を守りました。命令に従いました。箱を守りました」
影が低く言う。
「正しかったな」
「…ええ」
セシルは答えた。
「正しかったのだと思います」
影の笑みが、わずかに止まる。
セシルは続けた。
「少なくとも、騎士としては。任務としては。王国の秩序という意味では」
白い光が、盾へ戻る。
砕けたはずの光盾が、セシルの左腕に薄く重なった。
「ですが」
セシルは、影を見据えた。
「私は、あの日の正しさを許していません」
水面が揺れた。
影の剣が、黒く濡れた。
「次は逆を選べ」
セシルの目が揺れる。
「箱を捨てろ。命令を斬れ。秩序を踏み砕け。人の価値よりも紙と印に価値を置く連中を、二度と喋れないようにしてやれ」
影の表情が歪む。
セシルの胸の奥には、認めたばかりの怒りが熱を持っていた。
「…ええ。それもいいかもしれません」
セシルの声は静かだった。
「俺に委ねろ あの日、お前ができなかったことを、俺がやる。お前が抜けなかった剣を、俺が抜く。お前が斬れなかったものを、俺が代わりに斬ってやる」
「……」
「それが、お前の怒りだろう」
セシルは、目を伏せなかった。
「ええ」
静かに答える。
「それも、私の怒りです」
影の瞳が揺れた。
「…」
「ですが」
セシルは、影の剣を受け止めた。
白い光が軋む。
それでも、退かなかった。
「あなたに委ねるつもりは、ありません」
「どういうことだ」
「…あの時、私は他人の基準に自信の判断を委ねました」
白い光が、剣身を這う。
「あの声の重さを、私は二度と他人の秤に預けません」
影が踏み込む。
「綺麗ごとだ」
剣が振り下ろされる。
セシルは受けた。
今度は、下がらなかった。
「ええ」
セシルは言った。
「綺麗ごとです」
影の剣を、手甲で受け止める。
「ですが、私はそれを捨てません」
手甲に、影の剣がめり込む。
痛みが走る。
それでも、セシルは目を逸らさなかった。
「あなたの言う通りです」
セシルは、影を見据える。
「私は怒っている。私は選んでいる。私は全員を救えない。私の平等は、完全ではない」
衝撃が重なっていく。
一撃。
また一撃。
雨。
炎。
女の声。
焦げた騎士人形。
守った箱。
置いてきた声。
そのすべてが、身体の内側に沈んでいく。
「それでも、私はこの言葉を捨てません」
セシルは一歩踏み出した。
影の剣を、手甲で押し返す。
「平等とは、全てを救えるという意味ではありません」
影の顔が歪む。
「なら、何だ」
「少なくとも」
セシルの声が、低くなる。
「誰かの価値を、私以外の誰かの基準に!二度と委ねない!」
影の瞳が揺れた。
「私は!自分の信じるものを守ります!」
影の表情が、初めて揺れた。
「王国でも、貴族でも、上官でも、規律でもなく」
セシルは初めて、自分から踏み込んだ。
守るための半歩ではない。
誰かを庇うための移動でもない。
相手の間合いへ入るための一歩。
「私が、その重さを背負って選びます」
影の剣が、反射的に振られる。
セシルは避けない。
剣で受けた。
衝撃が重なる。
腕が軋む。
水面が沈む。
だが、退かない。
「間違えるかもしれません」
セシルは言う。
「また救えないかもしれません。別の何かを壊すかもしれません。誰かを傷つけるかもしれません」
影の剣を、弾く。
「ですが」
セシルの剣に、白い光が集まった。
まっすぐで、重い光。
「選んだことを、正しさの後ろに隠しません」
影が叫ぶ。
「なら、俺はどうなる!」
その声に、セシルの動きが一瞬だけ止まる。
影は笑っていなかった。
怒っていた。
泣いているようにも見えた。
「お前が押し込めた怒りはどうなる!」
影の剣が震える。
「あの時の悔恨は。あの時の怒りは。助けてと呼んだ声を、背中に置いて歩いた痛みは」
影は、セシル自身の声で叫んだ。
「全部、また綺麗な言葉で閉じ込めるのか!」
セシルは剣を下ろさなかった。
だが、目を逸らしもしなかった。
「閉じ込めません」
「なら!」
「私とともにありなさい」
影の表情が止まる。
セシルは静かに言った。
「あなたは、私です」
水面が揺れる。
「あの日、剣を抜きたかった私です。箱を守った自分を許せなかった私です。貴族の言葉を忘れられなかった私です」
影の剣先が、わずかに下がる。
「あなたは、私の怒りです。悔しさです。弱さであり、汚さです」
セシルは踏み込む。
「ですが、あなたが私の全てではありません」
さらに一歩。
「私は、あなたを置いていきません」
もう一歩。
「けれど、あなたに道を決めさせもしません」
影が歯を食いしばる。
「綺麗なことを――」
「綺麗なだけではないと、言ったはずです」
セシルの盾が、影の剣を受け止めた。
今度は、真正面から。
逃がさない。
逸らさない。
受けた衝撃を、すべて盾の内側へ落とす。
セシルの足元に、白い円が広がった。
水面に波紋が走る。
そこに、雨の景色が映る。
灰鐘区。
焼け落ちた倉庫。
泥の中に座り込む女。
焦げた騎士人形。
そして、雨に濡れた若い騎士。
何もできなかった自分。
そのすべてを、セシルは見た。
目を逸らさずに。
「これは、私の怒りです」
光が盾から剣へ流れる。
「これは、私の後悔です」
剣身が白く染まる。
「これは、私が二度と、誰かの重さを勝手に軽くしないと決めた誓いです」
セシルは剣を振り上げた。
影の目が見開かれる。
「だから」
白い剣が振り下ろされる。
「膝をつきなさい」
刃は影の剣を叩き、砕き、さらにその勢いのまま、影の肩口へ沈む。
斬撃ではない。
打ち据える一撃。
影の身体が、水面へ叩きつけられた。
大きな波紋が広がる。
蒼黒い水面が白く光った。
影は膝をついた。
肩を押さえ、荒く息を吐く。
その顔は、セシルと同じだった。
怒りも、悔しさも、痛みも、そのままそこにあった。
セシルは剣を向けたまま、静かに見下ろした。
影が、かすかに笑う。
「……力ずくか」
「はい」
セシルは答えた。
「ひどい騎士だな」
「そうかもしれません」
「平等な騎士様が、相手を屈服させるのか」
セシルは、少しだけ息を吐く。
「ええ」
影はしばらくセシルを見ていた。
やがて、疲れたように笑った。
「本当に、頑固だ」
「よく言われます」
「誰に」
セシルは少し考える。
「最近は、フィアさんに」
影は、声を漏らして笑った。
その瞬間、影の輪郭が揺らいだ。
蒼黒い水面に、黒い雫が落ちる。
影はゆっくり立ち上がった。
剣はもうない。
セシルの前に立ち、同じ顔で彼を見る。
「俺を連れていくと言ったな」
「はい」
「都合がいい」
「否定しません」
「汚い」
「それも、否定しません」
影は、セシルの胸に手を当てた。
冷たい。
だが、不思議と拒絶感はなかった。
「忘れるな」
影が言う。
「お前が、箱を守ったことを」
セシルは頷いた。
「忘れません」
「声を置いていったことを」
「忘れません」
「それでも、その場の正しさから逃げられなかったことを」
セシルは一瞬だけ目を伏せた。
そして、頷いた。
「忘れません」
影は、さらに言った。
「ならば、お前は俺だな」
黒い影が、セシルの胸へ沈んだ。
痛みが走る。
ずっと押し込めていたものが、戻ってくる痛み。
過去。
間違っていた自分。
それでも捨てられない理想。
それらが、胸の奥で一つに重なる。
セシルは膝をつきそうになった。
だが、倒れなかった。
剣を支えに立つ。
蒼黒い水面に、彼の姿が映る。
鎧は傷ついている。
髪も乱れている。
頬には血が滲んでいる。
整った騎士の顔ではなかった。
白く、正しいだけの騎士ではなかった。
それでも。
セシルは、自分の映った姿から目を逸らさなかった。
「…帰りましょう。皆のもとへ」
誰に言ったのか、自分でも分からなかった。
けれど、その言葉で、水面に白い道が開いた。
◇
赤黒い道の奥で、水面が揺れた。
レインが立ち上がる。
「セシル!」
蒼黒い波紋の中から、白い鎧が現れる。
セシルは、ゆっくりと歩いてきた。
一歩。
また一歩。
鎧は傷だらけで、一部が砕けていた。
肩口には深い裂け目があり、胸甲にも大きな打痕が残っている。
髪は乱れ、頬には血がついていた。
だが、目は伏せていなかった。
フィアが息を吐く。
「……遅い。セシルが遅刻するなんて珍しいじゃん」
セシルは、少しだけ眉を下げた。
「すみません」
「謝んないでよ」
ノエルがセシルを見上げる。
「おかえり」
セシルは、ほんの少し表情を緩めた。
「……ただいま戻りました」
ラヴィニエが手を重ねる。
「祈りが届きましたね」
フィアが即座に言う。
「そこはセシルが頑張ったって言ってあげなよ」
「もちろんです」
ラヴィニエは微笑んだ。
「祈りながら、そう思っていました」
「ややこしいなあ」
レインはセシルの顔を見た。
「大丈夫か」
「ええ」
セシルは答えた。
少し間を置いて、言い直す。
「いえ。あまり大丈夫ではありません」
レインは目を瞬かせた。
セシルがそう言うのは、珍しかった。
「ですが、立っています」
その言葉に、レインは少しだけ笑った。
「…上等だ」
ユーフェミアがセシルを見る。
赤い瞳が、わずかに細まった。
「戻ったか、騎士崩れ」
「はい」
「少しは、好い顔になったの」
セシルは、頬の血を指で拭う。
そして、しばらく考えた。
怒るでもなく。
否定するでもなく。
静かに頷いた。
「……ええ。少しだけ」
ユーフェミアは、満足そうに笑った。
「よい」
セシルは剣を握る。
その白い光は、以前よりも少し重かった。
ただ守るためだけの光ではない。
受け止めるため。
押し返すため。
必要なら、相手を傷つけ、膝をつかせるため。
そして。
自分が選んだ重さから、目を逸らさないため。
それでも、彼はその剣を下ろさなかった。
フィアが横から覗き込む。
「セシル、なんか雰囲気変わった?」
「そうでしょうか」
「うん。ちょっと怖くなった、かな」
「怖い、ですか」
セシルは少し困ったようにする。
フィアは、少しだけ目を細めた。
「でも、前より人間っぽいかも」
「……それは、褒め言葉ですか」
「たぶん」
「たぶんですか」
ノエルが首を傾げた。
「でも、セシル」
「はい」
「セシルはセシル」
セシルは、ノエルを見る。
しばらくして、静かに頷いた。
「……ありがとうございます」
レインは、残っていた赤黒い道が閉じていくのを見た。
五つの道が、すべて消える。
黒い水面のような床に、波紋だけが残った。
ユーフェミアが小さく息を吐く。
「これで、ひとまず全員じゃな」
誰も、完全ではない。
誰も、答えを手に入れたわけではない。
それでも。
五人は、戻ってきた。
ユーフェミアはくつりと笑う。
「では、次じゃ」
レインが顔をしかめる。
「まだあんのかよ」
「当然じゃ。試練を終えたら、次は飯じゃろう」
一瞬、沈黙が落ちた。
フィアが目を細める。
「……それ、普通のご飯?」
ユーフェミアは楽しそうに笑った。
「ヴェスペラ式じゃ」
レインは、天を仰いだ。
「最後に一番不安なやつ来たな」
ノエルは小さく呟く。
「赤い?」
ラヴィニエは微笑む。
「命の味がしそうですね」
「やめてください」
セシルが即座に言った。
その声は、いつもより少し低く、けれど確かにセシルのものだった。
フィアが、少しだけ笑う。
「おかえり、セシル」
セシルは、今度はきちんと頷いた。
「はい。ただいまもどりました」




