【外伝】とあるヤモリの話 後編(ユーフェミアside)
最近ヤモーがおかしいです。
なんかよそよそしいといいますか、私が撫でたり舐めたりしても上の空というか反応が鈍いというか…
…私なにかしてしまったのかしらと思ってヤモーに聞きたくても(何となくの意思疎通はできているはずなのです)何故か最近私が寝るとき傍には居てくれるんですが、起きている時は殆ど会えてない現状………もしかしなくても避けられています。
ヤモーの代わりといいますか最近よく会うのが、短い赤茶髪に黒い瞳の男性です。
この方、気のせいじゃなければヤモーの匂いがするんですよ。
変な意味じゃなくてですね!!ヤモーはいつも爽やかな華の様な香りに微かな土の混ざった匂いがしているんです。
それと全く同じ匂いがするので見かける度に声を掛けてヤモーの行方を聞いて探してみても見つかるのは諦めかけた頃。
何故か疲れ切った状態のヤモーが現れるという最近の日常です。
疲れたヤモーはそのまま寝てしまうので話が出来ずに朝になり、起きるとやっぱり傍にヤモーがいない、の繰り返しです。
そんな訳で本日私はヤモーを見失わない為、夜中にこっそり起きてそれから一睡もせずにひたすら観察して、観察して寝たふりで撫でたり舐めたりしつつヤモーが起きだすのを待ち構えました。そして、
むくり。
とヤモーが動き出したので慌てて、しかし表には出さずに寝たふりをしてそっと様子を窺う。
ヤモーがベッドから降り視界から見えなくなってほんの数分、瞬きの間にクローゼットの前に男が立っていた。
「っ!?」
声を上げなかった自分を褒めたい、そのくらいに驚いた。しかも見えないけど服を身に着けてないのでは無いでしょうか…
一瞬、ほんの一瞬だけ貞操の危機かなと身構えたけど相手は気にすることなくクローゼットから服を取り出し、身に着けてこちらを見ることなく小屋を出て行った。
…今のはヤモーの匂いがする赤茶髪の人だったのでは…!ってヤモーは!
「ヤモー?何処に居ますー?」
降りて行ったベッドの周りを見て小屋中探し回ったが見付からない…
「まさか!」
やっぱりか、やっぱりなのか!突然現れたからそうじゃないかと思ったのだ。
あの男がヤモーを拉致監禁している!!!!!
どうりでここ最近のヤモーの肌艶が悪いと思ったら拉致監禁のせいなら納得がいく。
「待っていてヤモー今私が助け出してあげますわ!!!!!!」
寝巻の上に適当に引っ掴んだ上着を着て匂いを頼りに男を追いかけた。
「見つけた!」
外に飛び出したユーフェミアはかすかな残り香とヤモーへの愛、あとは勘で炊事場(竜の方達は料理等しないので昔押しかけてきたという女性が使っていたらしい)で赤茶髪の男を見つけた。
が、一人ではなく金茶の髪のご老人(多分)と立ち話をしていたので誘拐犯の仲間なら一網打尽にしてしまおうとユーフェミアは気付かれない様そっと物陰に潜み、聞き耳を立てた。
「-…」
「-か?」
「いいえでもヤモーの―…」
ヤモー?この人今ヤモーって言った!やっぱりヤモー誘拐犯で間違い!!!
聞えたその一言で物陰から飛び出し、赤茶髪の男に文字通り跳びかかった。
「ヤモーはどこ!!今すぐあの子を解放しなさいこの誘拐魔!!!」
「え?」
「ん?」
上から、私・赤茶髪の男・金茶髪の老人です。
跳びかかった勢いのまま追撃を試みるが目の前の獲物が一瞬にして消えた。
「へ…?あれ??」
残ったのは私と金茶髪の老人と男が着ていた服だけだった。
「え…?ヤモーの誘拐犯は?え?あれ??」
抜け殻になったシャツを叩き、振ると
ころり
とヤモーが落ちてきた。
「ああああ!!!ヤモー!!良かった!無事?怪我してない?痛いところはない?!」
掌にヤモーを乗せて、ひっくり返したり口内を隅々まで見たり何処にも怪我がないことを確認して、ユーフェミアはほっと息をついた。
因みにその間ヤモーは『きゅ』や『ぎゅー』等鳴いていたが一度も手は止まることはなかった。
「ところでヤモー、さっきの貴方を誘拐していた不届き物は何処に逃げたか分かる?私直々にお話をしたい事があるのだけど」
ヤモーはきょとんとした(に私には見えるけど他の人には真顔に見える)顔をことりと頭を倒すだけで返事はなかった。
…まあヤモーは話せないのでいつも雰囲気で会話してますけどね。そわそわしていているのでもしかしたら現状が理解できていないかもですね。
一方ヤモーは
(やばいばれたヤバイばれたヤバイヤバいばれた)
とユーフェミアの掌の上心の中で滝汗を流していた。
「ふっ…く…あっははは!」
「へ?」
突然聞こえた背後からの笑い声に驚き、ユーフェミアは振り返る。
そこには先程誘拐犯の仲間だと思っていた金茶髪の老人がお腹を抱えて笑っていた。
何となく既視感というか、この笑い方に聞き覚えがあると言いますか…
「えっと、あの、まさかですが長老様だったりします…?」
私の質問に笑いが一段落した老人が、
「如何にも。朝から元気そうで何より」
と
大変良い笑顔で仰りました。
◇◇◇◇◇◇◇
そのまま長老様と置いてあった食材で簡単な朝食を作り、そのまま流れでご一緒する事にしました。
朝食を食べ終わり一息ついた所で、長老が
「いくらこの子でも流石に何度も有耶無耶には出来んから観念して今のうちに伝えなさい。」
そう言いました。
私に心当たりは無いので、?となったのですがここには長老様の他に私とヤモーしかいないので多分ヤモーに言ったんだと思いますが、伝えることってもしかして誘拐事件の事ですかね?
じっとヤモーの後ろ姿を見つめているとテーブルからぴよんと降りたのでそのまま見つめ続けた。
「え」
降り立ったヤモーが一瞬歪んで見えたと思ったらその場に居たのは赤茶髪の男でした。
全裸で。
そしてじっと此方を見て
「御主人、えっと、あの、その俺は…」
ともじもじしている。
「服を、服を着ろおぉぉぉぉぉ!!!!」
と私が着ていた上着を投げつけた。
うん、私間違ってない。気になる事多過ぎるけど全裸でもじもじされるのはちょっと、ええ、はい。
◇◇◇◇◇◇
うん、驚きました。
まさかヤモーが竜の先祖返りで人型になって私のお世話をしようとしてたなんて考えてもなかったですよ。
ヤモーだったから赤茶髪の男から同じ匂いがしたていう簡単な事件でした。誘拐事件なんてなかった!
「ねぇヤモー!舐めさせて!」
「うん?良いけどいつも舐めてるのに今更?」
全裸から脱出(?)してシャツにベストのパンツスタイルになったヤモー(仮)が良いよと両手を広げている。
躊躇わずに懐に飛び込み私がいつも通りに頭を抱え込みそのまま右瞼を舐め、そのまま右頬へと辿る。そして
「同じ味だわ!」
「そりゃね」
同じだし。とヤモーが笑った。
見た目大人の男の人なのに少年の様な笑顔だった。そして初めてヤモーの笑顔が見れました。
脳内容量がパンクしてしまった私ですが、ヤモー(仮)を舐めてやっとこの人がヤモーだと理解できた。
因みに長老様はずっと居ましたよ。
ぷるぷる震えておられたのでまた笑いを堪えているのだと思います。
相も変わらず笑いのツボがズレているお方です。
そしてヤモーの希望(私へ恩返しでお世話をしたい)と私の希望(身の回りの事は自分で出来るので不要)の折衷案としてヤモーと今後はご飯を一緒に作ることにしました。
……ヤモーお料理下手なんです…ご飯が辛かったり甘かったりとその時々で味が違うのでてっきりイジメか何かかと思ってたんですがヤモーなら納得でした。ヤモリの味覚は元々ほぼ無いですし。
同じ様な見た目なのに竜の方達は味覚があるそうなのでそのうち味覚も目覚めてくるのではというのが長老様談です。
ので、この間に料理の練習をしようという話になりました。
恩返しなんてしなくて良いと伝えたのですが納得して貰えませんでした。
いえ、別に不満なんて全くないですよ。
ただ、ちょっと、ほんのちょっとヤモーを撫でたり舐めたりする時間がもっと欲しいなーなんて事………………………
まあ、これは追追話し合って決めようと思います。
何はともあれ誘拐なんてなくて良かったです!
さて、では私はこれから旦那様とのデートの用意をするので失礼しますね。
ではまた!
まだ旦那竜の名前はでませn




