5.彼女との交流
その週の土曜日――冬弥は滝橋によって呼び出されたため、高校のある駅へ赴いていた。腕時計で確認すると九時十分前。滝橋の姿は無い。
「さて、どうなるかな」
呟いて、冬弥は周囲を眺めた。
格好は予知夢とジーンズは同じだが、上はブラウンのジャケットを着ている。これを選んだ理由は、予知夢とそっくりになるのが嫌だという、せめてもの抵抗によるものだ。
「や、お待たせ」
少しして声がした。初めてなのに聞き覚えのある声。
振り返るとギンガムチェックのシャツに、チノパンという出で立ちの滝橋の姿。
夢ではっきりと見たことのある、記憶のある姿。
「色気がないな」
どう答えが返ってくるかわかっていたが、感想を述べる。
「別にスカートで来ても良かったんだけどね」
滝橋は即座に、見覚えのある、含みを持たせた笑みを見せた。
「いいの? そうすると荷物持たないよ? ヒラヒラして危ないし」
「ああ、なるほどね」
夢のやり取りをして、冬弥は続きを語る。
「まあいいよ。それで、どこに行くんだ?」
「まずはこっちから」
彼女はメモを取り出し、案内を始める。事前に計画は整っているのか、特に迷いなく進んでいく。
――ここからは、夢で見ていない初めての出来事だ。
「何を買うんだ?」
問うと、滝橋は口の端を僅かに歪めた。
「覚悟しときなさい」
「どういう意味で? 精神的な意味? それとも肉体的な意味?」
「全部」
即答。冬弥は息をつきながらも仕方なしといった様子で追随する。
学校の近くには商店街が軒を連ねている。そこそこ繁盛している店もあるため、存外盛況な場所であったりする。
「あ、言い忘れていたけど」
滝橋は、後方を歩く冬弥にくるりと反転すると、メモをポケットにしまいながら宣告する。
「荷物、一度じゃ抱えきれないから、学校を往復することになるよ」
「なるほど。だから肉体的な意味で大変だと」
「そう。そして私服姿で学校に入り込むわけだから、見つからないようにビクビクして教室に荷物を運び入れる必要がある」
「それが精神的な意味か?」
「……どうして制服で来いって言わなかった! とか訊かないの?」
どうやら反論を期待していたらしい。だが冬弥は達観した面持ち。さらに別段深く考えずに、思ったことを口にしてみた。
「私服姿を見たかったから、とかじゃないのか?」
どことなく直情的に物事を考えているのが想像できたので、冬弥はそう返答した。
すると、彼女は驚き目を真ん丸に見開いた。
「あ、当たり」
「で、もし制服だとしても荷物は一人で学校に運んで、あなた男でしょ、という風に言いたいわけだ」
「すごい、良くわかったね」
「予想通り過ぎるんだよ」
つまらなそうに答えると、滝橋は笑った。子供が悪戯をしてバレてしまったような、あどけない笑み。
冬弥はなんとなく、無邪気な笑みを見るのは久しぶりだな、と考えたりする。
「なるほど。そうかそうか。で、逃げないの?」
「逃げないよ。どうせ何かあったら七海に密告するんだろ?」
「すごい、それも当たり」
感心したように滝橋は言う。冬弥は小さく肩をすくめつつ、言及する。
「そういえば、七海はどうしたんだ?」
「別の仕事。買い出しを頼んでいるんだ。そっちはここで買えないものだから」
「一人なのか?」
「変な所に行ったりしていないから心配いらないよ。昼くらいには合流できるから、お昼は一緒に食べよう」
「わかった」
冬弥は了承し、二人は再び歩き出す。
しばらく冬弥は、滝橋の先導に黙って従い、商店街を練り歩く。ウインドウショッピングではないので、彼女はテキパキと効率よく店を回り、できる限り荷物を持つ冬弥に負担が行かないように移動する。
(俺や七海とは、大きな違いだな)
計画性が無いわけではないが、それでもここまで的確に動けたためしはない。そんな行動が、冬弥にはひどく新鮮に映った。
そのおかげか知らないが、滝橋の動きを追うだけでも退屈せず、時間はあっという間に過ぎていく。
やがて、一段落したのか彼女は冬弥を一度確認し、
「一度戻る?」
と尋ねた。持つ荷物は頃合いで、学校に行くかどうか訊いているのだとわかった。
問い掛けに対し、冬弥は首を左右に振る。
「まだ余裕がある」
「そう。後は小物類だから、一回行くだけで済むみたいね」
冬弥の手には取っ手付きの紙袋がそれぞれ三つずつ。重いわけではないが、確かにこの量からさらに増えればしんどいのは確かだ。
「あと二つだから、我慢して」
「了解」
指示には従い、冬弥は歩く。
やがて目的の物を買うと、理衣は店員から渡された紙袋を冬弥に全て渡した。
「一つくらいは持てよ」
「いや」
はにかむように返答する滝橋。冬弥は嘆息しながら、格好関係なくこうする気だったのだと悟り、反論するのをやめた。
「悪いね」
何も言わない冬弥に気を良くしたのか、滝橋は言うと身を翻した。足を向ける方角は、学校。
「それじゃあ、これで終わりだから学校に」
「わかった」
頷き、足を動かす。荷物のため歩きにくかったが、それでも普通に滝橋についていくことはできる。
「手伝ってくれたお礼に、昼食は奢るよ」
「そこまでしてもらわなくてもいいさ」
「させて。それで貸し借りなしということで」
「……わかった」
了承すると、冬弥はふと七海のことを考えた。
元々七海に仕事を頼む予定だったとすれば、自分に話を向けたのも理解できる。
しかし、なんとなくだが滝橋本人から理由を訊いておこうと思った。余計な感情を持たれていては、厄介な事この上ないためだ。
「滝橋。結局、七海の縁で俺に仕事を頼んだのか?」
質問に、突如彼女は立ち止まる。反射的に冬弥も足を止め、視線を送る。
「どうした?」
「いつも、思うんだけどさ」
ゆっくりとした動作で冬弥へ体を向け、慎重に、言葉を選ぶように問う。
「なんというか、人と関わろうとしないルールでも作っているの?」
「それは七海と、という意味か?」
「うん」
素直に頷く滝橋。
「なんというか、七海は色んな友人がいるけど、新城君はそうでもなさそうだし」
「一人でいる方がいい、というのは理由にならないのか?」
「なら何で七海はずっと傍に置いておくの?」
冬弥は疑問に対し、滝橋の目をじっと見た。質問の真意を問いたかった。なぜそんな風に追及するのか。
滝橋は冬弥の直視に対し、首をすくめながら尋ねた。
「こういう質問は、おかしい?」
「おかしい、とは?」
「七海の友人としてなんだけど、ずっと七海と接していて……なんというか、新城君との関係はずいぶん奇妙に見えて。幼馴染で世話を焼いている、というのが一番適合しているのは私にもわかるけど……」
語尾が濁った。冬弥はそこを気にしつつも鋭い、と感じる。高校入学からの友人で、共に過ごしてきた故の推測か。
「なんだよ?」
とはいえ口ごもる態度が気になったため、続きを促した。滝橋は軽く腕を組んで、冬弥の目を見ながら、話す。
「正直、幼馴染として仲が良いという割には、ずいぶん深刻そうな場面が多いと思って」
深刻――きっと、自分達が予知夢に関する会話をしている時のことを言っている。同時に、ああやっぱりかと思った。傍から見ても、自分達の関係はあまり良くないように見えている。その事実が、七海の友人から知らされた。
「なんだろう、隠し事をしていてバレないようにしているというか」
「何でそう思ったんだ?」
冬弥はここに至り彼女に興味が湧き、荷物を地面に下ろし聞き返した。
「何か根拠があるのか?」
「……その、怒らないで欲しいんだけど」
唐突に、前置きをする。保険を掛けるような言葉遣いに、冬弥は眉をひそめた。
「進学の話をしている会話をちょっとだけ盗み聞きしたことがあって……なんていうのかな、断片的にしか聞き取れなかったけど、まるで将来が決まっているような、そんな感じに聞こえたの。そういう未来を、二人は何かしら親に言われていて、色々と不安を抱き一緒にいるのかなと……論拠としては、ずいぶん薄いけど」
「そうだな」
冬弥はにべもなく頷いた。間違いだという反応を示したつもりだった。
一瞬予知夢の話をじっくり聞かれたか、と考えたのだが違うらしい。それなら、まだ修正が効く。
「……そう」
滝橋は少し俯いた。しゅんとさせてしまったようで、冬弥はフォローをしておくべきかと思い、口を開く。
「まあ、進路に関する不安とかの相談だよ。小学校、中学校で同じようにやってきたから、習慣となっているだけだ」
「習慣?」
「ああ。同じ高校に来ていることから、勉強のレベルも同じだから」
「……そっか」
滝橋は相槌を打った。
けれど納得していない顔。さらには悔しささえ滲ませている。訊き出せなかった――そのように、顔で語っている。
七海の縁で今回の仕事を依頼したのは、こうしたことを聞き出そうとしていたのかもしれない。だったら冬弥も腑に落ちた。きっと彼女の目には、自分達の関係が奇異に映っていたのだろう。だからこそ、理由と問い質したかった。
けれど冬弥は、構わず会話を切り上げるように、告げる。
「これからは気を付けるよ」
言いながら再度紙袋を掴み、両手で持つ。会話と同時に腕を休めたので、ずいぶん余力ができていた。
「なんというか、七海には世話になりっぱなしだからさ。あんまり負担を掛けさせないようにしているんだ」
「……なんだか、夫婦みたいなコメントね」
ずいぶんと淡泊に、滝橋が応じた。冬弥は苦笑しそのまま学校へ歩き出す。
そこからしばし、隣同士で学校へ向かう。時折滝橋が適当な話をやる程度で、口数はそれほど多くない。
荷物を持っていても時間は掛からず学校に到着した。冬弥は一人で校舎へ忍び込み、グラウンドから放たれるサッカー部らしき喚声を聞きながら、教室に入り荷物をそっと置いた。
校舎には先生すらいないのか、グラウンドからの声以外は何も聞こえない。どこか不思議な感覚を抱きながら、元来た道を逆走し、校門へ戻る。
「お待たせ」
「見つからなかった?」
待っていた滝橋が問うと、冬弥は頷いた。彼女はこれ見よがしに舌打ちする。その反応は予想の範囲内。
「さて、お昼とかどうする?」
言いながら、時計を確認する。十一時過ぎ。昼には少し早い時間。
「新城君、お腹すいてる?」
「正直に言うと朝軽く食べたから、あんまり」
「私も同じく。七海の反応次第でどうするかは考えよう」
それまでどうするのか――問おうとした時、携帯の着信音が鳴った。
「あ、私だ」
着信音に呟いて、滝橋はポケットから携帯を取り電話に出た。
「あ、七海? うん、どうしたの? ああ、終わったの?」
電話の相手は七海で、目的は済ませたらしい。
「うん。それで昼食なんだけど、新城君もいるから一緒に食べようよ。もちろん私の奢りで。え? いいよ、そのくらいは受け持つからさ。うん、それで……わかった。その時間の電車ね」
言うと、彼女は通話口を軽く塞ぎながら冬弥に問う。
「こっちには十一時半くらいには到着するって」
「そっか。どこで暇を潰す?」
「雰囲気重視で公園にでも行こう」
「それ、自分で言うのか」
滝橋は小さく舌を出しつつ、内容を七海に伝え、電話を切る。携帯電話をポケットにしまうと、冬弥を先導するように歩き始めた。
通学路から少し逸れ、十分程歩くと公園がある。主に石畳と噴水、さらに芝生で構成され、遊具の類は無いのが特徴。芝生があるため、ボール遊びくらいはできるかもしれない。
冬弥が赴いたのは公園の東口。多少太い道路に面した場所で、紅くなり始めた木々が出迎えてくれる。
(そういえば、こういう公園ってあまり来たことがなかったな)
小学生の時も公園ではなく誰かの自宅や、学校周辺で遊んでいたりしたため、公園で何かをしたという記憶が皆無に近い。
冬弥は入口周辺を軽く見渡した。公園に対する思い出が無いにも関わらず、どこか見覚えのある光景だった。
「どうしたの?」
立ち止まる冬弥に、滝橋は首をやって問う。
「いや、少し懐かしいような気がして」
「懐かしい? 来たことがあるの?」
「似た場所だよ」
頭の奥底まで探り、一つだけ思い出した。
公園に関する唯一と言っていい記憶は、まだ予知夢の価値に気付いていなかった小学校低学年の時期。確か七海の親と共に家族ぐるみでショッピングに出かけた時のことだ。繁華街の外れにここと似たような作りをした大きい公園があり、昼食を購入し芝生の上で食べようという算段だったはず。
憶えがあるのはここと同じような入口から入り、芝生の上でサンドイッチを食べことと、走り回ったことだ。
「どこの公園?」
滝橋が再度問うと、場所を教える。すると滝橋は「良く遊んだ場所」と呟いた。
「友達とよく遊んだよ……確かに言われてみると、似た入口があるね」
「そうなのか。でも俺にはほとんど記憶にないな。公園ってあまり行かなかったから」
「へえ、そうなんだ。私は結構あるけど」
言いながら滝橋は軽く伸びをした。その後手で促し、二人は公園に入る。
噴水のある広い場所に出た。片隅には忘れ去られたかのように自販機がある。情緒がないと思ったが、口には出さないことにする。
「何か飲む?」
目線に気付いたのか、滝橋が問い掛けた。冬弥は首を縦に振ったが、
「だけど、ここは俺が出すよ」
「いいよ。そんな」
「昼食奢らせる気でいる滝橋さんに、さらに負担は掛けられない」
「それで貸し借り無しとか?」
「そこまであくどいことはしないよ」
言いながら、冬弥は彼女に飲みたいものを聞き、近くにあるベンチに座るよう言った。
それから自販機に向かい自分にウーロン茶を購入し、滝橋に要求されたものを購入する。
「はい」
ベンチまで赴くと、滝橋に買ってきたオレンジジュースを渡す。彼女は「どうも」と言い受け取ると、プルを開けて飲み始める。
冬弥は隣に座り、ウーロン茶を飲み始める。座ってみて、足が少し重いのに気付く。なんのかんので二時間は店を巡っていた。慣れないことをしたので疲れているのだろう。
「悪いね、休みの日に」
様子を見ていた滝橋が心配するように話す。冬弥は「気にするな」と言いつつ、さらに缶に口をつける。
「文化祭に少し関われたことを、光栄に思うよ」
「あ、言っておくけど文化祭前の仕事はきちんとしてよ?」
「わかってる」
冬弥はベンチに背中を預け、空を見上げる。
快晴、とまではいかないが綺麗な青空で、秋らしくひどく澄んでいた。
一息つくと、冬弥は先ほど行った理衣との会話を思い起こした。滝橋は七海と深く接していたため、疑念を持たれてしまった。誤魔化すことはできたが、こういうケースは初めてだったので、対応が正しかったかどうか気に掛かり――
そこで、疑問が生まれた。
(初めて?)
冬弥と七海が共に行動するのはいつもであり、中学からずっとペアみたいな括りで扱われてきた。ならば少しくらいそれらしいことを訊く人間がいてもよさそうだが、彼女が初めてだった。
(七海もまた、深く話せる友人がいないということか?)
推察すると同時に、胸が僅かに痛んだ。予知夢だ。予知夢のために、七海もまた友人と話そうにも、深く接することができないのではないか。
「新城君?」
声がして、首を滝橋へやった。眉をひそめた彼女の顔。
考え込むのはまずかったかな、と冬弥は感じる。
「そういう雰囲気、よく七海もやるよ」
どこか窺うように、冬弥へ言う。やっぱりそうなのかと、確信はさらに強くなる。
「なあ、滝橋」
「なあに?」
「何でそういう風に感じたんだ?」
彼女の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんだ。冬弥は慌てて言い直す。
「さっきの会話とか、今の雰囲気を察したこととか」
「……そうだね」
滝橋は缶を持たない手を口元に当てつつ、神妙な顔つきで話す。
「きっと他の子も七海が見せる行動は、気付いていると思うよ。けど、あの子一人だけを見ていたなら、よく考え事をする子なんだと思うだけ。けれど、私の場合は新城君の方にも目がいっていたから、二人に共通点を見出すことができた」
「……なるほど」
冬弥自身が人と接しないが故に、不思議と気付かれなかったようだ。
滝橋は、それに続きさらに補足を加える。
「ただ、新城君がいなくても私は七海の行動に気付いていたよ。なんというか、どことなく遠くを見ているような気がして、考える時の七海の様子が、気になっていたんだ」
――おそらく、普段からの察しの良さに加え、冬弥に関わるようになった。それが彼女の推測の根拠だろう。
「別にさ、私は理由を聞きたいわけじゃないんだ。ただ、知らないにしろ何か困っていることがあったら、相談に乗ってくれればいいというか」
「それは七海に対して?」
「両方」
即答して、滝橋は微笑む。優しげな色を見せるその視線に、冬弥は目を逸らした。
「俺まで、ねぇ」
「理由は聞きたい?」
「やめておく」
「いくじなし」
「何とでも言え」
脈無しだよ――心の中で冬弥は呟く。同時に滝橋は悪戯っぽく笑う。もう少し心を開いてもいいんじゃないの、という心の声が聞こえてきそうだった。
だが冬弥にとっては、自分に誰かが近づく要因を少なくしておきたかった。予知夢がある以上心理的に他人の領域に踏み込んだり、踏み込まれたりするのが怖かったのもある。
そこで、冬弥は思案した。予知夢。
(七海を、解放するきっかけとかには、ならないだろうか?)
冬弥は心のどこかで、予知夢が自分によって生み出されているのではないかという感覚を抱いていた。実は逆で七海が原因かもしれないし、あるいは全く違う所に理由はあるかもしれない。
けれど、もし滝橋と交流が深まれば、予知夢に変化が起きるかもしれない。
(でも、いや、駄目だ)
滝橋に迷惑を掛けるわけにはいかない。七海だってそう思うことだろう。
「おーい」
唐突に滝橋が呼び掛けた。冬弥は我に返り、小さく苦笑した。気が付けば、また考え込んでしまっていた。
「悪い」
「たっぷり考えてもいいけど、予告くらいはしてよ。話し掛けようかすごく迷うから」
「もういいよ。大丈夫」
小さく手を振り、冬弥は答えた。
「なんというか、ごめん。悪い癖だな」
「色々あるんでしょ? なら仕方が無いんじゃない?」
何も尋ねなかった。あるいは普段の七海の反応もこのようなもので、あきらめているのかもしれないと冬弥は推測した。
そしてそれを裏付けるように、滝橋は話を続ける。
「たださあ、少しだけ不満なんだよね」
「不満?」
「高校に入ってから七海とはずっと学校で一緒なわけだけど、どこか壁のようなものを感じてさ」
「壁、か」
「他の友人達が気付いていないのは、新城君と話をしていないからだろうね」
「俺と?」
「壁を形成する七海の姿が、至って普通に見えるから。私の場合はさっきも言ったけど、新城君と話をしていてなんとなく気付けた。新城君はなんというか、人と話慣れていないせいか、壁を作るのがバレバレというか。で、同じ目線で見ると、七海も同じような雰囲気というか」
「悪かったな」
「そういう言い方をするということは、否定はしないんだ?」
誘導尋問されている気分だったが、間違ってはいないので、誤魔化すような真似はしなかった。
「……なあ、滝橋」
さらには、別のことを尋ねる。
「七海は、普段からそういう風に接しているのか?」
「そればかりじゃないというのは、フォローしておくよ。屈託ないあの笑顔は、間違いないと思う」
滝橋は笑った。冬弥は心にその言葉がグサリと刺さる。やはり、七海は――
「ただ新城君のことを話す度に見せる笑顔と、普通に談笑している笑顔は、少し違う気がするなぁ。新城君の笑顔は、関係を深く言及するなという意味合いだと思うけど」
「……そっか」
重荷になっているのだろう。そう強く感じられた。
もしかすると滝橋は友人として、七海の負担を取り去れないかという提案を、婉曲的にしているのかもしれない。そうした考えに至ると、冬弥は幾度となく頭に浮かべている言葉を思い出した。
解放――何度も考えてきたことが、頭に過ぎる。だが、予知夢のことを口に出すのは、かなりの勇気がいる。
しかし――冬弥は、横にいる滝橋を見た。彼女になら、七海の負担を軽減させるという意味で、話しても問題ないのではないか。
何より、友人達と談笑する七海の姿を見て、そうするべきではないかと考えた。
「なあ、滝橋さん」
「何?」
缶の残りを一気に飲み干し、彼女は聞き返す。
冬弥は少し間を空けて、ゆっくりと慎重に言葉を選び、問い掛ける。
「もし、何かしら未来が決まっていたとしたら……どんな風に行動する?」




