第7話『知らないから面白い』
第7話『知らないから面白い』
「……あなたは、本当にそれでよいのですか?」
イリシアの問いに、光哲はもう一度頷いた。
「はい。鉱物を作れるなんて、考えただけでも面白そうですから」
「分かりました。それでは、あなたに《鉱物生成》を授けましょう」
イリシアが右手を差し出すと、その手のひらに淡い光が生まれた。
光はゆっくりと光哲へ近づき、胸の中へ吸い込まれていく。
痛みも熱さもない。
ただ、何かが自分の中へ入ってきたような不思議な感覚が残った。
「これで、あなたに《鉱物生成》が備わりました」
「もう使えるんですか?」
「能力は授けましたが、使うには条件があります」
「条件?」
光哲が聞き返すと、イリシアは静かに頷いた。
「あなたが十分に理解していない鉱物は、生成することができません」
「理解というのは、どの程度ですか?」
「組成や構造、性質など、その鉱物について十分な知識と理解が必要になります」
光哲は腕を組んで考え込んだ。
鉄についてなら、それなりに知識はある。
だが、鉱物のすべてを理解しているわけではない。
ましてや、これから向かう世界に未知の鉱物があれば、最初は何も分からないだろう。
「なるほど……それは面白いですね」
「……面白い、ですか?」
イリシアが目を丸くした。
「不便だとは思わないのですか?」
「だって、知らない鉱物を見つけたら、まず調べる必要があるんですよね?」
「はい」
「それで理解できたら、自分でも作れるようになる」
「そうなりますが……」
「だったら、楽しみが増えるじゃないですか」
光哲は嬉しそうに笑った。
「最初から何でも作れたら、調べる楽しみがなくなってしまいますよ」
イリシアはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑みを浮かべた。
「あなたは、本当に変わった方ですね」
「そうですか? 普通だと思いますけど」
「少なくとも、私が予想していた反応ではありません」
今度は光哲が首を傾げた。
便利な能力をもらえて、しかも調べる楽しみまである。
これ以上何を望むというのだろう。
「さて、転生する前に、もう少しお伝えしておくことがあります」
イリシアの表情が少し真剣になった。
「転生先では、あなたは赤子として生まれます。前世の記憶は残りますが、身体は年齢相応です」
「最初からやり直しというわけですね」
「はい。それから、魔法と《Gift》についても注意が必要です」
イリシアによると、その世界では通常、魔法を持つ者とGiftを持つ者は分かれているらしい。
しかし、転生者である光哲には、その原則が当てはまらない可能性があるという。
「つまり、俺にも魔法が使える可能性があるんですか?」
「はい。ただし、必ず使えるとは限りません」
光哲の頭に、魔法への疑問が次々と浮かんだ。
どんな仕組みで発動するのか。
魔力とは何なのか。
実際に見て確かめてみたい。
「……光哲さん?」
「あ、すみません。ちょっと考えていました」
イリシアは小さく息を吐いた。
「もし魔法とGiftの両方を持つことになったら、その事実は隠すことを勧めます」
「珍しいからですか?」
「ええ。本来は存在しないはずの力ですから、望まない注目を集めるかもしれません」
「それは面倒そうですね」
「転生者であることも、むやみに明かさない方がよいでしょう」
「分かりました。気をつけます」
光哲が素直に答えると、イリシアはどこか安心したように微笑んだ。
「それでは、そろそろお別れです」
「そうですか……いろいろとありがとうございました」
光哲は深く頭を下げた。
突然終わってしまった人生を思えば、残念な気持ちは今もある。
それでも、もう一度生きる機会を与えてもらえた。
「あなたの新しい人生が、良きものになることを願っています」
イリシアが両手を広げると、白い空間に柔らかな光が満ち始めた。
光哲の足元から淡い輝きが立ち上り、ゆっくりと身体を包んでいく。
不思議と怖さはなかった。
まるで春の日差しを浴びているような、心地よい温かさがあった。
知らない世界。
知らない魔法。
そして、まだ見たこともない鉱物。
どんなものに出会えるのだろう。
光哲は少しだけ笑った。
やがて視界いっぱいに光が広がり、その意識も温かな輝きの中へ溶けていった。




