第6話『欲しい力』
第6話『欲しい力』
光哲は目の前に広がる白い空間を見渡した。
ここで目覚めてから、驚くような話ばかり聞かされている。
自分は死んでしまった。
そして今、別の世界で生きる機会を与えられている。
「それで、どうなさいますか?」
イリシアが穏やかな声で尋ねた。
「……正直、まだ死ぬつもりなんてなかったんですけどね」
光哲は苦笑した。
製鉄所での仕事も、調べたいことも、まだまだ残っていた。
明日も普通に仕事へ行き、いつものように鉄と向き合うはずだったのだ。
それが突然終わってしまった。
残念でないはずがない。
「元の世界には、もう戻れないんですよね?」
「はい。それはできません」
光哲は小さく息を吐いた。
戻れないものは戻れない。
ならば、これからどうするかを考えるしかない。
魔法が存在し、知らない種族や文化がある世界。
そこで何を見つけ、何を知ることができるのだろう。
「……行ってみたいですね」
「それは、転生を受け入れるということですか?」
「はい。もう一度、生きてみたいです」
イリシアは静かに頷いた。
「分かりました。それでは、転生にあたって一つお話があります」
「何でしょう?」
「あなたには特別な能力を一つ与えることができます」
「能力?」
光哲が聞き返すと、イリシアは《Gift》という言葉を口にした。
魔法とは異なる、生まれ持った特殊な能力のことらしい。
「向こうの世界にも《Gift》を持って生まれる方はいます」
「なるほど。魔法とは別なんですね」
「はい。どのような能力を望むか、考えていただきます」
光哲は少し考えてから尋ねた。
「それって、何でもいいんですか?」
「何でも、というわけにはいきません」
「例えば、どんなことでもできる能力とか」
「それでは限度がありませんね」
「やっぱり駄目ですか」
「神だからといって、何でもできるわけではありませんから」
イリシアが少し困ったように笑う。
光哲もつられて笑った。
確かに、何でもできるなら最初から悩む必要もない。
さて、何がいいだろう。
魔法のある世界なら、強い力が役立つこともあるはずだ。
瞬間移動のような能力があれば便利そうだし、先のことが分かる力も面白いかもしれない。
だが、考えているうちに別のものが浮かんだ。
小学生の頃、鉱物図鑑で見た黄鉄鉱。
大人になってから何度も扱ってきた鋼材。
仕事帰りに見つけ、思わず手に取った銅鍋。
考えてみれば、自分はずっと金属に夢中だった。
知らない金属を見れば調べたくなるし、どうやって加工したのかも気になる。
その興味は、最後まで尽きることがなかった。
しかも、これから行くのは別の世界だ。
地球では見たことのない鉱物が存在するかもしれない。
それを調べるだけでも楽しそうだが、もし自分の手で作れたらどうだろう。
光哲は顔を上げた。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「はい」
「鉱物を作り出す能力って、できますか?」
「……鉱物、ですか?」
イリシアが瞬きをした。
「鉄とか銅とか、そういうものを自分で作れたら面白そうだなって」
「それが、あなたの望む能力なのですか?」
「はい」
「もっと強い力を望むこともできるのですよ?」
「鉱物を作れるのも、十分すごいと思いますけど」
光哲は不思議そうに首を傾げた。
「知らない鉱物を見つけて、それを自分の手で作れたら、きっと面白いですよ」
イリシアはしばらく光哲を見つめていた。
どうやら、まったく予想していなかった答えらしい。
「……あなたは、本当にそれでよいのですか?」
念を押すように尋ねるイリシアに、光哲は迷わず頷いた。




