第40話『兄と過ごす庭』
第40話『兄と過ごす庭』
庭へ出たクロードは、小道を勢いよく走っていく人影に気づいた。
木のそばで向きを変えたその人影が、こちらを見て足を止めた。
アルトだった。
「アルト兄さま!」
「お、クロード。今日は石を探しに来たのか?」
「ううん。ちょっと庭に出たくなって」
「じゃあ、俺と遊ぼうぜ」
「何して?」
「追いかけっこ。お前が俺を捕まえるんだ」
アルトはそう言うと、少し離れたところまで走って振り返った。
クロードも急いで追いかける。
けれど、距離が縮まったと思うたびに、アルトはひょいと向きを変えてしまう。
「待って、アルト兄さま!」
「待ったら追いかけっこにならないだろ!」
「でも、速いよ!」
「じゃあ、こっちまで来られるか?」
アルトが木のそばへ走った。
クロードは後ろを追いかけかけて、木の反対側へ回れば近くに出られると思いつく。
小道を横切って回り込むと、ちょうどアルトが向こうから姿を現した。
「あっ!」
「おっと!」
クロードが手を伸ばすと、指先がアルトの袖に触れた。
「捕まえた!」
「今のはうまかったな」
「兄さまがこっちに来ると思ったんだ!」
「次はそう簡単にいかないぞ」
アルトは笑いながら、今度はクロードの肩に軽く手を置いた。
「じゃあ交代。俺が追いかける番な」
「えっ、ぼくが逃げるの?」
「そう。ほら、先に行っていいぞ」
クロードは慌てて走り出した。
振り返ると、アルトはまだその場に立っている。
それならもっと遠くまで逃げようと足を速めたところで、後ろから足音が近づいた。
「そろそろ捕まえるぞ!」
「まだ駄目!」
「もう走ってるだろ!」
追いつかれそうになったクロードは笑いながら、アルトの手から逃れようと身体をひねった。
だが、すぐに肩をぽんと叩かれる。
「はい、捕まえた」
「早すぎる!」
「さっきはお前も捕まえただろ」
「兄さまはずっと走れるんだもん」
そう言い返したものの、クロードの息はすっかり上がっていた。
アルトも少し汗をかいていて、二人は木陰で休むことにした。
「クロード、前よりずいぶん走れるようになったな」
「そうかな?」
「ああ。前はこうやって一緒に走れなかっただろ」
「今は走れるよ。でも、兄さまの方が速い」
「そりゃそうだ」
アルトが得意そうに笑うので、クロードもつられて笑った。
足を伸ばして座ると、すぐそばに小さな石が落ちているのが見えた。
片側だけ少し光っていて、拾えばまた別の違いが見つかるかもしれない。
クロードは手に取って眺めた。
「……また石か」
「うん。でも、今日は持って帰らないよ」
「珍しいな」
「今は兄さまと遊んでるから」
クロードが石を元の場所へ戻すと、アルトは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「じゃあ、もう一回やるか?」
「うん! でもその前に、兄さまはいつも何して遊んでるの?」
「俺? 走ったり、跳んだり、ほかにもいろいろだな」
「石は探さないの?」
「お前ほどは探さないな。走ってる方が面白い」
「そっか。じゃあ、今度は兄さまの好きな遊びも教えてね」
「今だって俺の好きな遊びだぞ」
クロードは思わず笑った。
追いかけっこを始めたのはアルトだったのだから、確かにその通りだ。
「じゃあ、もう一回!」
「よし。今度は俺が逃げるぞ」
アルトが立ち上がり、少し先で手を振る。
クロードも立ち上がると、今度こそ簡単には逃がさないつもりで駆け出した。
庭には、二人の笑い声がしばらく響いていた。




